第12話 鉄壁の誇りと、優しき漆黒の手刀
老騎士リジドール閣下が、地属性の極大魔力を帯びた国宝級の防具『大地の盾』を正面に構える。その後ろでは、精鋭の盾部隊が一糸乱れぬ完璧な包囲陣形を組み、重厚なプレッシャーを放っていた。
リジドールは私の『三戦』の構えを凝視し、深く地を這うような声で言った。
「その若さでそれほどの覇気を放つか。……よかろう、子供扱いして手加減する無礼はせん。貴殿をこの国を脅かす『一人の武人』と認め、容赦なく全力で討ち果たしてやろう!」
おじいちゃん、最高に渋い。これこれ、ラノベの強敵はこうでなくっちゃ。
私はサバサバと不敵に笑い、軽く肩の力を抜いた。
「ふふ、認めてくれてありがと。でもさ、おじいちゃん。私が本気で戦ったら、あんた本当に死んじゃうからさ。――だから、本当にちょっとだけ、手加減するね?」
「なに……?」
リジドールが怪訝に眉をひそめた瞬間、私は手足に黒属性の魔力を収束させ、地を蹴った。
「それっ、ワン・ツー・スリー……じゃなかった、『漆黒連撃』!」
まずはワン(順突き)。私の小さな左拳が、国宝級の盾のド真ん中を綺麗に捉える。
ピキピキピキッ――!
当たった瞬間、大地の加護を受けているはずの盾の表面に、巨大なひび割れが稲妻のように走った。
「なっ……!?」
驚愕するリジドールの視界に、すぐさまツー(逆突き)の右ストレートがめり込む。
ガガガガギィィィン!!!
鼓膜を突き刺すような金属の崩壊音と共に、帝国が誇る絶対の『大地の盾』が、まるでただの薄いガラス細工のように粉々にぶち砕け散った。
「ば、馬鹿な……!」
盾を失い、完全に無防備になったリジドールのガラ空きの胸部へ、仕上げのスリー(回し蹴り)――私の綺麗な右足が容赦なく突き刺さる。
ドゴォォォォォン!!!
一応、私としてはこれでも最大限に手加減をしたつもりだった。だが、還暦(60歳)の執念と黒属性チートが合わさった物理的な衝撃波は、生身の老騎士が耐えられる限界を遥かに超えていた。
「が、はっ……!?」
リジドールの巨躯が、まるで大砲から射出された砲弾のような猛スピードで後方へと吹っ飛んでいく。
ズドォォォォォン!!!と、背後に完璧な包囲陣を敷いていた精鋭盾部隊の真ん中に、音速の老騎士が背中からダイレクトに激突した。
「ひぃっ!?」「閣下が降ってきたァァ!」「ドガガガガッ!」と、兵士たちが悲鳴を上げながらドミノ倒しのように次々と巻き込まれていく。帝国自慢の鉄壁の陣形は、味方の大将が吹っ飛んできただけで物理的にめちゃくちゃに崩壊した。
そんな狂乱のド真ん中で、鎧をバキバキに破壊され、口から血を吐きながらも、リジドールは部下に両脇を支えられながら執念で大地を踏み締めた。そして驚くべきことに、仁王立ちのまま意識を保って耐えてみせたのだ。
「……がはっ! ……見事、見事なり、黒髪の少女よ……。我が盾と鎧……そして、誇り……。完敗、である……」
私の直撃を食らってなお立ち続ける、おじいちゃんの凄まじい根性と武人の意地。
私はオタクとしての感動を通り越し、一人の空手家として心からの敬意を表し、まっすぐ彼を見つめた。
「あんたの忠誠も意地も、最高に格好よかったよ。……おじいちゃん、本当によく頑張ったね。今はもう休んで、あとは私に任せな」
私はそっと歩み寄ると、彼の首筋へ、優しくパシッと『手刀打ち』を見舞った
極限状態の執念だけで立っていたリジドールは、すべてをやり遂げて満足したような穏やかな顔を浮かべ、フッと意識を失って崩れ落ちた。私はその身体を部下の兵士たちへと引き渡す。
巻き込まれてひっくり返っていた盾部隊の兵士たちは、自分たちの絶対の象徴だった『鉄壁の閣下』が真っ向から砕かれ、気絶させられた光景を見て、ついに大パニックを起こした。
「ひ、ひぃぃぃ! 閣下が……あの鉄壁の閣下が正面から粉砕されたァァァ!」
「陣形がめちゃくちゃだ! 撤退だ! 閣下をお救いして、一目散に帝都へ撤退しろォォォ!」
兵士たちは大泣きしながら、気絶したリジドールを必死に抱え上げ、武器を放り出して一目散に帝都へと逃げ帰っていった。
「ふぅ……。やっぱり、骨のあるおじいちゃんは戦闘の噛み応えがあっていいねぇ」
私がサバサバと汗を拭っていると、横でジウスが「主の『漆黒連撃』……国宝の盾すら紙クズ同然に破るとは、やはり神をも凌駕する破壊の権能……!」と、やっぱり大真面目な顔で手帳にガリガリとメモを書き込んでいた。
(いや、だからそれメモるのやめてくれる!? あと、おじいちゃんを吹っ飛ばしたの私だからね! また帝都の奴ら、ジウスが魔獣をけしかけて盾を粉砕したって勘違いするに決まってんだろ!)
こうして帝都直前の最後の防衛線も物理的に崩壊し、私たちの前には、いよいよ帝国の心臓部である『帝都』への道が、ぽっかりと更地の状態で開かれたのである。
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