[第四章:守護の剣。彼女の決意]その5
「…ミィ。もうすぐよ」
るいはチェインセイバーの左脇に抱えられたまま、呟いた。
今、二人は暴れる怪物へと迫っている。
ルートは円状にやや遠回り、ブイラドたちから少し離れたものである。
なぜそのようなルートを選択しているのか。それは十分程前に二人がムーンセイバーたちと接触したことにあった。
るいの希望を汲んだチェインセイバーは、怪物へ向かう途中、同僚二人の姿を発見し、細かな状況把握に加え、連携のために短時間の話し合いを望んだ。
そうして集合した四人は、互いに何を知っているのか、何をしようとしていたのか共有することとなった。
全員が、暴走し、[UCEE]に命を狙われているミィを助けようとしていることを知ったのである。
そして、行動目的が共通であることを知った彼女らは当然協力をすることとした。
(…お姉ちゃんは一瞬反対したけど…)
るいは思いだす。
集合し、目的を聞いたところで、ムーンセイバーはるいがミィの元へ、つまりは危険な場所へ行くことに反対した。
例えチェインセイバーが一緒だとしても、危険があることは変わりないからである。
(でもこうして行かしてくれて…)
しかし、るいの意志の強さやチェインセイバーの口添えに加え、泣いて暴走しているミィを落ち着かせるには、一番信頼されていたであろうるいの言葉が必要であると考えた結果、ムーンセイバーは最終的に承諾。
自分とマジカルセイバーはミィの救出において一番の障害になり得る、敵の最高戦力たるタイプスらを押さえようと、自ら陽動役を買って出たのである。
(私たちがミィのところへ行きやすいようにしてくれてる。だから…)
その意思に報いるためにも、必ずミィの元へ行き、助け、自分の過ちを謝らなければならない。
るいはそう思い、最速で旧開発区を行くチェインセイバーの邪魔にならぬよう、身を任せる。
「な、あれは…!」
「守護け…」
「…邪魔です…」
壁や地面を蹴り、目立たないようにしつつ、チェインセイバーは最短ルートを行く。その中で彼女は鎖を巧みに扱い、途中幾らかいる構成員たちを対応させる間なく倒す。
基本は進路上にいる邪魔者を吹き飛ばしているだけであるため、それぞれの敵に五秒以上構うことはない。
全ての行動を最小限度にとどめ、るいを抱えているとは思えない素早さで、チェインセイバーは進んでいく。
そんな彼女の腕の中で、るいは感嘆の声を上げる。
(私もいて動きづらいはずなのに)
それでも、チェインセイバーの動きは洗練されている。流石[守護剣]といったところか。
「はっ…!」
また一人、進路上にいた機械系[確定存在者]のテロリストを右側の壁へ、鎖の一打ちで弾き飛ばし、空いた空間をチェインセイバーは高速で通過する。
「…ところで、それの中身はどういうものなのでしょうか…」
「…この袋の事?」
「そうです…」
ミィが確実に近づく中、チェインセイバーはるいに対し、その腕の中の紙袋について問う。
それに、るいは静かに答える。
「…これは今日やるはずだったお祭りで、ミィに着て行ってもらおって、つくったものよ」
るいは、胸に抱いた作品を意識する。
「私があの子のことを想ってつくった…プレゼントよ」
「…プレゼント。贈るつもりなので…?」
「…ええ、そうね」
るいは思う。
衝動的に拒絶してしまったが、今なおミィへの思いがしっかりある証として、嫌いではないという証明としてこれを、贈りたい。謝罪の後にそうしたいと、彼女は望む。
「謝罪の気持ちも込めて。…私がミィのこと、本当は嫌いなんかじゃないって気持ち
も込めて、贈りたいの…」
「…そうですか」
なら。とチェインセイバーは言う。
「…ならば望むままにそれを、行ってください。私はそのためのことを…」
しましょう。
言った直後、チェインセイバーは建物を蹴り、飛び上がる。
そうして宙へ躍り出た二人の視界に広がるのは、怪物と[UCEE]の戦闘で出来た潰れ気味の廃墟の広場であり、
「…ミィ!」
彼女をすぐ前方に見ることができる場所であった。
タイプス、ブイラド達とは怪物や幾らかの廃墟を挟んで逆側であり、ムーンセイバー達が陽動を行っている今、邪魔者を排除するために構成員があちらに集中してることもあり、ここは非常に手薄となっていた。
加えて、ここまで配置されていた構成員をそれなりの数倒してきた以上、邪魔者は一時的なことではあろうが、幸運にもいなかった。
ミィに対し何かをするなら今しかない。
故にこそ。
「…さぁ、始めましょうか」
「…ええ!」
チェインセイバーの言葉にるいは頷く。
同時、その身は地面に降ろされ、チェインセイバーは両手に鎖を構えて再度跳躍する。
(ここまでで決めた通りに…!)
この場所に至るまでの十数分、そこまでで二人は怪物の元へ辿り着いたとき、具体的にどうするかを決めている。
それを、彼女らは今実行に移す。
「チェインセイバー!」
「…ええ」
頷き、宙を舞うチェインセイバーは近くで一番高い廃墟の上へ降り立つ。
同時、彼女は両手に持った鎖を限界まで伸ばし、振るう。
狙うは、ここまでの攻撃でその体積および身長を出現時の半分程度にした怪物だ。
「…はぁ…!」
短い掛け声とともに、消耗していたのか動きが鈍くなっていた怪物へ、るいの家の外周分ほどもある長大な鎖二つが、迫る。まるで意思を持つように滑らかに動くそれらは怪物を見事に絡めとる。
そして、怪物が驚きでびくりと震える中、チェインセイバーは両腕を引き、怪物をその場から引き離す。
『———!』
声が上がる中、怪物は体を構成する瓦礫をぼろぼろと剥離させつつ、廃墟群を超えて宙へ。
さらに体積を、重量を減らしながらタイプス、ブイラドたちから大きく離れていく。
るいはそれを見る。
落下を、チェインセイバーが鎖を操ることで緩やかにして目の前に落ちてくるそれを、自らが傷つけた一人の少女を見る。向き合う。
『———』
そんなるいの姿を視界に収めた怪物は、はっとしたような様子を見せる。その中、大きく削れたその巨体は、少し大きな音共に、るいの眼前に落ちる。
「…」
彼女はそれから、一瞬たりとも視線を外さず、目も閉じずに見る。
そうして落下の振動が収まった後、彼女は怪物へと歩み寄る。
怪物がそれに反応する中、これまでの攻撃と落下の衝撃で半壊した巨体へと手を伸ばす。
『―』
そして、彼女はただ、言った。
「ごめんね、ミィ」




