第6話 憤り
「ん・・・んー・・・」
目が覚めていく感覚に啓は強烈なだるさを感じながらも、仰向けの体を捻りながら雑草が生え茂る地面に手をつき上半身を起こす。
「何処だ・・・ここは?」
見渡す限りの木々と夜の暗闇、ほのかな月明かりに照らされた地面はどこか幻想的ですらあった。
『ケルス・・・起きてるか?』
問いかける。答えは分かりきっているが聞かずにはいられなかった。存在を感じることがまったく出来なくなっていた。ケルスは死んだ、直感的になんとなく、わかった。
―――いない
「くははっ・・・」
理解が出来ない。
「死んでるんじゃねーよ・・・お前だけ・・・死んでるんじゃねーよ!」
沸いてきたのは怒りだった。ケルスは死んだ、それは別にいい。自分が生きている、それは駄目だ。
納得が出来なかった。意識を失う前に見回したケルスの姿を覚えている。満身創痍のはずだったが、今は傷一つ見当たらない。傷が治っているのに自分は生きてケルスが死んだ理由はなんだ?
「お前だけ・・・なんで・・・」
答える人など誰もいないと知りつつも呟かずにはいられなかった。
「言ってたじゃないかよ? 死ぬ時は一緒だって。何があったんだ・・・何があったんだよ!」
叫びはただ森に響いた。
「クゥーン」
「なっ!」
突然鳴き声らしき音を聞き後ろを振り向いた。そこにいたのは自分の身の丈を超えるほどはあろうかという魔獣がいた。咄嗟に啓は構えそうになったが魔獣がおとなしく地面に座っていたので刺激をしないように後ろに後ずさりながら目の前にいる存在を観察した。
・・・大きい。昔に見たランヤに似ているが大きさは別物だ。瞬発力に任せた突進をされたら魔法で対処出来るか? そんな事を考えていたが首を傾げながらこちらの様子をみるその姿に違和感を感じる。こいつは何で襲ってこない? 魔力を観察すると昔にどこかで見たような空気を纏っていた奴を思い出した。
「・・・ラン?」
「ワンッ!」
名前を呼ぶと魔獣は―――ランは嬉しそうに吼えた。何があってこんなに成長したかは分からないが、自分が躾けた方法が真っ当なものでは無かったので会ってもまともに相対出来た事がなかったはずだ。それが目の前のそれはまるで忠犬のような様子で自分を見つめ返してくる。好意を向けられているようだが、啓はランにどうしようも無い憤りを抱いた。
―――あの時、何処にいた?
ケルスの家族と一緒にいたこいつは、どうして此処でこうして生きているんだ? 目覚めてから次々に出てくる疑問だがこれはすぐに予想が出来た。
「お前・・・自分だけ逃げたな?」
「ワン?」
言葉のわからないランはただ首を傾げるがどうでもよかった。
「・・・飼い主の所に送ってやる。臆病の役立たずは生きててもしょうがないだろう?」
手に火を纏う。赤く揺れる炎はただ弱く輝いた。




