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[第四章:守護の剣。彼女の決意]その7

「…」

 タイプスはマジカルセイバーに蹴り飛ばされた瓦礫を宙へ飛んで回避する。

 現在、彼女と[守護剣]が戦闘を開始して一時間近くが経過しようとしている。

 最初、タイプスは一度退けられたこともあり、ムーンセイバー達を排除し、すぐに目的の[幻影魔女]の元へ向かうことができると考えていた。

 …しかし。

(…強い)

 高度を上げたにもかかわらず、すぐに壁を蹴っての跳躍で追いすがり、剣の一撃を入れ、強制的に高度を下げさせてくるムーンセイバーを見、タイプスは思う。

(前よりも。必死にタイプスたちを足止めしようとしている…。しかも)

 後ろへ距離を取りながらタイプスは一瞬周囲を見る。 

 あたりに広がる、潰れた廃墟に折り重なっているのは、気絶した[UCEE]の構成員たちだ。

 彼らは[守護剣]達により、タイプスとの攻防の隙間に差しこまれた攻撃で次々と倒されており、もはや誰一人として動くことはできない状態にある。

([幻影魔女]を攻撃していた他の構成員も倒した。一人残らず、例外なく)

 そうして構成員を完全無力化した[守護剣]達は今、最後に残ったタイプスらのみに集中し、足止めから撃破へと目的を移行、次々と攻撃を仕掛けてきている。

(その目的は守るため。そのために彼女らは刃を振るう)

 タイプスは剣を振るう。

 それをムーンセイバーが受け、一瞬双方が固まったところに、マジカルセイバーがタイプスを狙ってナイフを投擲。

 察知したタイプスは強引にムーンセイバーを弾きとばし、ナイフを回避する。

(守るため。守るため。殺そうとするお父さんと、それに従うタイプスを倒そうとする)

 何度も攻撃を交わし合ううち、少しずつではあるが、本体への損傷が増えていく。そんな中、タイプスは思う。

(不思議なもの。不思議なもの。…本当に、不思議なもの)

「…本当に…!」

「はぁぁ!」

 瞬間、跳躍したムーンセイバーとタイプス、それぞれの刃が、すれ違いざまに振るわれる。

「!」

 直後、ムーンセイバーの腰装甲の一つが砕けると同時、タイプスの背部右翼先端が砕け、小規模な爆発が起きる。

(…やる。一回負かした時よりも、確実に。既にこちらの動きの癖でも把握しているとでも…?)

 バランスを崩し、高度を下げるタイプス。

 そこへ、廃墟の影から刃を煌めかせる細身が来る。

「っ…!」

 その場で急回転し、タイプスは剣のある左腕を振るい、刃での一撃を狙ったマジカルセイバーを吹き飛ばし、ムーンセイバーの着地点たる半壊したビルに叩きつける。

「!マジカルセイバー!」

「…あは☆大丈夫、だよ…?」 

 言って、装甲を少しひび割れさせたマジカルセイバーは素早く立ち上がり、宙のタイプスを見る。

「まだ、終わらないよ?」

「…」

 タイプスは、装甲を新たに作れる自分よりも傷ついた[守護剣]達を見下ろし、思う。

(…本当に不思議なほどの意思の強さ。どれだけ傷ついても決して諦めず、不利な相手にも立ち向かって来る)

「…それほどまでに守りたい?そんな傷を受けても。痛くても。守りたいと、言う?」

 それに、分かり切った答えはすぐに返ってくる。

「勿論、です」

「もっちろん☆」

「…本当、本当に不思議なもの…」

 もはや、タイプスは一種の関心すら覚えてしまう。

(…けど。[守護剣]が折れず、どれだけしぶといのだとしても)

 ブイラドの望むことをしなければならないのだと、タイプスは思う。

(…邪魔者を排除する。そろそろ、お父さんも我慢の限界のようだし)

 タイプスはちらりと、背のブイラドを見る。

 この一時間にわたり、[幻影魔女]を追うことができずにいることに、[守護剣]のしぶとさに、彼は苛立ちを募らせきっていた。

 もはや爆発は時間の問題と言ったところだろう。

(いい加減に決着をつけなければならない)

 そう思ったところで、タイプスは[守護剣]達の後方にある姿を見止める。

(…あれは)

 クヅクドだ。

 両手にミサイルランチャーを構えた彼は、相変わらずのくたびれた格好で、こそこそと[守護剣]達に近づいていく。

 どうやら、背後から不意打ちの攻撃を食らわせ、二人を倒してしまうつもりらしい。

 また、彼はタイプスに視線を送り、それを手伝うよう言ってくる。 

(…なるほど。なら、やる)

 決着を付けられるのなら、手段を問う気はタイプスにはない。要は[守護剣]達の排除さえ叶うなら何でもよいのだ。

 故にタイプスは、クヅクドが攻撃を外さない位置につくまでムーンセイバー達を動かさぬよう、彼女らに言葉を投げかける。

「何故そこまで守りたいと思える?そこまで必死になれる?お父さんの動機は憎しみ。では[守護剣]達のその意思はどこから?」

 自身の純粋な疑問も混ぜたその言葉に、ムーンセイバーは答える。

「…強いて言うなら。それは愛、ですね」

「…愛?」

 タイプスは眉を顰める。

「ええ。私は家族愛とその延長から」

 そこにマジカルセイバーが続く。

「あは☆私の場合はただ守りたいって気持ちかな?ただそれだけだけど、強く強くそれを持ってる」

 だから、と二人は答える。

『私たちはこの刃を振るう』

「…なるほど。さらに不思議なもの。理解が難しいもの。ただ従うだけのタイプスには本当にそれは、難しい…」

(…けれど)

 純粋に感じ、思ったことをタイプスは言う。

「それは、魅力的に思える。タイプスの薄い動機よりはいいように、思える。…しかし」

 そのとき、クヅクドの合図の様子が、タイプスの視界の端に入る。

 故に、彼女は言う。

「そんないいものを持つ[守護剣]達はここで、終わり…」

 言葉と共に身構え、タイプスは[守護剣]達を警戒させる。

 だが、それは囮。

 本命は当然のごとく、ムーンセイバー達のすぐ後方、そこにある瓦礫の山に陣取ったクヅクドだ。前方の警戒で二人の後方への警戒が薄くなったそのタイミングを見計らい、彼は引き金を引く。

「失せるといいさ、ええ![守護剣]共!」

『!』

 クヅクドの勝ち誇った声に反応し、ムーンセイバー達は尋常ではない速度で振り向く。

 だが、既に計六発のミサイルは全て発射された。対象との距離もそう離れておらず、着弾に全く時間はかからない。もはや、逃げる時間はない。

(これで終わり)

 ミサイルが、回避行動に移る[守護剣]達に迫るのを見、決着を確信してタイプスがそう思う。

 …その瞬間であった。

「!?」

「なんだと!?」

 突如、物陰より飛んできた鎖がミサイルを弾き飛ばし、起爆前に軌道をずらす。

 結果として弾頭全てはあらぬ方向に飛んでいき、砕けた廃墟に着弾、爆発することでさらに砕く。

 何の前触れなく発生したその事態にクヅクドが、タイプスが、ブイラドが驚く。

 さらにその直後だ。

「なんッ、え…!?」

 別方向から飛んできた鎖によってクヅクドの体は叩き飛ばされ、彼は廃墟と瓦礫の合間に消える。

 同時、まるで翼の如き挙動をする鎖を両手に持った人影がムーンセイバー達のところへ着地した。

「…お待たせしました。皆さん。ミィさんらの救出含め、全て終わらせてきました」

 言って、鎖の使い手、チェインセイバーは僅かに目を開き、タイプスを見据えた。


▽ー▽


「…ようやく、ですね」

「あは☆ちょっと遅かった、かな?」

「…はい。申し訳ありません」

 言って、チェインセイバーは伸ばしていた鎖を戻す。

 その動作を見ながら、ムーンセイバーは言う。

「ですが、助かりました」

「だね☆危ないところだったもん」

「…はい」

 チェインセイバーは頷く。

 そうする彼女が戻ってきたということは、無事目的を達成し、るいとミィを安全な場所へ送り届けてきたという何よりの証拠である。

「…道中の構成員もできるだけ無力化、それらは捕らえておくよう都市警察にも言っています。もう動いているはずです…」

「…なるほど。なら、後はここだけになりますか?」

「…ええ。ここだけです」

 既に、この場以外の全ては片付きつつある。

 残ったのはこの場で未だ戦闘の意思を持つ、タイプスとブイラドだけだ。

 彼らさえ打倒すれば、この事態は完全に収束する。

 それを理解したムーンセイバー達は、新たな敵の出現に様子見をしていたタイプスに視線を戻す。 

 そして、言う。

「さて。そちらの諸々の目論見は失敗。仲間もあらかた倒し、あとはあなたたちだけです。どうします、まだ戦います?」

「…」

 タイプスは、沈黙する。

「あは☆ちなみにこっちは、揃った。取り巻きゼロで三対一。もう、そっちには欠片の勝ち目もないよ?」 

「…降参をおすすめします」

 マジカルセイバーとチェインセイバーが口々に言う。

 それを受けたタイプスは、戦闘を続行するか迷っているのか、考えるようなそぶりを見せる。

 いましがたのチェインセイバーの鎖の扱いを見て、警戒しているのだろう。あるいは、二人でも手こずっていた[守護剣]が三人に増えることへの警戒か。

 いずれにしろ彼女は高度を維持したまま、数秒の間沈黙する。

 …そんなときだ。

「…タイプス」

 ブイラドが口を開く。

「…なに、お父さん」

 視線だけを後ろへ寄こすタイプスに、ブイラドは言う。

 怒りと苛立ちと憎しみが混じった低い声で、指示を飛ばす。

「…全てのリミッターを解除しろ。奴らを…粉々に殺す、そのために…!」

「!」

 実質一人で残された状況の中で、戦闘を続行する意思を示すブイラドに、ムーンセイバーは言う。

「…まだ戦う気ですか。そちらとて見た目以上に消耗しているはず。助ける味方はなく、数で劣る中、まだやると…?」

 その言葉に、ブイラドは負の感情を露わにしながら答える。

「…当然だろうが。貴様らは俺の邪魔をし続けた。とうとう[幻影魔女]を殺す機会さえ奪った。それは…」

 

 万死に値する。


「許すせるわけがない…。殺す、殺してやる。確実に…!そしてその後は、隠した[幻影魔女]を探して殺す!必ず、殺してやる!生きる、存在する価値のないものは、な…!」

「…そう。お父さんはそこまでそうしたい」

「ああ!だからタイプス、俺の望みを叶えろ!その体を壊してでも、全力でこいつらを殺し、[幻影魔女]を殺しに行け!」

「…。そう、分かった」

 そう、タイプスが言った瞬間だ。

 彼女の細身の体と、色違いの両目が強い光を発する。

「…制限解除、全機能開放。時限特殊形態へ移行。形態名称、”殺戮王”。展開する」

 言葉と同時、タイプスの姿が変化する。

 右目は黒へ、左目はより強い赤へ。

 髪は白髪が伸び、枝分かれした先端が黒と金に分けられる。

 新たに装甲もつくりだされ、破損部全てを覆うように赤いラインの走った白のそれが、タイプスのシルエットを禍々しく変質させる。

 そうして出来上がったのは、両足を針のようにし、左腕にこれまで同じ剣を、右腕には三つの爪がついた盾を構え、胴体は首元から腰下まで伸びる鋭角の装甲に包まれ、長くなった髪と翼を広げる、機械の悪魔だ。

 ”殺戮王”。そんな名称をしているらしい形態に移行したらしいタイプスは、今までの数倍の光量を左目から溢れさせ、[守護剣]三人に言う。

「…[守護剣]。そういうことだから。タイプスは、非常に負荷が高いが最高の戦闘力を持つこの形態で以て、お前たちを殲滅する。その後にあの[幻影魔女]を殺しに行く。不思議なほどにお父さんがそれを望む以上…!」

「…そうですか」

 ならば、とムーンセイバーは剣の切っ先をタイプスに向け、言う。

「私達は持てる全力を持ってあなたを倒し、止めましょう!」

 直後、三人は各々得物を構え、一か所に集合、同時に言葉を放つ。

『我らは[守護剣]。その全力で以て敵に立ち向かわん!』

 鋭く、力強く、綺麗に調和した言葉を、三人はタイプスとブイラドに向かって放つ。

「そう!では…」

「ええ…!」

 そして、宣言は行われる。

『…最後の戦いを始める…!』 

 直後、守護の意思を受けた剣達と、害意と怒りを受けた剣の衝突が始まった。


▽ー▽


「風穴を開ける…!」

 タイプスは右腕を前へ構える。

 直後、爪が扇状に開き、その隙間より現れた銃口が[守護剣]達へ襲い掛かる。

「散開!」

 ムーンセイバーが言うと同時、三人はそれぞれバラバラの方向へ散り、タイプスの銃撃を回避する。

 それを見た彼女は即座にその攻撃をやめ、腕を振る動作で銃口をしまい、爪を伸ばす。

「…なら高機動攻撃…!」

 瞬間、加速。

 巨大な機械の翼が、悪魔を飛ばす。

 速度はこれまでの四倍、圧倒的な素早さでタイプスはまず、チェインセイバーに迫る。

「…っ!」

 驚異的な速度で迫る敵に、チェインセイバーは眉間に皺を寄せ、右腕の鎖を放つ。

 だが、当たらない。

 先に動いていたタイプスはその動きを予測し、僅かな軌道変更でこれを回避、右腕の爪で以てチェインセイバーを引き裂こうとする。

「…ですが…!」

 チェインセイバーは身を捩り、その動きに乗せて側方への跳躍を試みる。

「遅い!」

 直後、慣性の力で威力を増した爪の一凪ぎが、チェインセイバーの左半身を襲う。

 だが、それは彼女の動きによって深くは刺さらず、表面の鎧を粉砕するにとどまる。

 そして、チェインセイバーはそのことを分かっていたために跳躍を実行。

 距離を取る。

 それにタイプスは一瞬気を取られるが、そこに不意の一撃が来る。

「…鎖!」

 一度虚空を裂いた鎖が、タイプスの背めがけて飛んでくる。

 しかもその真ん中から先端にかけてには、いつの間にかマジカルセイバーのナイフが五本刺さっている。

 鈍く光る刃を乗せた鎖が、タイプスの背部を破壊せんと迫る。

「…ふぅ!」

 タイプスは強引に回転、左腕の剣で以て鎖とナイフを薙ぎ払う。

 だが、息つく暇もなくさらなるナイフが飛来。

 タイプスは直撃コースのそれらを上昇で回避しようとするが、罠かと考え、急降下する。

 しかし、それを呼んでいたムーンセイバーが、大剣を振りかぶりながら物陰より出現、タイプスの右腕武装と打ち合う。

「…随分と連携が上手い!」

「…勿論です!同じ場所で刃を振るう者同士、完璧な連携程度、こなして見せます!」

 僅かな時間の鍔競り合いのうち、タイプスはムーンセイバーを弾く。

 だがそれは、意図的に僅かに力を抜き、押し切れると思わせた彼女の罠だ。

 間髪入れず、得物を狙う大蛇のごとき動きをした鎖が、タイプスに襲い掛かる。

 狙いはやはり背中部分、飛行能力を奪おうとしているのだ。

「効かない!」

 タイプスはあえて上へ、さらには右腕の銃口を再度展開し、凪ぐように斉射して鎖を弾き、その間を行く。

 辿り着くのは無防備なチェインセイバーのところだ。

 彼女の姿を見止めたタイプスは、銃撃のため振り上げていた右手を振り下ろし、チェインセイバーの再びの排除を狙う。

「…っ!」

 が、背後に気配を感じたタイプスは振り向き、その動きに乗せてやや強引に右腕の軌道を右後ろへと帰る。

 瞬間、チェインセイバーを囮にタイプスの背を狙ったマジカルセイバーは爪二本分の攻撃を食らい、バイザーと左耳先端部を砕かれ、失う。

「でも、やるよ!」

「っ!」

 マジカルセイバーは怯まない。

 彼女はタイプスが右腕を振ったことで生じた隙を的確につき、回転の動作の結果がら空きとなった胴体の装甲に、ナイフ二本の斬撃を叩き込む。

「ぐぅっ!」

 タイプスの装甲は布切れのように裂け、本体にまでダメージが及ぶ。

 加えて、ここまでで既に受けていた傷が今の攻撃で広がり、火花が散る。

「…やる!が!」

 言うが早いか、タイプスは蹴りを繰り出し、マジカルセイバーを吹き飛ばす。

 同時、胸部装甲を再度つくり、傷を覆い隠す。

 そんな彼女の視界の端で、宙のマジカルセイバーはいつの間にか伸ばされたチェインセイバーの鎖を掴み、それにぶらさがって弧を描く挙動で移動、安全に廃墟の上に着地する。

「…っ!」

 タイプスが振り向き、左目の眩しい赤が残光となる。

 その直後、跳躍して迫るムーンセイバーの下からの、剣の腹による叩きあげるような一撃が、タイプスの胴体をくの字に折る。

「落ちなさい!」

「…っう!」

 ムーンセイバーの攻撃に、タイプスはバランスを崩す。

 それを待っていたかのようにチェインセイバーのもう一つの鎖がタイプスを瞬時に絡めとり、地上へ引き摺り下ろそうとする。

 さらに、タイプスの抵抗の抑制と装備の破壊のため、マジカルセイバーの投げナイフがタイプスに迫る。

「…ぐっ」

 行動を制限されたタイプスは避けきれず、飛来した刃の半数をその身に受ける。

 刺さった箇所は右腕装甲、左腕の剣をつくる装置、裂かれたのは右の前髪と左太腿の衣装だ。

 特に左腕の装置にナイフが深く刺さったことで装置は機能を失い、新たな剣の作成は不可能となる。

「…本当にやる、しかし…このまま終わるほどタイプスも弱くはできていない…!」

 言葉と共に、機械の翼が無理やり、強烈な力で羽ばたく。

「…なん…!」

 それは地上で鎖を放っていたチェインセイバーを持ち上げ、ぶらさげる。

 次いで、タイプスは鎖を爪で切断、束縛から解放される。

 さらに彼女は間髪入れず、右腕を下へ向け、銃撃を敢行しようとする。

「…そこで来るのは分かっている!」

「なら大人しく受けてください!」

 一度廃ビルに着地、再度の跳躍で以て空中に躍り出たムーンセイバーは剣を思い切り振りかぶる。

 それにタイプスは左腕を振るって対応、一方で右腕での銃撃も敢行。

 既に場所移動を始めたチェインセイバーに軽度だがさらなるダメージを与える。

 その瞬間だ。

「…!」

 ムーンセイバーの重い一撃を受けた左腕の剣はひび割れ、折れる。

 既に剣を出現させる機構は死んだ。

 武装の補充はできない。

「…むぅ!」

 攻撃の後、落下にうつるムーンセイバーと距離を取りながらタイプスは右腕で銃撃。剣を盾に構えるムーンセイバーにさらなるダメージを与え、同時に衝撃によって落下を失敗させる。

「…この程度!」

 宙を滑るように移動し、体勢をタイプスが整える中、ムーンセイバーは落ちた瓦礫の山より立ち上がる。

 それと同時、マジカルセイバーのナイフを先端に付けた鎖が鞭のようにしなり、煌めくその刃を投擲する。

 それは無理な動きをした影響で動きが鈍っていたタイプスの胸部に直撃、内部にまで突き刺さり、装甲を作り出す機構を機能停止に追いやる。

「…ぐっ。これは中々。…けれど!」

 瞬間、タイプスは急降下。

 地面すれすれを高速で移動し、物陰に隠れていたマジカルセイバーに襲い掛かる。

「!」

「斃れるといい…!」

 再びの爪の攻撃で仕留めようとするタイプス。

 それに、さらなる投擲のため、これまで使ったナイフを回収していたマジカルセイバーは背を低くして唸る一撃を避け、手に持っていたナイフを突き出し、タイプスの胸部装甲に叩きこむ。

「…っ!」

 瞬間、タイプスは急速上昇。

 ひび割れ、砕けていく胸部装甲の破片を宙へ散らす。

「そろそろ、観念しては、どうですか…!」

「今はまだ…!」

 言って、タイプスが視線を送る…その先には誰もいない。

「こっちですよ!」

「!」

 タイプスとほぼ同じ高度。そこにいつのまにか、建物と建物の間に足場のように張られた鎖の上を、ムーンセイバーはステップで移動、タイプスの背後を取っていた。   

 彼女は、タイプスが振り向く前に剣を振るい、彼女の背部を叩き壊す。

 機械の翼はもげ、悪魔の飛行能力は失われる。

 だが、タイプスもそのままでは終わらせない。

 始まる落下の中、尖った足を振るってムーンセイバーの手から剣を弾き飛ばし、宙を舞うそれを銃撃でさらに弾き飛ばし、遠くの瓦礫の山の中へと落下させる。

「…もう、飛べない…!」

 背中から火花を上げ、ブイラドの舌打ちが響く中、タイプスは不安定な挙動で斜めに廃墟群の中を落ちていく。

 そうして地面に激突し、転がっていく彼女から、傷ついた装甲の幾らかが剥がれ落ちる。

「…むぅ」

 吐息。

 もはやただの重しでしかなくなった翼の残骸を分離し、タイプスは膝をつく。

 その上半身の装甲は大半がもげ、左腕は動かなくなり、左目の輝きは弱まる。

 だが、そんな状態であっても、タイプスは顔を上げ、一ケ所に集合する[守護剣]達を見据える。

「…本当に、本当にやる」

「…貴様ら…」

 タイプスとブイラドが口々に言う中、ムーンセイバー達は二人を見、言う。

「さぁ、もういいでしょう。降参してください」

「…既にそっちは下半身以外は大破に近い状態だよ。これ以上は無駄」

「…ですから、降参をおすすめします」

「……それはやっぱり、無理」

 タイプスは背のブイラドを見る。

 自身の体の一部も破壊された状態の彼は、憎しみの籠った声を漏らしている。

 表情のない機械の目でありながら、敵意と殺意の籠った視線を、今なお三人に放っている。

「…お父さんが望んでいる。殺すことを。だから、タイプスは行う。邪魔者を排除する…お父さんの望みのためにある以上は、退けない。だから…」

 タイプスは尖ったつま先を分離、剥き出しになった足裏で地面を踏みしめ、立ち上がる。

「…撃つ!」 

 ひび割れた右腕の装備で、タイプスは射撃する。

 だが、落下の衝撃で若干ひしゃげた装備は、本来の命中精度を出せず、弾はばらけ、振るわれた鎖に弾かれる。

 さらには、弾も切れる。

「…。負荷と損傷のせいで再構築もあまり、できない…」

 言って、上げた右腕を降ろすタイプスを、ムーンセイバーは静かに見る。

「…それでも、立ち向かうと言うの、ですか…?」

「そう…」

 頷き、突撃のために姿勢を低くするタイプスにムーンセイバーは憐みの目を向ける。

 同時、言う。

「…では、これで終わりにしましょう。二人とも」

「そうだね」

「…はい」

 一歩前に出るムーンセイバーに、他二人は頷く。

 そして、各々の武器を構える。

 ムーンセイバーは残った装甲の内側より、小さな片刃剣を取り出し、構える。

 それを見、タイプスは言う。

「…これが、最後の抵抗…!」

 そして、タイプスは地面を蹴る。

 唯一残った右腕の爪を振り上げ、ムーンセイバーに迫る。

 その瞬間であった。

『止討』

 チェインセイバーの鎖が、マジカルセイバーのナイフが宙を行く。

 それらは今までやっていたように合体し、タイプスの体に巻き付き、先端の刃が地面に突き刺さり、その動きを止めていく。

 それが完全になされるまでの僅かな時間に、タイプスが進む。

 ムーンセイバーは、そんな彼女に静かな一歩で以て迫る。

 直後。

「…」

 完全に動きを止められたタイプスの最後の武器は、ムーンセイバーの一撃で砕かれ、髪の伸びた分は全て切り落とされる。

「…そう。どうやら、タイプスの負け…」

 三人の合体技で最後の一撃を届けることすら中わなかったタイプスは、ムーンセイバーを見、言った。

 諦めたように聞こえるそれに、ブイラドは叫ぶ。

「タイプス!お前…!」

 責めるようなブイラドの言葉に、背後に視線だけを寄こし、タイプスは言う。

「…お父さん。もはや勝ち目はない」

「…!」

 事実を突きつけられ、固まるブイラドを見ながら、タイプスは半ば独り言のように、言葉を続ける。

「それに、もうタイプスにはやる気もない。そもそも、タイプスには[守護剣]たちのような魅力的で強い動機はない。…だから一度負けてしまえば、それ以上食らいつく気など起きない」

 左目の光を弱め、両目の色が元に戻っていく中、タイプスはムーンセイバー達に告げる。

「[守護剣]達。タイプスは敗北を認め、降参する。これ以上戦う気はない。ここで終わり…」

「…そうですか」

「…そう。全力で戦って負けてしまったせいか、ある種の満足もある。だからもういい…」

「タイプス…!」

 ブイラドはタイプスに非難の声を上げる。

 そんな彼に視線を送り、ムーンセイバーは告げる。

「…[UCEE]のブイラド。諦めてください。全ては今この時を持って終わりました。あなたの、残酷な望みは叶いません」

「…くっ」

 ブイラドは震える。

「…くそがっ。くそがっ…」


「クソガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 その叫びを最後に、全ては収束する。

 戦闘に出た[UCEE]の構成員は全て倒れ、るいはミィとの仲直りを成す。ミィの安全は確保され、タイプスは[守護剣]達に敗北し、ブイラドの望みはもはや叶うことはない。

 ムーンセイバーの言う通り、今この時を持って、一連の出来事は終わりを告げることとなった。

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