[第三章:答え、…そして]その4
「…不味いわね。私のは直した作品の改造ですぐ済ませたけど‥ミィのは一からだから…」
祭り当日。るいは学校の休み時間の合間を縫って、必死にミィのための衣装をつくっていた。
るいの衣装に関しては、ミィに話した日のうちに、改修していた過去作の改造で即済ませている。
そうして、残りの時間をミィの衣装にあててつくっていたのだが、るいが想定していたより、時間がかかってしまっている。
一応、ミィに祭りのことを話した時点でデザインはある程度頭の中で纏まっていたので、どうつくるか悩むことに時間を費やすことはほぼなかった。
だが、構築したイメージを形にするのにはどうしても物理的な作業の都合で時間がかかってしまう。
素材の一部こそ改修の手が回っていなかった過去作を解体、一部をそのまま使うことで作業時間の短縮を図っているが、それでも大半は新規だ。元々時間的猶予があまりないのも相まって、るいは時間に追われざるを得なかった。
(熱入れちゃったのが失敗だったかも…でも、ミィにはつくるっていちゃったし。退けないわね…)
少々張り切ってしまった自分に後悔しつつも、るいは無言で作業を続ける。
なんとしてでも完成させようと、短い時間をできるだけ生かそうと作業を続けているのである。
そして、彼女には質を落とす気はない。限られた時間内で、できるだけのものをつくろうと頑張っている。
妹のようで、もはやそのもののように大切になりつつあるミィのため、るいは着る彼女のことをしっかり考えつつ、必死に作業を続ける。
「…ふふ」
そんな様子を、ラピラリは柔らかな表情で静かに見つめる。授業の開始を教えるぐらいで手出しすることは決してせず、できるだけるいが作業に集中できるようにしているのだった。
…そして、 ついにその時が来る。
「よしっ、できたわよ!!」
その日の全ての授業が終わり、終礼が終わったところで、るいは声を上げた。
「…るい、急に声あげたらびっくりするじゃない」
[UCEE]と祭り関連の注意を終えたアンペアは、少しびくりとした様子で頭の電球を光らせて言う。
「あ、ご、ごめんなさい…」
「いやまぁ、別に怒ったわけじゃないから、別にいいけどね。…さて、それじゃぁみんな、お祭り楽しむ人は楽しんで。連中が現れたら危ないから、単独行動は避けてね?またね~」
そう言って、アンペアは教室を出ていく。
それを合図に、るいの声に反応して彼女を見ていた生徒たちも帰り支度をするなど各々好きに行動し始める。
「…るい、幾らやっとできたからって、あれはちょっと恥ずかしいですわよぉ?」
「…う、確かに恥ずかしかったけど。みんなに見られて…」
「ふふ。…まぁ、それはいいとして」
ラピラリは席を立ち、るいの机の横に立つ。
「ついに出来たんですのね。ミィちゃん用の、この後のお祭りで着る衣装」
「ええ、なんとかね」
るいはそう答え、手の中の衣装を見る。
薄紫色がメインとなったそれは、教室の照明の光を受け、少し輝いている。
いや、るいにとっては、実際見えている以上に輝いて見えていた。
(…なんか、凄いいいものができた気がするわね)
ミィのことを想いながらつくったからなのか。
今回の作品は急ピッチで製作した割には、ずいぶんと良いもののように、るいには感じられていた。
「…ふふ」
満足感を覚えて、るいは笑う。
そこに、柔和な笑みを浮かべ、ラピラリは言う。
「…ところでるい」
「?」
ラピラリは自分の鞄に手を伸ばす。
「…その服を丁寧に入れておくための袋、ありますの?」
「え?丁寧に…って」
首を傾げるるいに、ラピラリは言う。
「一応、これはプレゼントになるんじゃありませんの?ミィちゃんへの」
「…あ。言われてみれば、確かにそうかも」
ミィを想い、彼女のためだけにつくり、渡すものなのだ。
贈り物として意識し、作ったわけではないとしても、実態としてはほぼプレゼントと言えよう。
「だったら、ここに持って来たように、るいの鞄から取り出して手渡すより、専用の袋に入れて渡した方がいい気がしません?」
「…まぁ、そうかも。…けど、あんまり時間ないし、今から寄り道して袋を買うのも…」
少し困って言うるい。
そんな彼女を見て、ラピラリは、
「…実はこういう流れを想定して、わたくし用意してきたんですの」
言って、ラピラリは自分の鞄からあるものを取り出す。
「…高すぎず、安過ぎない、ちょうどいい感じの袋ですわ」
それは少し質のよさそうな、大き目の紙袋だ。
色はシンプルな茶色で、少しだけ木の良い香りがする。
「…わたくしのところで余っていたものですので、るいに差し上げますわ」
「…いいの?」
「ええ。別に貸しにしたりはしませんので、ありがたく受け取ってくださいまし」
笑顔で言うラピラリに、るいも笑って、
「じゃぁ、ありがたく受け取らせてもらうわ」
そう言って紙袋を受け取り、丁寧に折り畳んだ作品を中に入れ、袋自体にあった封のためのテープで封をする。
「…よし、これでいいわね。後は渡すだけ」
「そうですわね。…それじゃぁ、るい。あまり時間もない事ですし、帰りますわよ」
「ええ!」
そして、るいはラピラリと学校を出て、バスに乗り、軽い雑談をしてからいつものバス停で降りる。
「るい、初めてということですし、楽しんできてくださいまし」
自分の家の方へと足を向け、ラピラリは言う。
「ええ、そのつもり」
自宅を前にしてそう答えるるいにラピラリは笑いかける。
「それでは、また。もしかしたら後で会うかもですけど、そのときは屋台のゲームか何かで、久しぶりに勝負でもすることにしましょう」
「…そうね。そうなったら受けて立つわ。いい加減、勝って見せるわよ」
「それで、勝てるといいですけどねぇ。ふふっ。…では!」
いつもの笑い方に近いものを見せた後、ラピラリはその場を去る。
それを見届けたるいは、
(さて。後はこれをミィに渡していくだけね)
自分の両手の中にある作品を見下ろす。
(きっと喜んでくれるわよね)
その場を想像し、自然と笑いながら、るいは自宅の玄関へと足を向ける。
ミィへのプレゼント。ミィとのお祭り。
それに向かってるいが行こうとする。
…そのときであった。
「…やっと、見つけた」
「…え?」
見知らぬ声にるいが振り向く。
その視線の先には。
「お父さんが殺したいものを」
貫頭衣姿の、少女が立っていた。




