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第16話 皇帝の改心と、お土産代わりの後ろ猿臂

「ば、バケモノめ……! 跡形もなく消え去りなさい!!」


大魔導士ドミナスが悲鳴を上げ、全身の魔力を注ぎ込んだ必殺の禁忌魔法を放つ。王宮を丸ごと飲み込むような闇の奔流が、凄まじい轟音を立てて私へ殺到した。


だが、本気を解放した私――リザ・ウェカム(12歳・中身還暦)の敵ではない。


「これで、終わりだよ!!」


私はどっしりと腰を落とし、空手の基本にして最強の三連撃を、全身全霊の黒属性魔力と共に真っ直ぐ叩き込んだ。


「漆黒連撃!!!」


一撃目の順突きが空間を震わせ、二撃目の逆突きがドミナスの禁忌魔法を一瞬で消し飛ばす。そして仕上げの三撃目――放たれた強烈な回し蹴りが、闇の魔力を孕んだ漆黒の巨大な三日月と化して空間を奔り、ドミナスの腹部へと炸裂した。


ドゴォォォォォォォン!!!!!


「ぶふっ!?」

ドミナスは防壁魔法ごとまとめて吹き飛ばされ、王宮の頑丈な大理石の柱を三本ブチ折りながら壁へと激突。完全に心が折れた大魔導士は、白目を剥いてその場に崩れ落ち、気絶した。


「ふぅ……。やっぱり全力で体を動かすと、スッキリするねぇ♪」


私がサバサバと息をついた、まさにその瞬間。

「ハハハハッ! 残念だったな、チェックメイトだァァ!」


物陰から、ボロボロになりながらもしぶとく生き残っていた聖騎士ウォードが飛び出してきた。彼は狂った笑みを浮かべ、私の死角である真後ろから、禍々しい短剣を容赦なく突き刺してくる。


しかし――その刹那、私の肉体が前世の、そして今世の12年間の修練によって、思考よりも早く勝手に反応した。

振り返ることもなく、後ろに向かって鋭い肘打ちをパシィィン! と最小限の予備動作で繰り出す。空手の基本技『後ろ猿臂(うしろえんぴ)』だ。


ドガァァァン!!!


「ぐえっ!?」

変な悲鳴を上げながら、ウォードが真上に向かって猛スピードで吹っ飛んでいった。そして――王宮の豪華な天井に、頭からズボッ! と突き刺さって綺麗に固定された。


天井から下半身だけをぶら下げ、ピチピチと足を動かしているウォードは、まるで畑から生えた大根のようだ。ポカンとそれを見上げて、私はサバサバと首を振る。


「ありゃ? 背後ばっかり取られるから、体が勝手にオートカウンターしちゃったじゃないか。日常生活で後ろから急に驚かされたら殴っちゃうね。こりゃ支障が出るねぇ」


そんな緊迫感ゼロの呟きが響く中、玉座の後ろでは、さっきまで生意気だった幼帝フォルティスがガタガタと小鹿のように震えていた。


私はスタスタと玉座まで歩み寄ると、小さな皇帝の頭に「コラッ!」と優しいゲンコツをお見舞いした。


「あぅっ!?」


私は腰に手を当て、中身還暦超えの、ガチのベテラン主婦トーンで説教を始める。

「国のトップがそんなに甘ったれてどうするんだい。これからは、そこのおじいちゃん(リジドール)やお兄さん(ジウス)の言うことをちゃんと聞いてさ。民を幸せにする、良い国にしなよ」


小さな私に腕力で圧倒され、かつ今まで誰も注いでくれなかった大人の包容力で真っ正面から叱られた幼い皇帝は、一瞬で顔を真っ赤に染めた。そして、涙目を浮かべながら私の小さな手をギュッと握りしめてきた。


「う、うるさい! 朕にここまで意見した者は……生まれて初めてだ! ……リザ! お前、朕の王妃になってくれ!」


「……は?」

まさかの十歳児からのストレートなプロポーズに、流石のアラフィフ(中身)も一瞬だけ呆気にとられる。だが、すぐにフッと還暦超えの優しい笑顔を浮かべると、彼の頭をポンポンと親しみ深く撫でてやった。



「ふふ、ありがと。でもねボウズ。私、自分より強い相手じゃないと結婚しない主義なんだわ。……だけど、そうだね。腕力じゃなくてさ、私より『心が強い皇帝』に、あんたがなれたら。その時は、考えてやってもいいかねぇ」


「……っ!」

フォルティスはゴシゴシと涙を拭うと、目をキラキラと輝かせ、最高の男の顔になって胸を張った。

「うむ……! 朕、お前より心が強い、世界一の皇帝になってみせる!」


生意気だったクソガキの、見事な改心である。実に素晴らしいイベント回収だ。


「よしよし。あー、高収入のバイトも終わったし、お腹空いたから家に帰って昼寝しよ!」


大満足の笑顔を浮かべた私は、リュックを背負い直した。

背後では、ジウスとリジドールの二大有能カーナビたちが、感動のあまりボロ泣きしながら私の背中を見送っている。


「リザ殿ォォォ! 素晴らしい御言葉、生涯忘れません!」

「我が国を……救っていただき、本当に……ありがとうございましたぁぁ!」


(いや、だから二人とも泣きすぎだって。熱苦しいねぇ)


私はサバサバとした軽いノリで背中越しにひらひらと手を振ると、夕日の差し込む王宮を後にした。

さあ、お母さんの待つ平和な我が家へ帰ろう。


中身還暦の12歳児による、ちょっとした「帝国を更地にするバイト」は、これにてめでたく幕を閉じるのだった。


(第一章・完)

これにて第一章完結です!

続きの第二章はまだプロットを作っている段階なので今しばらくお待ちください!

「第一章は面白かった」「早く第二章を書いてくれ」と思ってくださったら、画面下の【ブックマークに追加】や、【評価の☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

よろしくお願いいたします!

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