第15話 魔導の深淵と、二人を背負う還暦の意地
王宮の最深部、玉座の間。
空間を侵食するような不気味な笑みを浮かべ、大魔導士ドミナス・ノイラームが長い杖を静かに掲げた。
「フフフ……裏切り者の騎士どもに、不気味な黒髪のガキ。ちょうどいい、私の至高なる研究のために、まとめて禁忌の魔術の実験台になってもらいましょう」
ドミナスが禍々しい詠唱を口にした瞬間、王宮全体がまるで激しい地震に見舞われたかのようにズズズと揺れ動いた。部屋中に、深淵の底から湧き出たような黒属性の超極大魔法が狂い咲く。
これまでのボスとは完全に次元が違う、世界を滅ぼしかねない圧倒的な闇の魔力。
すでにこれまでの激戦で鎧も肉体も限界を迎えていたジウスとリジドールは、その凄まじい圧力に気圧され、ガタガタと膝を震わせた。
「くっ……なんという魔力だ……! 体が、動かん……!」
「申し訳ない、リザ殿……! この老骨、足がすくんで、一歩も……!」
二人は屈辱に歯を食いしばりながら、その場に深く跪いて身動きが取れなくなってしまう。
「ハハハ! 哀れですねぇ。まずはその無能な元最高幹部たちから、跡形もなく塵にしてあげましょう!」
冷酷に言い放ったドミナスが、杖の先から二人を確実に消滅させるための必殺の黒魔術を放った。漆黒の光線が、無防備なジウスとリジドールへ向かって一直線に迫る。
「あー! ちょっと待った!!」
その光線の前に、私がスタスタと軽い足取りで割り込んだ。
「その二人は私の大事なカーナビなんだからさぁ! 勝手に壊さないでくれる!?」
私は前世の道場で叩き込んだ空手のあらゆる防御技をフル稼働させ、黒属性のチート魔力を両腕に纏わせてドミナスの魔法を真っ向から受け止める。
だが――ドミナスは私と同じ、最高峰の黒属性の使い手。しかも、後ろの二人を盾になって完璧に守りながら戦わなきゃいけない。いつものように避けることも、受け流すこともできないのだ。
ドカァァァァァァァン!!!!!
玉座の間が崩壊しかねないほどの、凄まじい大爆発が巻き起こる。
「くっ……! さすがに、二人を背負いながら真っ向勝負だと……ちょっと重たいねぇ……!」
爆煙と爆炎を十二歳の小さな体で強引にねじ伏せ、二人を完璧に守りきったものの、衝撃で私の服の袖はボロボロに破け散っていた。額からは、異世界に来て初めてとなる冷や汗がツラリと流れる。
自分たちを必死に庇い、帝国の最高火力をその小さな背中で受け止め続けてくれる私の姿を見て、ジウスとリジドールの目から大粒の涙が溢れ出た。
「り、リザ殿……っ! 俺たちの不徳のせいで、貴殿にこのような泥臭い苦戦を強いてしまうとは……!」
「面目次第もない、リザ殿! 私たちのことなど構わず、あのバケモノを、あのドミナスを討ち取ってくだされぇ!」
二人の熱い男泣きのゲキが玉座の間に響き渡る。
それを背中で聞きながら、私は煤で汚れた顔に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「バカ言わないでよ、お兄さんもおじいちゃんも。私さぁ、前世でも今世でも、身内を置いて自分だけ逃げるような薄情な女じゃなかったんだよね。そんな生き方、私のポリシーが許さないわけ」
私はゆっくりと立ち上がると、ドミナスをまっすぐに見据えた。
「――へえ、でも流石に、ちょっと怒ったぞ」
ゴォォォォォオオオオン!!!
次の瞬間、私の全身から、これまでの戦いとは明らかに密度の違う「本気の黒属性魔力」が、天を衝くような漆黒のオーラとなって立ち昇った。王宮の石壁がそのプレッシャーだけでピキピキと砕け散っていく。
「な、何ですかその魔力は……!? 馬鹿な、人間が出していい出力ではないですぞ……!?」
さっきまで余裕ぶっていたドミナスの顔が、初めて恐怖で引きつり始める。
「よくも私の服をボロボロにしてくれたねぇ。次のワンパンで、あんたが用意した陰険大魔導士のプロット、跡形もなく完全にぶち壊してやるからさ!」
怒り狂う中身還暦(60歳)のガチ空手家。
リザ・ウェカムの本当のチート能力が、今ここに完全大解放される――!
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