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第19話 炎剣士の過去と、テンプレおあずけの焚き火

高性能カーナビ(ガルド)の案内で、ジェイドが潜む北の山際にある古い砦へと向かう道中。私たちは街道から少し外れた開けた場所で、夜のキャンプを張っていた。


パチパチ、パチパチと夜の静寂に爆ぜる、心地よい焚き火の音。

その揺らめく炎の前で、ガルドはジェイドの手配書をじっと睨みつけ、指の骨が白くなるほど強く拳を握りしめていた。周囲には、これでもかと重苦しくシリアスなオーラが漂っている。


丸太に腰掛けた私は、そんなガルドの姿をニヤニヤしながら見守っていた。


(キタキタキターーーー!! 夜! 焚き火! 手配書! 復讐に燃える魔法剣士! これ完全に、ラノベで1億回は読んだ『決戦前夜に主人公が重い過去をヒロインに告白する』最高のテンプレシチュエーションじゃん! さあ語れ! あんたのその重い十字架を、思う存分私に吐き出しなさい!)


心の中でサイリウムを振り回し、今か今かとガルドが口を開くのを待機していた。


――しかし、ガルドは黙ったままだった。

彼はただ真剣な顔で手配書を見つめ、フゥー……と深い、深いため息をつくだけ。

5分が経過し、10分が経過しても、ガルドは炎を見つめてアンニュイな顔をしているだけ。待てど暮らせど、一向に語り出す気配がない。


(……いや、語らんのかいッ!!!)


中身還暦超えのせっかちな私のしびれが、ついに限界に達した。


(長いわ! ため息ばっかりついて物憂げな顔してないで、早く喋りなさいよ! こいつ、ラノベのテンプレの尺の使い方を全然わかってないね!?)


これ以上お預けを喰らってはオタクとしての命に関わる。待ちきれなくなった私は、丸太からグイグイと身を乗り出し、ガルドの鼻先に指を突きつけた。


「おい、お兄さん! いつになったらその重そうな過去話を始めるんだい!? こっちは準備万端なんだから、早く喋りなさいよ!」


「えっ……? あ、いや……」

あまりに猛烈な勢いでプライベートに踏み込んできた十二歳児の迫力に、ガルドは完全に毒気を抜かれた。彼は苦笑いしながら頭を掻くと、観念したように、ぽつぽつと3年前の悲劇を語り出した。


「……ジェイドは俺の幼馴染で、兄のような存在だったんだ。だけど、3年前のあの日……俺たちの商隊が無法者の盗賊に襲われた時、父さんは人としての誇りと、正義を貫いて最後まで戦おうとした」


ガルドの瞳に、激しい憎悪の炎が宿る。


「……それなのにジェイドは、後ろから父さんを突き刺したんだ。ただ自分が生き残るという私欲のために、社会のルールを平気で踏みにじり、悪に魂を売った。あいつの選んだ『無法の道』が、絶対に許されていいはずがない」


「ふむふむ、裏切り不意打ち。いいねぇ」

「よくないだろ!?」

私のサバサバした相槌にガルドがツッコミを入れつつ、さらに言葉を続ける。


「信じられるか? 俺たちを襲った無法者の中に、ジェイドのその冷酷さを気に入った奴がいたんだ。ジェイドは、血を流す父さんを後ろから刺したその足で……あろうことか、俺たちの命と財産を脅かした盗賊団の犬になることを選んだんだよ。自分の命が助かるなら、身内の肉体さえ踏み台にする。それが、あいつのやり方だ」


悔しさに肩を震わせるガルド。しかし、私の脳内ボルテージはさらに上がっていく。


「それだけじゃない。あいつはそこでも、法の網をかいくぐる悪知恵でめきめきと頭角を現した。今や大陸の秩序を揺るがす最大の犯罪組織『終焉の凶刃』の幹部となり、首領ディザスの右腕にまで登りつめている。……大義を汚し、私欲のために人を殺めるジェイドを、俺は、この世界の法は、絶対に許してはならないんだ!」


【身内の裏切り】からの【敵組織での異例のスピード出世】。

おまけに【大ボスの右腕(中ボス)】という、まさにラノベの悪役として完璧すぎる黄金テンプレートの幕の内弁当。これを聞いて、私のバトルジャンキーとしての血が騒がないはずがなかった。


(完璧じゃん!! おばちゃんのリンゴの物価を上げただけじゃなくて、そんな美味しい設定まで盛り盛りの悪役だったわけね! よし、その大ボスの右腕とやらを、私の拳でボコボコにしてやるモチベーションが湧いてきたわ!)


私はガシッと立ち上がると、シリアスに沈み込んでいるガルドの背中を、景気づけにバチィィン! と強烈に叩いた。


「よし! 話はわかったよ、お兄さん! だったらそのジェイドって男をサクッと漆黒連撃で終わらせて、ついでに果物屋の物価高も解決しちゃおうじゃないの!」


「ふぐっ!? ……あ、ああ、そうだな。あいつは俺がこの手で……って、物価高?」


ガルドは私の手加減無しの激励に肺の空気をすべて吐き出しながら、よく分からない単語に首をひねっていた。




やがて夜が明け、朝霧が立ち込める中を私たちは進んだ。

ガルドの完璧なナビゲーションにより、ついに目的の場所――ジェイドが潜む『北の山際にある古い砦』が、目の前にその禍々しい姿を現すのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日19時40分!)

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