[第三章:答え、…そして]その3
「…最近、仲が良いです、ね」
パトロールの休憩時間。ムーンセイバーは妹たちのことを想う。
(あそこまで二人の仲がいいのなら、うちで引き取るのもいいかもしれませんね。養子にしたいというような方はまだ来ていませんし)
ミィの引き取り手の募集は彼女が身寄りがない事が判明し、まもなく行っているが、二週間という短期間しか経っていないこともあり、名乗り出た者はいない。
既に妹とミィは仲良くなっており、[守護剣]の稼ぎの良さから、ミィ一人ぐらいなら十分養える余裕もある([不確定存在者]は食事ができない分出費が端から少ないのもある)。
そのため、ミィを正式に家族に迎え入れてもいいかもしれないと、ムーンセイバーは思っていた。
「二人が受け入れるのなら、それも、です」
妹がもう一人増える。
そうなるかもしれないことに、ムーンセイバーはふっと笑う。
そして同時に、思う。
(…なら、なんとしても)
「…守らないと」
家族の身の安全を守る。
[守護剣]の職に就く前からのその意思を胸に、ムーンセーバーは休みを終え、パトロールに戻っていった。
▽ー▽
ミィやラピラリと共に話した日から数日。
るいは見つけ出した問題点を受け、それまでの作品を直す日々を送っていた。
着る者のことを思い、彼らに優しいよう、より動きやすく、実体化を阻害しないように。それでいてデザイン性は失わない。
そんな、最初はできたことを再びできるように、ミィの継続的な助けを得つつ頑張っていたのである。
そのかいあって、結果も出るようになっていた。
「……」
「…るい、そんなに驚くこともないですわよ?」
「…いやだって…」
「当然のことですわ。悔しいですし、羨ましいですけど、あなたは才能があるのですから、問題が解消されてくれば、こうもなりますわ」
ある昼休みの教室で、ラピラリは言う。
今日、るいはミィに助けを経て改修した作品を提出した。そしてそれは、今まではなかったAの評価を叩きだしたのである。
ずっと微妙な評価を受け続け、いつの間にかそれが当たり前になっていたるいは、その評価を受けたことによる嬉しさより、いつもと違うことへの戸惑いの方が、若干勝っていた。
「…まさか、上がるとは思わなかったわよ。そりゃ、改善してきた自覚はあったけど」
「…まぁ、素直に受け入れられなくなりそうなくらい、るいがずっと停滞して微妙な評価だったですものね。でも、今のるいは間違いなく進歩したのですわ」
ラピラリはるいの持った評価シートを指さして言う。
「それが、その証ですわ。確かに一歩を進んだという」
「…そうね。ふふ」
嬉しさが徐々に上回ってき、笑いだするいを、ラピラリは優し気な笑みと共に見る。
「…ミィのおかげで、近づいたわね」
ミィの手伝いをきっかけとして、実現した評価の向上によって自分が前に進めたことを実感し、るいはより喜びを噛みしめた。
「…まぁ、それはそれとして、ですわね」
そこで、ラピラリは話題を変えにかかる。
「るい」
「うん?どうかしたの?」
首を傾げて言うるいに、ラピラリは言う。
「知ってます?…明後日にある、あのお祭りのことを」
そう言って、ラピラリは教室の隅に張られたチラシを指す。
「祭り?…えっと、なんのこと?」
首を傾げるるいに、ラピラリはニヤニヤしながら返す。
「…ふふ。予想通りですわね、るい」
「…む。なんかムカつく」
「いえいえ、ムカつかなくていいですわ。これは、この都市に来て一年くらいのるいは、知られなくて当然ですもの」
「知らなくて、当然?」
「ええ」
頷き、ラピラリは席を立って、教室の隅に行く。
そうして彼女が取ってくるのは、先ほど指さした祭りのチラシである。
るいは手渡されたそれに大きく書いてある文字を読む。
「…フォレスト・アラヤ功労祭?」
「ええ。三年に一度、この都市の行政府主導で行われる、このあたりを開催地としたお祭りですわ」
ラピラリの言葉を聞きながら、るいはチラシを裏返す。
するとそこには、簡易的にではあるが、祭りの由来が書いてあった。
「…『最初期の都市建造の功労を祝ったのが、この祭りの始まりです。』…ラピラリ、これって?」
聞いたるいに、ええと言って頷き、ラピラリは答える。
「大雑把に言えばこのお祭りは、この[確地アリーヤ]に、[結界都市アラヤ]を入植のため建てる計画を実行し、それが完了したことを祝したものですわ。まだ、この都市が[フォレスト。アラヤ]の名称を付けられる前、今もある程度は残っている開発初期の区画ができた頃の話ですわ」
「…ああ、あのあたりの」
「ええ。当時は母船の[半確定存在]化のために、急いで星の実体ある地上部に生活基盤を築くことを要求されたましたわ。そのために都市の構築は準備不足気味な中で行われたらしく、結構大変だったとのことですわ。今はもう、再開発や都市の拡張でかつてほどその痕跡は目には見えなくなりましたけど」
「へぇ」
「そして、近年のものはその時の苦労と、貢献した方たちの功績を讃え、今の都市の基盤となった当時に感謝しようという意味も加えられて、このお祭りは続いているのですわ」
「なるほど。…詳しいわね、ラピラリ」
「まぁ、ここでの生活は長いので、それぐらいは知っていますわ。何気に、歴史の授業内容に関わる話ですし。…これを覚えておくと、少しテストの点は上がるかもですわよ?」
「…それは言外に覚えとけって言ってるのよね?」
最後に囁くように言ったラピラリに、るいが口を尖らせて言うと、
「まぁ、そうですわ。るいの成績は、控えめに言っても言わなくてもアレですもの」
「分かってるわよ。ムカつけど覚えておくわよ」
そう言ったるいはふと思う。
「…そういえばラピラリ。どうしてわざわざそんな話を私にするのよ?」
「それは単純ですわ。るいが折角の楽しいイベントに、存在を知らないだけでなく、大々的に告知がされているのに気づいていなかったからですわ」
(え、告知されてたの?)
そう思ったのが顔に出ていたのか、ラピラリは大きく頷き、
「…早いものは一か月前からでしたけど、一週間近く前あたりからは、明らかにチラシの配布数や掲載数は増えていましたわ。開催日が近いから、積極的に宣伝してましたわね」
「そ、そうなの…?」
(…。そういえばここ最近、おんなじデザインのチラシ、あちこちで見たかも)
振り返ってみれば、今ラピラリが見せているものと同じものは、この一週間ほど、都市のあちこちに張られていたように思える。
となれば、祭りの規模がそれなり以上のものであることが分かる。
それにここまでるいが気づかなかったのは、
「るい、なんやかんやミィちゃんとかの事に気を取られてましたものね。それで気づかなかったんですわ」
「…そうね。確かに」
最近はミィが来たことや服作りのことなどで他のことはあまり目に入っていなかった。
その結果、それなりに大々的に宣伝されていても気づかなかったのだろう。
「だから教えようと思いましたの。…まぁ、中止にするという話もありましたし、教える必要なくなった場合もありましたけど」
「あれ、そうなの?」
るいの言葉にラピラリは頷く。
「ええ。[UCEE]の動きから、ですわ」
「…ああ、なるほどね」
相変わらず、[UCEE]は怪しげな動きを続けており、事態の解決はされていない。
そんな状況では、中止の話が出ても不思議ではない。
「…幸い、最終的には、テロ組織に怯えていられるかという精神から、警備を強化した上でやることになったそうですけど」
「なるほどね」
ある種の反骨精神だろうと、るいは思った。
「まぁそういうわけで予定通りに開催する予定になったようなので、るいに話したわけですわ」
「そ。わざわざありがとね」
わざわざ教えてくれたラピラリに、るいは礼を言う。
「別に、お礼を言われるほどの事ではありませんわ。…と、それはいいとして」
「?」
ラピラリはチラシを元の場所に張り直しに行き、るいのところへ戻ってくる。
「それでるい?お祭りには行きますの?」
「え?」
(お祭りに…行く…)
るいはその言葉に、過去を振り返る。
(お祭り、か…。そういうの、行ったことはなかったわね)
一応、祭りと言うものは知っているし、近くで開催されていたこともある。だがそれは、この都市に来る前の話で、そのときは置かれた状況から祭りを遠目に見ることすら難しかった。
そのため、るいにとって祭りとはよく分からないものなのである。
「…私、お祭りって行ったことってないのよ」
「そうなんですの?」
「そう」
少しモヤモヤとした感覚を抱き、頷くるいに、ラピラリは笑う。
「…るい。お祭りって楽しいものですわよ?」
「そうなの?」
「ええ。いつもは車両の往来で使えない大通りはそのときだけ祭りの会場として特別に解放され、そこに多種多様の屋台が並びますわ」
ラピラリは続ける。
「[不確定存在者]が多い都市の性質上、遊びのための屋台が特に多く並び、[確定存在者]、[不確定存在者]関わらずに皆が集まり、店を巡って、遊んで楽しむ。祭りはそういうものですわ」
「…[確定存在者]、[不確定存在者]関わらず…いろんな店を巡って、遊ぶ…」
(…説明されても、ちょっとわかんないとこはある…あるけど…)
楽しそうである。るいはそう思う。
そこにラピラリは、
「人によってはそのときだけの特別な衣装を着て、祭りを楽しむものですわ」
「特別な衣装?」
「ええ。種類は祭りの形態やルーツとなるもの、それに個人の好みによりますけど。
とにかく好きな、特別な恰好で楽しむのですわ」
「へぇ…」
「…それで、ですわ。るい?行かないんですの?」
「え?」
「ミィちゃんとかと一緒に、そのお祭りに。…祭り当日、るいの予定は空いているでしょう?」
「…そういえばあんた私の予定把握してるんだったわね」
放課後にラピラリが月音と会い、予定を聞き出していたことを思いだしつつ、るいは言う。
「ええ。…それで、どうするんですの?まぁ、[UCEE]のことも考えれば、いかないのもありだとは思いますけど」
「そうねぇ…」
(お祭りね…)
るいはよく分からないながら、それを想像してみる。
ミィと一緒に、その日のための特別な衣装に身を包んで、屋台の並ぶ通りを歩く様を。
(楽し、そうよね)
ラピラリがここまで勧めているのもある。
ミィの安全と[UCEE]の動きは気にかかるが、姉たちも頑張ってパトロールしてくれている。警備も強化されると言うし、安全はある程度確保されているだろう。
(そうね。行ってもいいかもしれない)
るいはそう思い、ラピラリに言う。
「…ラピラリ」
「ええ」
「せっかくだし、ミィと行くわ。そのお祭り」
「そうですの。…ふふ、きっと、楽しい思い出になりますわ」
「そうね。きっと、楽しくなると思う」
「ええ。そうなってくれれば、勧めた甲斐もあると言うものですわ」
ラピラリは嬉しそうに笑う。
「…そう言えば、ラピラリは行くの?」
「ええ、まぁ。でも、わたくしはるいたちとは別で、家族と行きますわ。ですのでるいはミィちゃんと、楽しんできてくださいまし」
「そう。ま、そうさせてもらうわ」
「ええ」
二人は笑ってそう言う。
それと同時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、二人の会話は終わりとなる。
(…考えたら、楽しみになってきたわね)
妹のようなミィと一緒に、お祭りというものに行く。
るいはそれが、だんだんと楽しみになっていく。
(…折角なら衣装も自作しようかしら。…なら時間ないし、衣装はすぐにつくらないと。それと、家帰ったらミィも誘わないとね)
などと思いながら、るいは祭りのときの自分や、そしてなによりミィが着る衣装のことを考えるのであった。
▽―▽
ラピラリに祭りの話を聞いた日の夕刻、家に帰ったるいは、リビングでミィに声をかけていた。
「お祭り?」
ソファーで絵を描いていたミィは、るいの言葉に手を止めて振り返る。
「そう。詳しくは話すけど、もうすぐに来るそれに、一緒に行こうと思うんだけど、ミィはいい?」
るいのその言葉に、ミィは座っていたソファーから離れ、るいのところに駆け寄ってくる。
そんなミィに、るいは祭りの詳細を簡単に話す。
「…それで、どう?[UCEE]のこともあるし、別に行かなくてもいいっちゃいいけど…」
内心で共に行きたいとは思いつつもそう言うるいに、ミィは少し考える。
だが、すぐに言葉を返す。
「…うん。るいと一緒なら安心だし、ミィ行く!お祭りに」
ミィは嬉しそうに、笑って言う。
「ミィも、るいと一緒でお祭りは初めて!行ってみたい!」
「そう、良かった。…そうと決まったら、ね」
「?どうしたの?るい」
自室の方を見たるいに、ミィは首を傾げる。
それにるいは、
「実はね、お祭りって特別な衣装を着ていくらしいのよ。折角だから、それをつくろうって、思ってね。あんまり時間がないから、早めにとりかからないといけないの」
「そうなの?」
「そう。…だからミィ、楽しみにしてて?」
「?」
るいはミィを見て、笑う。
「ミィ。頑張って、ミィのための衣装、凄いのをつくるから。もしかしたら、渡すのがギリギリになるかもだけど…楽しみにしてて。最高のをあげるから」
「るい…」
ミィは嬉しそうに反応する。
「…お祭りの一日目は、学校が終わったあたりから始まるわ。そのときまでにはなんとかするわ」
るいのその言葉に、ミィは満面の笑みを浮かべる。
「うん!ミィ、楽しみにしてる!」
とても嬉しそうに、るいを見て答える。
「ええ、楽しみにしてて」
そう言ってるいは、帰るまでに考えていた衣装のデザインをより細かく想像しながら、自室へと歩いていった。
(本当に、楽しみね)




