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第18話 復讐の炎と、お留守番の三流盗賊

果物屋のおばちゃんから譲り受けた手配書。そこに丁寧に描かれていた「アジトへのご案内マップ」を頼りに、私は目的地である盗賊団『終焉の凶刃』の拠点へとやってきた。


目の前にそびえ立つのは、鬱蒼と茂る不気味な森の最奥に隠された、いかにも悪党が住んでいそうな巨大な山賊砦だ。


「ふーん、ここがアジトだねぇ。ご丁寧にご案内マップまでついているなんて、この世界の手配書は福利厚生がしっかりしてて本当に助かるわぁ」


私はマジックバッグから手配書をひらひらと取り出して現在地を確認すると、ニヤリと不敵に笑った。そして、ピクニックの扉を開けるような軽いノリで、砦の頑丈な大扉をガラガラと開け放った。


――すると、砦の奥の方から、激しい金属音と怒号が響いてくる。


気になってスタスタと奥まで進んでいくと、そこは大広間になっており、数十人のむさ苦しい盗賊たちに囲まれながら、孤軍奮闘している一人の男がいた。

ツンツンとした鮮やかな赤髪の男だ。彼は片手剣に激しい炎を纏わせ、必死に剣を振るっている。しかし、どう見ても数十人に包囲されている多勢に無勢の状況だった。


「くそっ! ジェイドはどこだ! ジェイドを出せぇぇぇ!」


赤髪の男が、憎しみに声を震わせて叫ぶ。

私は懐から手配書を取り出して確認した。そこには『ジェイド・フィティス』という名前と人相書きが載っている。かなりのイケメンだが、今この場で赤髪の男が戦っている雑魚盗賊たちの中に、その顔はなかった。


「あァ? ジェイドの旦那ならとっくにドロンしたよ」


包囲陣の奥から、ひときわデカくて強そうな一番のボス格の盗賊が、下品に鼻を鳴らした。

「旦那は俺にたっぷりと色(金)をつけて、留守番を頼んでな。……へへ、そんな怖い顔すんなって、復讐の炎剣士さんよぉ」


「ふざけるな……! 私はあいつを、ジェイドを殺すために、地獄の底から這い上がってきたんだ!」


赤髪の男の悲壮な叫び。しかし、お留守番の盗賊のボスはケラケラと笑う。

「おいおい、熱くなるなよ。復讐だの正義だの、そんなもんで腹が膨れるか? 旦那を殺したきゃ止めはしねえが、俺は旦那から『ここを守れ』って金を貰ってんだ。仕事はきっちりこなさねえとなぁ!」


盗賊のボスがギラついた大剣を振り回し、強烈な一撃を放つ。

赤髪の男もなかなか腕が立つようだが、この圧倒的な人数差と、思いのほか手慣れているボスの連携に、じわじわと体力を削られて苦戦を強いられていた。


(うわー。ラノベで100万回は見た『復讐に燃える熱血主人公が、目的の仇に逃げられて留守番の三流悪役に苦戦するイベント』そのまんまじゃん! 様式美だねぇ)


一人で限界オタクのように感動していたが、このままだと肝心のジェイドの居場所が分からなくなってしまう。

私はスタスタと、殺気立つ盗賊たちの包囲陣の中へとコンビニに入るノリで割り込んでいった。


「お取り込み中のところ悪いんだけどさ。私もその、ジェイドって男を探しているんだよね。誰か居場所を教えてくれないかい?」


「――は?」


その場の空気が一瞬で凍りつき、赤髪の男と盗賊たちの動きがピタッと止まった。全員の視線が、場違いすぎる十二歳の黒髪美少女へと注がれる。


「き、君!? こんなところで何をしている! 危険だ、今すぐ逃げるんだ!」

赤髪の男が血相を変えて叫ぶ。良い奴だな、お前。


しかし、盗賊のボスは下品な目をさらにギラつかせ、リザの身体を頭から爪先まで舐めるように値踏みした。

「あァ!? どいつもこいつもジェイドの旦那、旦那って……。おいおい、今度はどこのお嬢ちゃんだ? ――って、おい! よく見りゃこいつ、めちゃくちゃ器量じゃねえか! 今日はツイてるぜ!」


男は手下たちに向かって、大声で怒鳴り散らす。

「ジェイドの旦那の居場所が知りたきゃ、まずは俺たちの財布を温めてからにしな! 野郎ども、そのガキを捕まえろ! 商品価値が下がるから、傷はつけるんじゃねえぞ!」


「うおおお!」と歓声を上げ、数十人の盗賊が一斉に私に襲いかかってきた。


「やれやれ……。あの偉そうなボスだけ残せば、あとは全員片付けていいかねぇ」


私はサバサバと深いため息を吐くと、手足に黒属性の魔力を収束させた。

迫りくる刃の嵐の中へ、私は一歩を踏み出す――。


それから、わずか数十秒後。

大広間には、呆気にとられて開いた口が塞がらない赤髪の男と、さっきまで偉そうにふんぞり返っていた盗賊のボスだけが残されていた。床には、ピチピチと痙攣して白目を剥いた手下たちが美しく敷き詰められている。


私は拳の塵をパッパと払うと、生き残ったボスの正面へとスタスタ歩き出した。


「お、おいおいおい、冗談じゃねえぞ……! なんだ、この化け物は……!」

あまりの理不尽な戦闘力に、ボスの顔から一瞬で血の気が引く。彼は大剣を放り出すと、床にドカンと膝をついた。


「――わかった! わかったから! ジェイドの旦那の居場所を教えりゃいいんだろ!? あいつへの義理なんて、俺には1ゴールドの価値もねえんだ! 頼むから命だけは、命だけは勘弁してくれッ!」


もの凄い勢いでプライドをドブに捨てて命乞いを始めるボス。

背後では、赤髪の男が「き、君は一体何者なんだ……!?」とガタガタ震えて驚いている。


ボスはガタガタと手を震わせながら懐から地図を取り出し、素早くある地点にペタッと印をつけた。

「へ、へい! これを見てくれ、この地図だ……! ジェイドの旦那なら、今はこの北の山際にある古い砦にいるはずだ。――さ、さっきは取り乱してクソ面白ぇことを言っちまったが、あれはただの冗談、ビジネスの付き合いってやつだ! 頼むから勘弁してくれ、この通りだッ!」


私は差し出された地図をサバサバと受け取ると、必死に床に頭を擦り付けるボスを冷ややかな目で見下ろした。


「おい。もう二度と人を襲ったりするんじゃないよ? 次にやったら容赦しないからね?」


「へ、へい! もちろんでございますお嬢様! 今日を限りに完全に改心します!」


「よし」

床にペタペタと頭をこすりつける盗賊を見て、私は満足そうに頷き、用は済んだとばかりに出口に向かって振り返り、歩き出した。


――その瞬間。床に伏せていた盗賊の男の目に、ヌラリと暗い邪悪な光が戻った。


(ハッ、バカめが! 甘ちゃんが油断しやがって! 後ろがガラ空きなんだよッ!)


男は懐から隠し持っていた短剣を素早く抜き放つと、私の無防備な背中を目がけて音もなく跳ね起きた。

背後の赤髪の男が「しまっ――」と悲鳴に似た声をあげるより早く、盗賊の放った凶刃が私の首筋へと肉薄する。


が。


ガキィィィィン!!!


「ぶっばふぁーーー!?」

私の意識とは関係なく、またしても肉体が勝手に作動した『オートカウンター』の黒属性裏拳が、ボスの顔面にクリーンヒットした。男は鼻から派手に体液をぶち撒けながら後方へ吹っ飛んでいき、砦の壁に人間型のクレーターを作ってそのまま完全に沈黙した。

私は右の拳をふーっと吹いて、やれやれと肩をすくめる。


「ありゃ? この世界の悪役って、どうしてこうも後ろから襲うのが好きなのかねぇ。お約束の様式美だけどさ」


お土産代わりに不意打ちを処理し、そのまま砦を立ち去ろうとする私の背中に、赤髪の男が慌てて声をかけてきた。

「ま、待ってくれ!」


「ん?」


私がサバサバと立ち止まって振り返ると、男は自分の炎の剣を鞘に収め、驚嘆の眼差しを私に向けて一歩近づいてきた。


「……たまげたな。あんた、それだけの規格外の力がありながら、あのジェイドを追ってるのか? 俺はガルド・ナヴェンジ。頼む、俺も一緒に連れて行ってくれ! 足手まといにはならない、あんたの盾にだってなってやるさ!」


復讐に燃える男からの熱い共闘の申し出。

私は少しの間「うーん」と考えたあと、マジックバッグからさっきの地図を取り出し、ガルドの目の前に差し出した。


「この地図の場所、あんたわかるかい?」


ガルドは地図の印を覗き込むと、ハッと目を見開いた。

「そこか……! ああ、よく知ってる場所だ。道中の危険も含めて、ルートは全部俺の頭の中に入ってる。案内するから、俺を連れて行ってくれ。絶対に損はさせない!」


「よし、じゃあ案内しな」


私がサバサバと即答すると、ガルドは力強く拳を握りしめた。

「よし、交渉成立だな! ああ、目的地までの案内なら完璧にこなしてやるよ!」


ガルドが頼もしく胸を張る横で、私は心の中で盛大にガッツポーズをキメていた。


(うっひょー、ラッキー! またしても道案内用の『高性能カーナビ』を無料でゲットしちゃったじゃん♪ やっぱり手配書のイベント回収は裏切らないねぇ!)


こうして、新たなカーナビ(復讐者)を仲間に加えた私は、ご機嫌なスキップでもしそうな軽い足取りで、次のバイト先(ジェイドの隠れ砦)へと向かうのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日19時40分!)

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