第14話 幼き傀儡と、二人目の渋すぎるおじいちゃんカーナビ
最終防衛システムの巨大ゴーレムをアッパー一件で宇宙まで文字通り物理的に撤去した私は、ジウスと共に帝都の巨大な城門をくぐり抜けた。
白い石畳が続く美しい王宮の敷地へ一歩踏み出した、その時だった。
「はぁ……はぁ……! 待て、ジウス……っ!」
前方から、激しく息を切らせながらこちらに向かって走ってくる影があった。見れば、さっき私が『手刀打ち』で優しく眠らせたはずの老騎士、リジドール閣下だ。鎧はバキバキに砕けたままだが、その瞳には悲壮な決意の光が燃え盛っていた。
リジドールはジウスの肩を掴み、血を吐き出すような声で訴えかける。
「お前たちの刃……まだ鈍ってはおらんな? ……あの玉座にいるフォルティス陛下は……大魔導士ドミナスという化け物に心を操られた、ただの哀れな傀儡にすぎんのだ。今の帝国は、あの大魔導士の私利私欲のために狂わされている!」
老騎士は私に向き直ると、深く頭を下げた
「リザ殿、貴殿らの底知れぬ強さがあれば……あのドミナスを討ち、帝国の長い宿痛を断ち切れるやもしれん。……来い、玉座の間へ私が最短ルートで案内しよう。我が主を、あの禍々しい呪縛から救い出してくれ!」
(お、今度はおじいちゃんカーナビが仲間に加わったじゃん! 画面の平均年齢が一気に上がって、どんどん渋くなっていくねぇ)
サバサバとそんなことを呑気に考えながら、私は二大高性能カーナビとなったジウスとリジドールの案内に従い、王宮の複雑な廊下を猛スピードで駆け抜けた。
バァァァン!!!
リジドールが重厚な大扉を押し開き、私たちはついに帝国の心臓部――『玉座の間』へと足を踏み入れた。
しかし、そこに置かれた豪華絢爛な金の玉座に座っていたのは、およそ冷酷な侵略国家のトップとは思えない人物だった。まだ十歳にも満たないくらいの、小さな男の子だ。彼は身の丈に合わない大きな王冠を頭に乗せ、偉そうにふんぞり返っている。
「ありゃ? なんだい、まだほんの子供じゃないか」
思わずサバサバとした素の感想が口から漏れる。
私の声に気づいた幼帝フォルティスは、顔を真っ赤にして玉座から立ち上がり、私たちを指差した。
「ジウス! リジドール! 何をしに来た、この不届きな裏切り者どもめ!」
「……いいえ、陛下。俺たちは裏切りにきたのではありません」
ジウスが一歩前に出て、光の大剣の柄に手をかけながら静かに告げた。
「あなたを……そしてこの帝国という国を、本当の絶望から救いにきたのです」
「……フォルティス陛下」
リジドールもまた、その場にドカンと深く跪き、重厚な声を響かせる。
「お怒りはごもっとも。この老骨、事態が収まったのちはいかなる処罰も受ける覚悟にございます。……ですが! 陛下を真に裏切り、この帝国を内側から貪り喰らっている本物の狂人は、あのドミナスめです! 陛下、今しばらくお待ちくだされ。このリジドールが命に代えても、あの妖術師の首を撥ねてご高覧に入れましょう!」
二人の忠臣による命懸けの直訴。しかし、幼い皇帝の心には届かない。フォルティスは耳を塞ぐようにして、狂ったように叫び散らした。
「ええい! うるさい、うるさい! お前たちの言うことなど信じぬ! ドミナス! ドミナスはいるか! はやく奴らを処刑しろ!」
――その瞬間、玉座の横の空間が、水面に石を投じたかのようにぐにゃりと歪んだ。
「おや……騒々しいですねぇ、フォルティス陛下。私に何かご用ですか?」
闇の中から染み出すようにして現れたのは、不気味な黒い魔導ローブをまとった黒髪の男。長い杖を携え、底の知れない冷酷な笑みを浮かべた――大魔導士ドミナス卿その人であった。
「ドミナス! そこにいる不届き者どもをすべて殺せ! 皇帝としての勅命だ!」
フォルティスが必死に叫ぶ。
ドミナスは「御意のままに、我が可愛い人形(陛下)」と心の中で嘲笑うかのように恭しく一礼すると、ゆっくりと私たちに向き直った。その目は、私とジウス、そしてリジドールを蛇のように舐め回し、じわじわと不気味な笑みを深めていくのだった。
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