第11話 老騎士の忠情と、聖騎士の正義
ウォードを正拳突きで血反吐と共にぶっ飛ばし、帝都への最後の関所をあっけなく突破した私とジウス。
踏み荒らされた平原を歩きながら、私はリュックを背負い直してサバサバとお気楽に笑っていた。
「あー、あの白髪のお兄さん、なかなかしぶとかったねぇ。でも負け惜しみの捨て台詞はラノベのライバルキャラっぽくて100点満点だったわ!」
「リザ殿の技の威力、まさに恐るべき破壊力でした……」
横を歩くジウスは、私の言葉にいちいち深く感銘を受けながら、大真面目な顔で手帳を片手に状況を解説してくれた。
「ウォードは転移の魔道具で帝都に逃げ帰りましたが、今頃は帝都の作戦本部もひっくり返るほどの大騒ぎになっているはずです」
「へえ、あいつら今頃どんな顔してるのかな?」
「間違いなく、先に逃げ帰ったマディウスとウォードの二人が、大魔導士ドミナス殿の前で『ジウスがルナリアの禁忌の魔獣を呼び覚ました!』と大パニックを起こしているでしょうね」
(ぷっ、あははは! 私はいつの間にか古代の魔獣扱いされてるわけね。まあ、ラノベ特有のすれ違い勘違いコメディっぽくて最高に面白いからいいか!)
内心で大ウケしている私をよそに、ジウスはさらに神妙なトーンで言葉を続けた。
「そして……あの二人すら逃げ帰ったとなれば、次に出てくるのはただ一人。帝国の最後の良心にして、最強の盾――リジドール・シュダホルン閣下しかいません」
「リジドール?」
「ええ。閣下は地属性の鉄壁の使い手。我が光の大剣でも傷一つつけられぬほど頑固で、強固な守りを誇る御方なのですが――」
ジウスが説明をしている、正にその時だった。
ズシーン……! ズシーン……!
前方の街道から、大地を揺らす重々しい足音が響いてくる。
立ち込める土煙の向こうから現れたのは、渋い黄土色の髪をした、身の丈ほどもある巨大な鋼鉄の盾を構えた威厳のある老騎士――リジドール閣下だった。その後ろには、同じく鉄壁の盾を構えた精鋭の盾部隊がずらりと並んでいる。
リジドールは巨大な盾を地面にドンと突き立てると、重厚な声を発した。
「ジウスよ。貴殿が帝国に反旗を翻すとは驚いたぞ。ドミナス殿の前でマディウスたちが『黒髪の魔獣』とやらに怯えておったが……まさか、その隣にいる幼き少女のことではあるまいな。何にせよ、このリジドールの盾、皇帝陛下への忠誠にかけて一歩たりとも退きはせん!」
「……気づいているのでしょう、リジドール閣下!」
ジウスが悲痛な声を張り上げ、一歩前に出る。
「帝国がどれほどの罪を重ね、他国の民を苦しめているか! あなたほどの御方が、その剣と盾を振るうべき相手は、俺ではなく、あの玉座に座る狂った者のはずだ!」
静寂が流れる中、リジドールは深くため息をつき、静かに首を振った。
「……ジウス、お前の言う『正義』は正しい。だがな、正しいだけでは国は動かんのだ。この老骨が捧げたのは、皇帝個人への忠情ではない。帝国という歴史、この土地に生きる者たちの秩序そのものだ」
老騎士の瞳に、覚悟の光が宿る。
「たとえ今の国が狂気に満ちていようとも、私は帝国に忠誠を誓う。お前がその秩序を壊す裏切り者だと言うなら……私は喜んで、悪の片棒を担いで見せよう。さあ、剣を抜け、ジウス!」
(うわぁぁぁぁぁ!!!!! コレだよコレ!! ラノベで一番格好いい『国の悪政に気付きつつも、自分の信じる忠誠と秩序のためにあえて敵の盾となる渋すぎる頑固なおじいちゃんキャラ』の実物キターーーーッ!!! 属性が地属性っていうのもどっしりしてて設定100点満点中5億点じゃん!! 推せる!!)
心の中の限界オタク(中身還暦)が、渋おじの完璧なセリフ回しに大号泣しながらサイリウムを振り回している。
「いいねぇ、おじいちゃん! その頑丈そうな盾、最高に格好いいよ!」
私は不敵にニヤリと笑うと、ジウスの前にスタスタと割り込み、空手の基本姿勢である『三戦』の構えをカチッと取った。
「私の空手と、おじいちゃんの盾。どっちが硬いか、ここでいっちょ真剣勝負しようじゃないか!」
「……ほう」
老騎士リジドールが、不敵な十二歳児の構えを見て、一瞬だけ武人としての鋭い笑みを浮かべた。
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