第10話 悪役の矜持と、お約束まみれの『ざまぁ』
帝都へと続く、最後の巨大な関所。
分厚い鉄の城門がそびえ立つその場所で、私とジウスの前に、帝国の紋章を刻んだ大軍勢が立ちはだかった。
その本隊を率いるのは、一人の男。
不敵な笑みを浮かべ、長い銀髪を揺らすその騎士は、ジウスにとってかつての良きライバルであり、同時に最も因縁深い聖騎士――ウォード・ルシラカンであった。
一触即発の空気が流れる中、ウォードは意外にも腰の剣をすっと引き、両手をひらひらと挙げてみせた。
「おいおい待ってくれ、ジウス! 武器を収めて話を聞いてくれ!」
「……ウォード? どういうことだ」
ジウスが怪訝そうに眉をひそめる。ウォードはまるで心からの友を迎え入れるかのような、爽やかな笑顔を浮かべてみせた。
「お前が本気で帝国に反旗を翻すっていうなら、俺たちも仲間になる! 正直、上層部のあの陰険なドミナス卿のやり方には、俺も反吐が出てたんだよ。お前と一緒に戦わせてくれ、ジウス!」
「ウォード……! お前、そこまで考えて……!あぁ、この国の未来のため、正義の為に共に戦おう!」
根が真面目でピュアすぎるジウスの瞳に、ぶわっと感動の光が宿る。
ジウスが「友よ!」と言わんばかりに一瞬だけ完全に油断した、まさにその刹那。
「――なんてな、大馬鹿野郎がぁ!!」
ウォードの爽やかな笑顔が、一瞬で悪魔のような邪悪な歪みへと変わった。
彼はジウスの死角にいた私を見据え、隠し持っていた短剣から目にも留まらぬ速さで強烈な一撃を放ったのだ。
ドガァァァァァン!!!
凄まじい爆煙が立ち込め、私の小さな身体は凄まじい衝撃と共に後ろの関所の石壁まで一直線に吹っ飛んでいった。
「ウォードォォォォォオオオオオ!!!」
ジウスがこれまでにない怒りの咆哮を上げる。
「貴様に武人としてのプライドは、正義は無いのか! よりによって、まだ小さな子供を後ろから襲うなどと……!」
「ハハハハハ! おいおい、そんな怖い顔で睨むなよジウス!」
ウォードは鼻で笑うと、ペッと地面に唾を吐いた。
「正義だの、国の未来だの、そんな重いもんを抱えて死んだ奴の墓なんて、ただの石ころだろ? 最後にどれだけ泥水をすすってでもさ、生き残って美味い酒を飲んでる奴が、一番偉いのさ!」
「おのれ……!」
ジウスが激昂し、光の大剣を抜こうとした次の瞬間。
モクモクと立ち込める爆煙の中から、スタスタと軽い足音が響いた。
「いや〜、お兄さん良いセリフだねぇ! 素晴らしいよ!」
「なっ……!?」
ウォードが驚愕に目を見開く。
爆煙の中から現れたのは、服の埃をポンポンとサバサバ払いながら、かすり傷一つなく歩いてくる私だった。
私は首をクネクネと回して骨を鳴らし、十二歳の美少女の見た目のまま、中身は還暦を越えたベテラン主婦のような渋いドスの利いたトーンで説教を始める。
「ラノベの悪役として100点満点だよ! でもさ……人を後ろから不意打ちするような卑怯者には、最初から結末が一つって決まってんだよね。そう、私の大好きな――『ざまぁ』が必要だよねぇ!」
「化け物が……死ねぇぇぇ!」
プライドを刺激されたウォードが顔を真っ赤にし、本気の一撃で私を縦真っ二つにせんと聖剣を振り下ろしてくる。
しかし、私は一歩も動かない。黒属性の魔力を掌にこれでもかと集中させ、向かってくる白刃を真っ向から右手で掴み取りにいった。
ガキィィィィィィィン!!!
「なっ……!? 聖剣を……素手の、拳で止めた……!?」
ウォードの思考が恐怖でバグる。
私はそのまま腰を深く落とし、空手家としての全魔力を込めた全力の『正拳突き』を、彼のガラ空きになった腹部へと突き刺した。
ドォォォォォォォン!!!
「ごふっ……!?」
凄まじい衝撃波が関所を震わせる。ウォードは口から派手に体液をぶち撒けながら、まるで大砲の弾のように後方へと吹っ飛び、地面を何度もバウンドしてボロ雑巾のように転がっていった。
「あー、やっぱり『ざまぁ』は気持ちいいねぇ!」
私は拳を軽く振り、最高にスッキリした満面の笑顔を浮かべる。スカッと爽快、これだからラノベのイベント消化は裏切らない。
しかし、ウォードも流石は聖騎士の肩書きを持つ男だ。内臓をズタズタにされ、血反吐を吐きながらも、執念だけでフラフラと立ち上がってきた。その顔には、まだ醜悪な負け惜しみの笑みが張り付いている。
彼は震える手でポケットから超高級な転移の魔道具を取り出し、地面に叩きつけた。
「……ハッ、ゲホッ……! 勝ったつもりでいるところ悪いが……チェスじゃねぇんだ。王がしぶとく逃げ延びりゃ、ゲームは続くのさ……!」
ウォードの身体が、まばゆい転移の光に包まれていく。
「……首を洗って待ってな、ジウス、そして謎のクソガキ。次に会う時は、お前たちの背中に……極上の絶望を突き刺してやるよ……!」
シュンッ!!!
捨て台詞と共に、ウォードの姿は空間ごと消え去っていった。
「あーあ、逃げられちゃった。でもまあ、あのコテコテの捨て台詞、ラノベのライバルキャラっぽくて合格点だね♪」
私は「次はどんな『ざまぁ』をしてやろうかねぇ」と楽しみにしながら、サバサバと肩をすくめた。
一方、ジウスは悔しげに拳を握りしめている。
「おのれウォード、どこまでも執念深く、見苦しい男……!」
大ボスであるウォードが血反吐を吐いて逃亡したことで、残された関所の帝国兵たちは大パニック。もはや戦いにならず、総崩れとなって蜘蛛の子を散らすように逃げ出していくのだった。
こうして、帝都への最後の関所はあっけなく突破されたのである。
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