[第四章:守護の剣。彼女の決意]その4
「…もうすぐだ」
タイプスと一体化したままで、ブイラドは呟いた。
今、彼の前方にある広場では、クヅクドが連れてきた構成員たちが様々な武装で以てして、怪物への攻撃を加えている。
彼らはブイラドに下についた状態のクヅクドの指示に従い、 怪物のの体を構成するものを順調に破壊していきつつあった。
多数の攻撃を連続的に受け、まともに移動できずにいる巨体は既に、その総体積を初期の半分以下まで減らしている。
後もう少し破壊したところで、クヅクドよりタイプスに渡された[不確消去剣]を突き刺させ、[通波]を打ち込みさえすれば、[幻影魔女]は存在が変質し、死に至る。
目的は達せられるのだ。
彼はその時を待ち、ビル五つ分ほど後方で、タイプスの背より構成員たちの戦いを見ていた。
そして、作戦は順調に進み、時期に目的は達せられる状況にまで来ている。
ブイラドはそのことを嬉しい…とは思わない。
「…」
彼の中にあるのは[幻影魔女]への怒りと怨念、そして目的達成を求める心だけである。
そこには喜びなどのプラスの感情が挟まる余地は一切なく、彼の胸にはただ、ほの暗い情念だけが揺らめている。
だからこそ、彼の反応は攻撃を始めた当初と、ほとんど変わることはなかった。
「…もうすぐ、消去の時間だ…」
ただ、彼は待ち続けている。
構成員の数が怪物の抵抗によって減らされつつも、状況が想定通りに推移していく様子をただじっと見つめる。
十数分程度で訪れるであろうその時間を、タイプスと共に静かに待っていた。
…だが、いつまでも、彼ら[UCEE]の思い通りにはいくことはない。
「…うん?」
タイプスがふと、目線を側方へ向ける。
その瞬間だ。
(む…!)
突如として廃墟の影より多数の銀色が飛来する。
ナイフだ。
形は柄を長くし、先端の短い刃を潰して殺傷力を殺した、ステッキのようなものであり、それが幾つも、タイプスらのすぐ前にいた構成員たちに次々と襲い掛かる。
「ぬぁ!?」
「がぁ!」
一切の前触れない攻撃に構成員たちは間抜けを声を上げ、次々と急所にナイフが叩き込まれ、もんどりうって倒れる。
それに他の構成員が驚く中、さらなる投擲が行われ、追加で構成員が倒れ伏す。
「…どうやら、新たな邪魔者が来たよう」
「そのようだな」
タイプスとブイラドが言うと同時、ナイフが投げ込まれたのとは少しずれた位置より、小柄な人影が彼らの前に姿を現す。
「あは☆これ以上、好きにはさせないよ?」
「…次なる[守護剣]」
タイプスの視線の先、近場の構成員を全て無力化して現れたのは、この都市の[守護剣]が一人、マジカルセイバーだ。
彼女はいつものステッキの蓋を外し、刃を露出させたものを両手に構え、タイプスたちと対峙する。
「…邪魔をするか、二人目の[守護剣]」
ブイラドのその言葉に、マジカルセイバーはにっこりと笑い、答える。
「あは☆勿論だよ。[守護剣]として、この都市を、市民の平穏を守る身としては、[UCEE]の思う通りになんてさせない」
「…ふん。市民の平穏、か…。なら、その市民を怖がらせているだろう、あの怪物を殺そうとする俺たちの邪魔をするのは、おかしいのではないか?」
ほとんど嫌味のような意味合いで、ブイラドはそう言う。
それに対し、マジカルセイバーは後方の怪物にほんの一瞬だけ視線を寄こし、返す。
「…おかしくは、ないよ?あれも、私たちが守る市民の一人、だからね?」
「…」
どうやら、ムーンセイバーと同じようにマジカルセイバーも怪物の正体を理解しているらしかった。
そんな彼女の言葉に、ブイラドは、
(…[幻影魔女]など、市民に数えるに値せん…)
憎しみからそう思う。
…が、市民扱いであろうがなかろうが、彼らは害するときは害する。
今の思考は、ただ前方の[幻影魔女]を下に見るがためのものでしかなく、それ以上の意味はなかった。
「…お父様の意志の邪魔をするなら、排除しなければならない」
言って、タイプスは左腕の剣をマジカルセイバーに向ける。
彼女はそれに、一切臆せずに言う。
「あは☆そう。まぁ、ブイラドも一緒みたいだし望むところだね?」
「なら、戦うと?…しかし既に、そっちの仲間は一人、タイプス一人に敗北し」
死んだ。
タイプスは無表情で、その言葉を強調して言う。
相手の戦意を削ぎ、戦うことになったとしても全力を出せなくなるよう、心理的ダメージを与えることを狙う。
「[守護剣]一人に勝ち目は、ない」
感情はなく、それゆえに冷たい響きの言葉を、タイプスは放つ。
だが、マジカルセイバーはそれに涼しそうな顔をする。
「…あは☆果たして、本当にそうかな?」
「…」
全くと言っていいほど、精神的に揺さぶられた感のないマジカルセイバーに、タイプスは黙る。
それに、心を揺さぶるのは無駄だと悟ったブイラドは言う。
「…タイプス。無駄なことはもういい」
ブイラドは、臨戦態勢のマジカルセイバーを見、タイプスに指示する。
「そこの邪魔者を排除しろ!…これ以上[幻影魔女]消去の邪魔を、させるな!」
怪物の身を削り切るための構成員たちをこれ以上減らさせまいと、ブイラドはタイプスに言う。
それに、タイプスは頷き、
「分かった、お父さん。速攻で片づける」
宙へ浮きあがり、マジカルセイバーへと接近を開始しようとする。
そこで、彼女は言う。
「…できるかな?私達相手に…!」
「!」
達、と言う言葉にタイプスが反射的に警戒し、一瞬動きを止めた、その瞬間だ。
「上だ!」
「っ!」
「はぁぁぁぁ!」
雄たけびと共に宙より大ぶりな一つの刃が振り下ろされる。
それに気づき、タイプスは右腕の剣を振り上げつつ、その動きに乗せて左側へ回避しようとする。
そこへ、鋭い一撃が炸裂、剣を叩き折ってタイプスの右腕の本体部にまで、軽い損傷を与える。
「…っ、奇襲」
なんとかそれ以上の損傷を押さえ、左後方へタイプスは移動する。
そんな彼女の見る先に、一人の[守護剣]が降り立つ。
着地と共に振り下ろしていた大剣を素早く構え直したのは、先刻タイプスたちが退けたはずのムーンセイバーである。
「…生きていたか。邪魔者が」
「勿論です。あれぐらいで終わるほど、[守護剣]は弱くない。この肩書は軽いものではないの、です」
ムーンセイバーは跳躍によって近くに来たマジカルセイバーと並び立つ。
タイプスはそれを見、言う。
「…不思議な物。こんな風にしぶとくなるほど、守りたいと?」
「当然です」
「そう。やっぱり不思議なもの」
言って、タイプスは折れた剣を廃棄、新たなものを出現させる。
「…しかし、どうであろうとタイプスはやることをやる。お父さんの邪魔をするものを、排除する…」
「なら私達は」
ムーンセイバーはやけに力を入れて、言う。
「あなたたちの邪魔をしましょう。ミィちゃんを守るため、全力で!」
「あは☆そうだね!」
言って、[守護剣]二人は体に力を入れる。
それに応えるようにして、タイプスも体に力を入れる。
「やらせない。そっちは一回敗北したのとふざけているののみ。敗北しかないと、知るといい!」
ムーンセイバーはその言葉に、首を振り、鋭く言う。
「いいえ、勝利しかありません!」
「だね☆」
三人は、構える。
そして、
「行きますよ!」
再びにして、最後の戦闘が開始された。
(そちらは、頼みましたよ)
ムーンセイバーが、怪物の方へと向かうチェインセイバーとるいを見る中。




