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[第三章:答え、…そして]その2

「あは☆…はやく、なんとかしたいよね」

「…そうですね」

 パトロールの休憩時間に差し掛かる時間帯、マジカルセイバーとチェインセイバーは近くに会った公園のベンチで話していた。

「…この状況」

 現在、[UCEE]は今まであまり見られない、明確な目的に沿った行動を続けている。

 何かを探し、密かに行動し続けている。

 その捜索対象と、そうすることの目的は、未だ不明だ。

「…あは☆ムーンセイバーが最近捕まえた四人は一切口割らないし。その前に捕まってるのはそもそも今の動向のことを知らないみたいだし」

「…何も分からないですね。困ったことに」

 この都市にいる[UCEE]が今、何を目的としているかがわからず、ただにらみを利かせることしかない現状。

 それに、市民の確実な安全を望むマジカルセイバーは、歯がゆい気持ちでいた。

「…」

 心の底から市民のことを想うマジカルセイバーは、己の得物である、刃の仕込まれたステッキを手の上で回転させる。

「…早く、連中の目的突き止めて。阻止して。それに本拠点も探し出して。この都市を、平和にしたい」

「…そうですね。私も、そう思います」

 言って、チェインセイバーは立ち上がる。

 腰の装甲の裏につけられた、彼女の得物である鎖が軽く音を立てる。

「…だからこそ。早く、動きましょう」

「…あは☆そうだね」

 笑い、マジカルセイバーは同僚の言葉に頷く。

 それから、ベンチから勢いよく立ち上がり、公園の入り口を向き、言う。

「行こっか。チェインセイバーは」

「…はい」

 そうして、短い休みを終えた二人は、再びパトロールに戻っていった。

(必ず)

 平和を願い、悪を許さない心を胸に。


▽―▽


「なんの、ために…?」

 一瞬意味が分からず、るいは困惑する。

「…それって、どういう…」

「うん…」 

 戸惑いを顔に出してしまうるいに、ミィは言う。

「ミィ、ここまでるいの作品いろいろ着てきた」

「ええ…」

 ミィはソファーの上にある作品群をちらりと見る。

「どれも、とってもいい見た目だった。デザインっていうの?それはとっても良かったと思う。おしゃれだったり、格好よかったり、可愛かったり、どれも良かった…」

「なら…」

 何故、なんのためなどという問いが出るのか。

 るいが思わず、そう言おうとする前に、ミィは言う。

「…でも。るいの作品は全部、動きにくかったり、実体化が上手くできてなかったりだった。…優しさとか、思いやりを感じなかった…るいはいつも優しいけど、作品にはそれがなかった…」

「…」

「これを着る誰かのこと、考えてるって、思えなかった。見た目ばっかりよくて。…だから」

 ミィは再びるいに問う。

「ねぇ、るい。るいはなんのためにさっきの服つくったの?」

 言葉は続く。

「さっき、るいはミィが着てるのを見て、見た目を喜んでたみたい…だけど。…るいは、自分がそうやって気持ちよくなるために、つくってるの?」

「…」

 ミィの言葉は、るいの意識の根幹に問いかける。

「…るいは、自分のためだけに、[不確定存在者](わたしたち)の服をつくってるの?」

 ミィに優しくしてしたような、着る者への思いやりなど持たず、独りよがりにつくるのか。

 その問いに、るいは。

(…ああ。そうだわ)

 そうなのだと、自分はミィの言う通りだったのだと、思ってしまった。

(…そうよ。私は…)

「…確かに私は…そうしていた。自分のためにつくっていたわ…」

気づかず額に手を当て、るいは言う。

「…ええ、そうよ。優しくて、思いやりに溢れたあの人に憧れて…始めたことなのに…私は」

 るいは思う。

 自分が追う夢の原点は、優しく、思いやりに溢れた彼に憧れての事であった。

 そのはずなのに、自分は優しさと思いやりを失念し、いつの間にか、見た目、デザインばかりに目が行くようになっていた。自分だけが望む形のそれらを求め、着る者達のことなど一切考えずにつくっていたのだ。

 そしてそれこそが、ラピラリが指摘した問題なのだと、るいは思う。

 今までの自分が抱えていたものを、彼女はようやく自覚する。

「…今まで着る相手の事なんて、ロクに考えれてなかった…」

[不確定存在者]用の服はただの服や装飾品である以上に[ユレオサエ]の機能を補助し、実体化して自由な日常生活を送るための、必須の道具でもある。

故に、使う彼らのことを考え、思いやり、優しくあるよう、彼らを思って設計段階からつくる。そういったことが、特に必要であった。

にも関わらず、それがずっとできていなかったのだと、るいは自身を振り返り、思う。

(いい見た目とか、それしか考えてなかったんだからね。それも、私がいいと思うのだけだったた…)

意図せず、るいはため息をついてしまう。

「私一人がいいと思う見た目のものばっかりつくって、満足して。他のことは目に入ってなかった…だから、実体化に影響出すなんて間抜けなこともやらかした…」

 [不確定存在者]ための服の主な役割は、[ユレオサエ]を起点とした実体化、膜形成にある。

そのため、実体化に影響を出さないようにデザインするのは基本中の基本である。

また、着る者のことをしっかり考えれていれば、まず失念するようなことではないはずであった。

(…ほんと、馬鹿ね) 

るいはバカな自分に呆れ果てる。

(振り返ってみれば…最初はそんなことなかったのに…)

 最初、ラピラリがるいに絡み始める直前の作品らは、教師に言われたこともあって、しっかりと着る者のことを思ってつくることができていた。

 動きやすく、実体化にも影響を出さず、そして見た目も良好。

 そんな、バランスの取れた作品をつくることができていたのだ。

(なのにいつのまにか…ね。我ながら…ほんと間抜けね。しかも、言われてみれば簡単なことなのに、いつまでも気づかないで唸ってたとか)

 自分の間抜けさに呆れ果て、るいは吐息する。

「…間抜けで、馬鹿だったわ。私」

「るい…」

 落ち混んだように見えるるいを見、ミィは心配そうに言う。

「だいじょぶ?…もしかして、ミィが言ったことで傷ついた…?」

 不安げでもあるミィに、るいは首を振る。

「いいえ。ただ私自身が、あんまりにも間抜けすぎて、呆れただけよ」

「そう?」

「ええ。ミィは何も悪いことしてないわ。むしろいいことしてくれたわ」

(私の問題を、気づかせてくれたんだからね)

 るいは思う。

 ミィが先ほどの問いを投げかけてくれなかったら、自分はずっと進めずにいただろう。

 問題に気付かず、停滞し、夢に手が届かずにいるまま、燻り続けていただろう。

 それを、ミィの問いかけが変えてくれた。

 今までの自分の在り方を振り返り、問題を自覚できた。

だからこそ、るいは言う。

「ミィ、ありがとう。あなたのおかげで、私問題に気づけた…馬鹿な自分を知れた」

 自然と笑みがこぼれる。

「あなたが手伝ってくれたおかげよ。答えが出た。悩みはなんとかなったわ」

「…!ミィ、ちゃんと手伝えた…?」

「ええ。助けになったわ、ミィの行動、言葉は。だから…」

「ありがとう、ミィ」

 言って、るいはミィに笑いかけた。

 それに、ミィも笑って返す。

「…うん、るい」

 そうして二人はしばしの間笑いあう。 

(本当にありがとう、ミィ)

 るいはその中で再三の感謝の言葉を、心の中でかけた。

「…さて。これでようやく進めるわね。ラピラリにも、多少は胸張れそう」

「…ラピラリ?」

 るいが出した名に、ミィは首を傾げる。

「誰の事?」

「ああ、そういえばミィにはちゃんと話してなかったっけ」

 ミィは会ってこそいるが、名を知らないラピラリのことをるいは話す。

「私と初めて会った日、あるじゃない?」

「…うん。るいがミィを助けてくれた日だよね」

「そ。それでその日、[UCEE]から逃げた後、来た奴いたじゃない」

「…そう、だった?」

 ミィは心当たりがないのか、首を傾げる。

「…覚えてない?」

「…あ、うん」

「…ああ。まぁ、仕方ないか。一回会っただけだし。とにかく、ね」

 るいはラピラリの姿を思い浮かべながら、丁度視界の端に映ったものを無意識に指さして言う。

「ああいう、赤っぽい恰好した奴。それが私のクラスメイトのラピラリよ」

「へぇ…」

 ミィはるいが指さす方を見る。そして、手を振って言った。

「こんにちは、ラピラリさん」

「…え?」

 ミィの言葉に、るいは自分が指さしていた方を見る。

 その先、家の庭に繋がるガラス戸越しに、非常に見覚えのある相手が立っていた。

『どうも初めまして。そしてこんにちは、ミィちゃん。るいのクラスメイトにして、なによりライバルのラピラリですわ~』

 ラピラリである。

「な!?」

 るいはガラス戸に駆けていき、戸を開ける。

「あ、あんたなんでいるのよ!?」

「おやおや?いてはいけませんの?」

「…いや、まぁ…ダメとまでは言わないけど」

 誰かもわからぬ不審者ならともかく、気心の知れたラピラリならば絶対に入るなとまでは言おうとは思わない。

 彼女ならば盗みや落書きなどの行為には及ばないであろうと言う信頼らしきものもある。

 そのために、るいはやや勢い弱め言っていた。

「でもなんでいるのよ。…何か、企んでるんじゃないでしょうね…?」

 ミィが不思議そうに傍らに立つ中、疑いの目を向けるるいにラピラリは言う。

「ふふ、企んでいるわけじゃないですわ。わたくしはただ、様子を見に来ただけですの」

「様子を?」

「ええ。るい、ミィちゃんに試着してもらって、問題を探ろうとしていたでしょう?それがちゃんとできているか、見ていたのですわ」

「はぁ、なるほ…」

(ちょっと待って。それラピラリに話してないんだけど)

 今回のことはラピラリに一切話していない。勿論、今回のことをする意図についても、姉には話したがラピラリには言う機会がなかったのもあり、やはり話していない。

 そのため、彼女はるいとミィが今朝、何のため、何をやっているのかを一切知らないはずである。

 しかも、見ていたという言い方からして、最初の方からここにいたと思われる。

それは初めから知っていないとできないことである。

「…あんたいったいどうやってそのこと知ったのよ」

「ふふふ。簡単なことですわ。お姉さん経由ですのよ?」

「お姉さん…お姉ちゃんから?」

 るいは最近いつもより忙しい様子の姉を思い浮かべる。

「ええ。昨日帰り際、公園休んでいる月音さん…あ、あの恰好ならムーンセイバーさんと、ばったりあったのですわ。それで、ちょっと話しましたの」

「はぁ」

「いやぁ、楽しい時間でしたわ。一層ムーンセイバーさんと仲良くなりましたし。今後のるいの予定もおおよそ丸裸にできましたし。ムーンセイバーさんもいい息抜きになったみたいで、ほんとよかったですわ」

「へぇ…って、何しれっと私の予定を聞き出してるのよ!?」

 さりげなく聞き捨てならない情報が混じっていたことにツッコむるいだが、ラピラリは気にせず続ける。

「うふふ。やっぱりライバルのお姉さんとは仲良くしておくものですわね。おかげで今日、こうしてるいの様子をじっくり見れましたし」

「私の様子って…」

「ええ。調子にのった結果ミィちゃんに謝罪する様子に、ミィちゃんに言われ、問題に気付いて自己嫌悪に陥る様子など。しっかりくっきり、この目に焼き付けましたわ」

「な、なに見てんのよ!?」

(…全部見られてたっていうの…?恥ずかしい…!)

 暴走してミィに迷惑をかけるという醜態などを、よりにもよってラピラリに見られていた。

 そのことに、るいは恥ずかしさと悔しさを覚えずにはいられなかった。

「…く、覚えてなさいよラピラリ!今度は私があんたの恥ずかしいとこ見ていじってやるんだからね!」

「うふふ、まぁ期待しておきますわ」

 ラピラリは悔しさからそう言うるいの言葉を軽く受け流す。

 そして、続けて言った。

「いつかはわたくしの弱みを握れるぐらいに成長できるかも、ですわね。今回、問題に気付いて、無事前に進めたんですもの」

「…!ラピラリ…」

 ラピラリの後半の言葉に反応し、るいはそれまでの感情を引っ込め、ラピラリを見る。

 視界に映る彼女の顔には、いつのまにか優し気な笑みが浮かんでいた。

「…おめでとう。そう言っておきますわ」

全てを聞き、見ていたらしいラピラリは、穏やかな雰囲気と共に、るいに言う。

「ミィちゃんの助け有りとはいえ、あなたは前に進むことができた。そのことを、わたくしは心から、お祝いいたしますわ」

 そこには、嫌味も何もない。

 ただ純粋に、るいの成長を祝おうと言う意思が感じられた。

(…全く。あんたってやつは…)

 こういうことが自然とできるからこそ、軽くムカついたりしながらも付き合い続けているのだと、るいは思う。

それから、自然と笑みを浮かべながらラピラリに言う。

「ま、ありがと。ミィのおかげで、少しはあんたに対して胸張れそうだわ」

「それはよかったですわ。わたくしとしても嬉しい限りですの」

 ラピラリは笑顔のままそう言った。

「…さて」

 少ししたところで、ラピラリは両手をぽんと合わせる。

「折角るいの家に来たことですし、ミィちゃんと交流もしたいですし、ちょっとお話でもしませんこと?」

「?」

 ミィは自分を指さし、首を傾げる。

 それにラピラリは頷き、るいとミィの二人を見ながら言う。

「知りたいのですわ、るいが妹みたく感じるあなたのことが」 

「あ、あんたねぇ本人を前にそんな…」

面と向かって言われ、るいは恥ずかしくなって言う。

 一方、その様子を見たミィは、

「妹…」

 ふっと、嬉しそうに笑った。

「…反対、ではないのですよね?なら、ちょっとお話タイムですわ」

「…まぁ、いいわよ。まだ午前で時間あるし」

 吐息しつつ、るいが言うのに続き、ミィも言う。

「…うん、ミィもいいよ。るいの…お友達…あれ、ライバルだっけ?…も気になるし」

「ふふ、では楽しく、お話ししましょう?」

 そうして、三人はその日の昼頃まで、談笑する。

 ときにラピラリがるいを煽り、るいがそれにムカつくと言い、漫才の如きやりとりをする。

 そんな様子を見て、ミィは楽しそうに笑っていた。

 …とても、幸せそうに。

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