第17話 十二歳の退屈と、果物屋を困らせる手配書
あの帝国の侵略を『漆黒連撃』で木っ端微塵にしてから、早いもので一ヶ月の月日が流れた。
私、リザ・ウェカムは、相変わらずツヤツヤ黒髪の清楚な美少女(12歳)。……だが、中身の精神年齢はすでに還暦を突破し、バチバチの還暦ライフを爆進中である。
「あー……。今日も、びっくりするほど平和だねぇ……」
帝国の危機を救って英雄になって以降、この国はますます治安が良くなり、私の黒属性チート能力は完全に使い道を失って持て余されていた。
バキバキに凝り固まった肩を回しながら、私は老婆のような深いため息をつく。
「たった一ヶ月でこれとか、この先どうすりゃいいのさ。どこかに一人くらい、元気で骨のある強い敵キャラでも落ちてないかねぇ……」
お気楽な独り言を呟きながら町を歩けば、あちらこちらから「リザちゃん、こんにちは!」「今日も可愛いねぇ!」と明るい声が飛んでくる。町の悪党を絶滅させた私は、相変わらずこの国の絶対的な人気者だ。
「おーい、リザちゃん!」
トボトボ歩いていると、お馴染みの威勢のいい声に呼び止められた。地元の果物屋のおばちゃんだ。
「おばちゃん、こんにちは」
「リザちゃん、相変わらず可愛いねぇ! ほら、もぎたてのリンゴ食べな!」
「お、ありがとう! いただきまーす!」
私はお礼を言うと、受け取った真っ赤なリンゴをそのままワイルドに丸齧りした。シャキッと甘い果汁が五臓六腑に染み渡る。美味い。
と、そこで、私は並べられている果物の価格表を見て、ふと眉をひそめた。
「あれ? おばちゃん、全体的にちょっと値上がりしてない? 何かあったの?」
私がサバサバと尋ねると、おばちゃんは「あぁ、これだよ、これ!」と、店先の目立つ場所にベタベタと貼られている一枚の手配書を親指でさした。
そこには、人相の悪い男たちの似顔絵と、それなりの額の賞金が書かれている。
「なんでもね、隣のレプティリア王国を拠点にしてるさ、『終焉の凶刃』だか何だかっていう物騒な名前の盗賊団がね、こっちの国まで手を伸ばしてきてるらしくてさ。街道の馬車が襲われて、物流に影響が出て物価が上がっちまったのさ。本当に嫌な世の中だよねぇ。早く誰か何とかしてくれないかねぇ……」
その瞬間、私の目はキラーン☆と、今日一番の輝きで邪悪に光り輝いた。
(キタキタキターーーー!! ラノベ定番の『物流を脅かす大規模な盗賊団の討伐イベント』ついに発生じゃん!!)
「おばちゃん、この手配書もらうね!」
「えっ? あ、ちょっと、リザちゃん!?」
引き止める声を完全にスルーし、私は手配書をバリッと力任せに剥ぎ取ると、ご機嫌な足取りで自宅に向かって脱兎のごとく走り出した。
家に滑り込むなり、私はワクワクしながらクローゼットを開ける。
エンドゲームさながらに先月稼いだ大金で購入した、最新の高級魔道具『マジックバッグ』を広げ、中に必要最低限の荷物や着替えを爆速で詰め込んでいく。
「リザちゃん、そんなに慌てて荷物をまとめてどうしたの?」
奥から出てきたお母さんが、目を丸くして不思議そうに尋ねてくる。
私はリュック型のマジックバッグをパッと肩に背負うと、お母さんに向かって親指をグッと立てて不敵にニヤリと笑ってみせた。
「お母さん、またちょっと高時給のバイトに行ってくるね!」
まるで「コンビニの深夜ワンオペのシフト入ってくるわ」くらいの信じられないほど軽いノリで、私は全力で家を飛び出した。
待っていろよ、終焉の……なんだっけ? 終焉の包丁だか何だか知らないけどさ!
物価を上げやがって、果物屋のおばちゃんを困らせた不届きな盗賊団め!
中身が還暦を超えた十二歳児が、今からあんたらのアジトをまとめて綺麗に更地にしてやるからね!
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