[第四章:守護の剣。彼女の決意]その6
「これは…!」
ブイラドは、チェインセイバーによって怪物が移動させられたのを見、内心で舌打ちする。
(…[幻影魔女]を俺たちから引き離した…。こいつらはそのための囮か!)
ムーンセイバー、マジカルセイバーはブイラドらを前にし、先ほどから大立ち回りをしている。
タイプスの攻撃をいなしながら他の構成員を倒すなどしつつ、挑発的な言葉も発し、目立つ動きばかりをしていた。
そうしてブイラド達が二人に気を取られている間に、仲間が怪物の方をなんとかする。そういう作戦だったのだ。
(…嵌められたか。チッ。このまま[幻影魔女]をどこかにやられてたまるか…!)
先ほどの[守護剣]達の発言を鑑みれば、回収された怪物は安全確保のため、ブイラド達の手の届かないところに連れていかれる可能性がある。
今しがたの鎖の動きと、それを操る者の力を見れば十分にそれは可能だ。
(…後少し。後少しで[幻影魔女]を殺せるというところで、逃がせるわけがないだろうが…!)
思い、ブイラドは[守護剣]達を相手取るタイプスへと指示を飛ばす。
「タイプス!こいつらは無視して[幻影魔女]の方へ行け!」
「…む」
マジカルセイバーのナイフ投擲を回避したタイプスは、ブイラドの言葉に反応し、空中で一旦動きを止める。
ついで背のブイラドに頷き、怪物の消えた方へ行こうとする。
しかし。
「させ、ません…!」
壁を垂直に疾走、壁を蹴って宙へ出たムーンセイバーが、タイプスに襲い掛かる。
「…っ!」
その攻撃に対し、一瞬反応の遅れたタイプスは弾かれ、後退。
さらにマジカルセイバーがナイフを投げてき、破損部を狙ったそれを回避するため、さらなる後退を余儀なくされる。
「…貴様ら」
ブイラドが苛立ちと怒りを込めた声を発する中、[守護剣]二人は彼らに言った。
「…通しません、よ!」
「あは☆右に同じく!」
▽ー▽
(…ごめん、ね…?)
もはや巨体を維持する気力もなくなりつつあったミィは、目の前の少女を見る。
手に紙袋を抱え、長い紫の髪を後ろで結んだ少女、良衣美るいを。
(…なん、で?)
ミィは問う。
彼女は、確かにるいを求めてはいた。
だが、実際に来るとは思っていなかった。
なにせ、嫌いと言われ、激しく拒絶されていたいのである。
ゆえに、るいがこの場に現れることなど、想像できなかった。
(るい…)
どうしてるいがいるのか。そして何故謝るのか。
その理由がよく分からないまま、ミィは泣きはらした感覚と共に、るいを見る。
『——』
そんな中、るいは再び言う。
「ごめん。ミィ…」
『——』
「…私、あなたを傷つけたわ…」
(傷…)
先刻、拒絶された時の感覚が一瞬蘇り、ミィは胸の奥がチクリとする。
『—』
既に心身ともに消耗しているミィは、るいの言葉に言葉を返す力はなく、返事はできない。
しかし、反応の有無にかかわらず、るいは言葉を続ける。
伝えるべきことを、伝えようとしていた。
「…一方的にミィを傷つけた。[幻影魔女]だから嫌いなんて言った…」
『——』
「ミィは何も悪くないのに…私のせいであなたを傷つけ、泣かせた。悲しませた」
言葉は続く。
「…振り返ってみれば、あのタイプスと言う奴にミィは怯えてたのに。そんな状態で、私は衝動的にあなたを傷つけた。…最低だったわ」
るいは視線を落とし、自身の行いを悔いる。
「…本当に最悪だった。あなたを傷つけた。[UCEE]が狙ってるのに、一人にもしてしまった。私は本当に悪い事ばっかりした。…だから、ね」
るいは言う。
「謝るわ、ミィ。本当にごめんなさい。嫌いって言って、傷つけて、泣かせて。全てのことを謝るわ」
『——』
るいはただ静かに、飾ることも言い訳することもなく、心からの謝罪の言葉を紡ぐ。
…そして。
「…ミィ。私が家の前であなたに言ったことは取り消すわ。だから…」
るいは巨体を、その中でミィがいる場所を知ってか知らずか見上げ、言う。
「一緒に、この危険なところから帰ろ?」
『—!』
その言葉に、ミィは嬉しい気持ちでいっぱいになる。
(るいのところに……戻れる)
るいは嫌いなどの言葉を取り消し、一緒に帰ろうと言ってくれた。
それは即ち、るいと再び共にいることができるということ。落ち着けるあの時間に戻れるということに繋がる。
(だったら…)
ミィはそれを受け入れずにはいられない。
求めていたのだ。ここでの苦しみから解放され、るいとの日々に戻ることを。
それがるいの方から許された。ならば、彼女の言葉を受け入れ、共にいたいとミィは思う。
そう思うからこそ、ミィはるいの言葉通りにしようとした。
…だが。
(…でも)
ふと、心に不安がよぎる。
もしかしたらまた、るいに拒絶されることになるのではないか。
彼女は嫌いと言ったことを取り消すとは言ってくれたが、本当は自分への情などあのときに消えてしまったのではないか。
そう言った疑念を含む考えが、先の体験から浮かんできてしまう。
『…』
不安が、ミィの心の中で膨れ上がっていく。
そして、あのときの辛い感情が蘇り、
『――――――!』
崩れつつある巨躯が咆哮する。溢れ出す不安に突き動かされ、先の砕けた腕が思い切り振るわれ、るいの立つ地面を揺らし、罅割れさせる。
彼女はそれに驚き、身を固める。だが、逃げはしない。
すぐに落ち着き、静かにミィの答えを待つ。
その様子を見、消耗から息切れするような感覚に襲われるミィは、るいを再び見、少しの間沈黙する。
それから、口を開く。
『…ねぇ。るい』
「…なに?」
『…るいは、本当はミィのこと嫌いになったままだったり、しない?』
ミィは続けて問う。
『本当は嫌いなままだから、また今日みたいなことしたり、しない…?』
ミィは言う。膨らみ、溢れ出すままに不安のままにるいに問いを投げかける。
もし思ったとおりだったらどうしよう。そんな不安も抱えて、心の傷が痛む中、ミィはるいに答えを求める。
『ねぇ…るぃ…』
その言葉にるいは。
「…そんなこと」
ゆっくりと。
「ないわよ」
首を振った。
『…』
ミィの視線を受けながら、るいは言う。
「私はミィの事嫌いなんかじゃない。さっきのは私が別の奴とあなたを重ねて言ってしまっただけなのよ…」
るいは静かに続ける。
「…だから違う。私はミィのことを想ってる…大切に思ってる。この思いは途切れていない。これがその証拠…」
言って、るいはそれまでずっと、大事に抱えていた紙袋の封を開ける。
そして、中に入っていたものを広げて見せる。
『…それって』
「ええ。一緒にお祭りに行くための、約束の衣装。私がミィを想ってつくったものよ」
るいは両手で広げた衣装を見せ、ミィに語り掛ける。
「私からあなたへのプレゼント。これが私がミィを想ってる…嫌いなんかじゃないなによりの証拠よ」
『るい…』
ミィはるいの言葉に、不安が消えていくのを感じる。
そして、心のうち、不安が占めていた部分が喜びや嬉しさで満たされていくのを感じる。
「だから、あなたを拒絶したり、嫌いなんて言ったりしないわ。今回みたいなことはもうしない」
るいは言う。
「もう二度と傷つけない。私の大切な私の…」
笑って、言葉を締める。
「妹なんだから」
(妹…!)
大切な者として認めるその言葉に、ミィの心に巣くうものはすべて消え失せる。
不安や疑念を消し去って、喜びや嬉しさが傷ついた心を満たし、癒す。
心は明るく照らされる。
『るい…!』
瞬間、維持が限界だった巨体は崩壊する。
小さな体と瓦礫の同化は解かれ、後者が地面に崩れ、散らばる。
それによって発生した粉塵に、るいが目を瞑り、開いた後。
その場には一人の少女が…ミィが浮かんでいた。
彼女はるいに近づく。
そして、笑いかけ、言う。
『ありがとう、るい…』
ここまで来てくれたこと。
再び受け入れると言ってくれたこと。
妹と言ってくれたこと。
それら諸々の思いを込めて、ミィは言う。
それにるいは、ただ、
「ええ」
微笑と共に、頷いた。
「…済み、ましたね」
少しの時間が経った後、廃墟の上で、チェインセイバーは呟く。
先ほど、彼女はるいと、彼女の片腕の[ユレオサエ]で左手を実体化し、彼女にその手を引かれたミィを、旧開発区の外側へ素早く送り届けた。
今頃は都市警察のいる安全地帯へと二人で逃げているはずである。
助けるべき市民のことはこれでなんとかなった。
後、チェインセイバーがやるべきことは一つである。
「…さぁ、行きましょう。全てを終わらせるために」
呟き、彼女は廃墟の壁を蹴って、空へと舞い上がる。
眼下に[UCEE]の構成員が多数倒れ伏した光景を見、彼女は高速で突き進む。
その言葉通り、全てを終わらせるために、最後の[守護剣]は戦場へと舞い戻る。




