62・華やかなこと
あっという間に時間というのは過ぎていく。
マルは王太子の婚約者ということで部屋が王宮に移った。
ようやくツデからの側近や侍女たちが到着したのである。
「コリルバートさまあああ」
「ええい、泣くなあ!」
泣き虫兵士も来た。
こいつは鍛え直す、絶対。
一応、ブガタリアの医療関係者と置いて来た一部兵士も一緒に帰国。
先に交代の兵士は送ってあるので大丈夫だろう。
タリーさんは結婚後も侍女の仕事を続ける予定だが、式当日までは離れの部屋に両親と一緒にいる。
難民地区にはヴェルバート兄の視察団が補給物資を持って向かった。
本格的に公衆浴場や診療所などの施設を建てるための測量も行う予定だ。
俺は彼らにヤーガスアの文化や常識も尊重するように伝えてある。
ブガタリアにいる以上、こちらの指示に従ってもらうのは当たり前だが、それでも譲り合いは必要だ。
「誰でも生まれた国の文化を壊されるのは耐えがたいものだからな」
それが後々の反乱に繋がるのが怖いんだよ、俺は。
今、俺はヴェズリア様の執務室でお茶を飲んでいる。
難民地区のことで報告書を書かされているところだ。
もうすぐ西のヤロウの裁判が始まるからね。
側近や加担した兵士、商人なんかも捕らえられ、すでに西の砦の訓練コースにぶち込まれている。
ブガタリア民なら大丈夫だと思うけど、まあがんばれや。
父王の新しい奥さんはミサーリアさんという。
王宮内に部屋を与えられ、現在は王妃教育の復習中というところだ。
シーラコークのブガタリア大使館に、ミサーリアさんの元侍女や使用人からこちらに来たいという申し出が来ているそうで、公主宮の許可が下り次第迎えに行くことになっている。
ミサーリアさんは、シーラコークでは結婚式は挙げていなかったらしい。
シーラコーク国は一夫一婦制だから普通は派手にやるそうだが、公主一族のみ一夫多妻のため、いちいちやらないんだと。
「なんか可哀そうじゃない?」
ってことで、ヴェズリア様とカリマ母さんが結託して父王に式を挙げるように迫った。
そのついでにクオ兄とタリーさんの式もやることになる。
「なるほど、ヴェズリア様の狙いはそこですか」
「あら、何のこと?」
俺はズズズとお茶を啜りながらヴェズリア様の顔を見る。
父王と新しい側妃の結婚式が大々的に行われる。
といってもそこはブガタリア式なので、いつもの神座を作って祈って、あとは街の大通りでお披露目のパレードみたいなのをやって一周して帰って来る。
その後は晩餐会のみ。
それでも母さんたちは気合が入ってて、衣装係のおばさんと色々やっているっぽい。
衣装自体は花嫁側のものだからな。
派手にやってもらって構わないけど、俺の時もそうなるんだろうか。
ちょっと怖い。
クオ兄とタリーの結婚は、式無しでも良かったと思う。
だけどそうしなかったのはきっと俺のせいなんだ。
『コリルバートが普通に食事を摂れるようになったことに対するクオ兄への感謝』がある。
王族として感謝を形で示したいということなんだよね。
「俺としては大変助かります」
タリーにしても、ヤーガスアの高齢者の中には顔を知っている者もいるかもしれない。
それをツデ国の侍女をしている女性という印象を強く持たせる。
「タラリヤ王女に似ているけど違う人のようだ」ってね。
今までの彼女の苦労も吹き飛ばせればいいな。
発表から数日後、俺は王宮に呼び出される。
関係者が集められ、パルレイクさんからシーラコークの動向が伝えられた。
「公主陛下は十二番目のお子様を後継として認められました」
以前、シェーサイル公女のことを後継として発表しなかったのは、彼女自身がそれを嫌がったからだ。
彼女は思春期に父親の裏の顔に気付いてしまった。
それからは嫌われる言動を繰り返し、ついには他国へ逃げてしまう。
その反省から、今回は幼い頃から国民に発表し囲い込むようである。
それはそれでまた問題あるだろうな。
他国のことだから何も出来ないけど、こっちに影響がないことを祈るよ。
「それではミサーリアさんや双子の息子さんは大丈夫なのね?」
ヴェズリア様がパルレイクさんに訊ねる。
「はい。 外相閣下から直接、ご連絡をいただきましたので」
パルレイクさんが双子の義兄たちを見ると、二人とも頷いた。
もう裏の指令からも解放されたようだ。 良かった、本当に。
心配事もなくなったということで、さっそく式が行われる。
早朝から動き出す王宮、女性たちは着付けや化粧にと支度に忙しい。
俺たちはまだ時間があるので、離れでまったりである。
キュルン
ツンツンが珍しく俺の前に姿を見せた。
「ん?、どした」
撫ででやると【キテキテ】と呼ばれる。
スルスルと窓から出て行くので、俺も後を追う。
「あれ、じいちゃ、じゃなかったポズ老師」
「がはは、呼び名などどうでもよいわ、見ろ」
寝床用の箱の中でチィチィが丸くなってるね。
「え?、これ」
アーーン アーーン
俺は思わず笑ってしまう。
「ツンツン、お父さんになったのか。 チィチィ、良くがんばったな」
ツンツンは薄い緑でチィチィはアルビノの白い体色をしているが、産まれたのは一体だけで、とても綺麗な宝石のような緑色のゴゴゴだった。
「なんか、アヴェの目の色に似てるな」
「そうですね」
後ろからギディも覗き込んでいる。
「そろそろ王女様方にも魔獣の扱いを教えてはいかがでしょうか」
「うーん、そうだな」
ブガタリアでは男性に騎獣は必須だが、女性は兵士のみだ。
それにツンツンとチィチィの子となるとおそらく身体も小さいだろう。
でも気配遮断とか魔力増強とか俺の弟たちは優秀だから、そっちは期待出来る。
「妹たちには後で聞いてみよう。 それよりギディ」
「はい」
俺はギディに聞きたいことがある。
「お前さ、ソミとの式はいつ挙げるんだ?」
双方の部族長からの許可は取ったって聞いてるんだが。
「式はやらない予定です」
「そうなのか、それは残念だな。 ソミなら綺麗だろうに」
ソミエラは黒髪黒目で小柄だが、色白で目がパッチリとした美少女なんだよな。
想像したね、耳が赤いよ、ギディくん。
ブガタリアでは王族か部族長くらいしか式は挙げない。
一夫多妻だから妻たちの扱いに差が出るのを嫌がるんだよね。
たまに本妻と保護目的の妻との区別のために、わざわざ式を挙げて周囲に知らせる者はいるけどな。
「私のことより、次はコリル様の番ですよ」
ああ、それなあ。
俺の顔が暗くなるのを見て、ギディは「うれしくないんですか?」と首を傾げた。
そうか、お前はうれしいのか。 結構なことだ。
「おい、二人ともそろそろ準備しろってよ」
エオジさんが呼びに来た。
俺たちは支度のために離れに戻る。
王宮の庭に作られた神座の前で長老の神事が行われる。
午後からは街の真ん中を走る街道を、着飾ったゴゴゴで往復して国民にお披露目。
戻ってきたら着替えて、招待客との夕食を兼ねた晩餐会になる。
「コリルバート殿下、お加減はいかがですか?」
「ありがとう、ピアーリナ嬢。 その節は大変世話になり、またご迷惑をお掛けした」
第三妃ということもあり、国外からの客は少ない。
その代わり、次々と祝い品が届いているらしいけどな。
祖父様の話では、小赤やガラス細工などの取引をしたい国や商人からの贈り物なんだってさ。
「この分だと、コリルの時はもっと大量に来るぞ」
えっ、祖父様、大袈裟だよ。
「見て見ろ」
祖父様が目線で教えてくれた先にいたのは、イロエストの馬車に乗っていた老人だった。
「ありゃあ、イロエストの大商人の一人だ」
大柄な剣士が傍に付いている。 間違いなくあの爺さんだ。
「あの商人が出てくるということは小赤はイロエストでもかなり評判になっているということだ」
えっと、俺ちょっと頭が痛いんで早退していいかな。




