第2話 焼かれた家族
久しぶりに踏む故郷の大地を懐かしみながらケルスはゆっくりと歩いていた。
『風で飛んで行けば早いだろうに』
『たまにはゆっくりしたいんだよ。最近はバタバタし過ぎてたからな』
八年ぶりに会う家族に話す話題を考える。
冒険者として解決した依頼は少なくないし、話の種は尽きない。しかしまず最初に言わなければならない言いづらい事があった。
『なぁ、やっぱり怒られるかな』
主語がない。だがそんな問いかけに啓はすぐに返す。
『・・・今頃心配することか? この八年、俺が何回も家に帰ったほうが良いって言ったのにその度に理由つけて嫌がっただろ』
『だってさー・・・冒険に出た手前、すぐに帰るのもなんかあれじゃないか。んで色々考えてたら戻るのも気まずいぐらい家を空けちゃったし・・・どうしろっていうんだよ!』
『俺に聞くな! それだけ長く自由気ままにやって来たんだから文句の一つぐらい言わせてやれ』
『やっぱりどうしようもないよなー』
曇った空を見上げ今日中には家につくかなーと、とりとめのない事を考えていると遠くから空に上がる黒い煙を見た。
『・・・どっか火事・・・か?』
『あの方角は・・・ケルス、お前の・・・家・・・じゃないか?』
『いや・・・でも・・・なんで?』
落ち着いて啓と話をしながらケルスは何か悪い予感のようなものを感じていた。
『急げ・・・なんかやばい事でもあったんじゃないか?』
ケルスはその言葉を聞いてすぐに足元に魔力を集めてそのまま爆発させた。
"爆動"――爆散の法技を用いたその移動手段は一歩ごとに40mほどをを瞬間的に飛ぶ。長い月日のなかで主に戦いにしか用いられてこなかったそれを躊躇なく連続で使用した。
―――ボン
足元にあった土が一歩ごとにはじけ飛ぶ。足が軋み痛みを訴えてくるが治癒をして黙らせる。
―――ボン、ボン、ボン、ボン
まだ着かない。確実に近づいてはいるが近づけば近づくほど焦燥感は強くなっていった。
―――ボン、ボン、ボン、ボン、ボン、ボン
見えてきた。家の周りを見た事のない誰かが囲んでいた。
煙が空に伸びていたのは自分の家だった。視認した時にすぐに風を纏った。誰が、何故、何をしているのか、何も考えられなかった。
「邪魔だ!」
そう叫び家の前にいた数人の見慣れない人を吹き飛ばした。
走って来たときの勢いをそのままに赤く燃える家の中に飛び込んだ。
まず見つけたのは父と母だった。
「父さん! 母さん!」
幸い両親のいた部屋には火が回っておらず、すぐに駆け寄る。返事がない。
「とうさ・・・」
返事が無かったのは当たり前だった。二人はすでに死んでいたから。母を庇ってか覆いかぶさっていた父の体は刃物のようなもので切り裂かれたのか無数の切り傷があった。その腕の中にいた母も体を何かで貫かれ事切れていた。
「な・・・あ―――」
『落ち着け!! もう死んでるんだ!』
「これが落ち着いて―――」
『馬鹿野郎! 弟を見つけてからにしろ! 全部それからだ』
弟・・・そういわれて頭が一気に覚めた。そういえばまだ見つけていなかった。広くは無い部屋を駆け回り、溢れ出る黒い煙を吹き飛ばし、部屋中を探す。いない・・・いない・・・いない・・・見つけたのは庭の出口近くにある廊下だった。
「ダーディ!」
駆け寄る。父さん達と違って体への刺し傷は少ないようだ。しかし少ないだけであってそれがこのままでは致命傷にならないとは別の話であった。
「兄・・・様・・・」
「しっかりしろ! いま助ける」
『啓、なんとかしろ!』
『もうやってる!』
腕を見るといつの間にか治癒を始めていた。しかし治りが遅すぎ、ダーディの傷口は中々塞がらなかった。
「大丈夫だ・・・助ける・・・絶対に助ける」
言葉が震える。
「ごほっ、ごほっ」
咳き込む弟の様子にまた動揺する。
「啓どうしよう・・・傷が・・・咳も!」
『ここを出ろ! 治癒に専念してると煙を吹き飛ばせないんだ!』
その言葉を聞いてすぐにケルスは弟を背に抱え、家に外に飛び出した。
外に出ると曇っていた空からは雨が降っていた。
「啓、早く、このままじゃ・・・このままじゃ!」
地面に弟をゆっくり降ろし横たわらせる。
『やってる! やってるけど・・・ふさがらない』
傷の治りが遅い。通常であれば刺し傷や切り傷などを瞬時に治せる自分が治せない。啓は一つだけその原因に思い当たる理由を知っていた。
―――あまりに死に近づいた者の傷はほとんど治せない。
知識ではなくケルスとの冒険の中で得た経験則。
「兄様・・・」
「喋るな! 大丈夫だ。治す・・・治すか―――」
家から外に運び出し先ほどまであまり目を向けていなかった顔に目を向けケルスは絶句した。弟の顔のほとんどが焼かれている。顔の右半分は黒く焼け爛れ目は白くにごり、声は擦れきっていた。
「兄様・・・そこに、いますか?」
目が見えていないのか伸ばされたその手を掴む。
「どうし、て? なんでこんな・・・あぁ、いる・・・いるから・・・喋るな・・・頼む」
「・・・お願いが、あるんです」
「お、願い? ・・・言ってみろ。俺がなんでも叶えてやる」
啓は口を出さなかった。治癒に専念していたというのもあるが喋るな、といい続けてきたケルスが"願いを聞く"という意味を悟ったからだった。
―――手遅れだ。
言いづらそうにしていたダーディは意を決したように顔を上げた。
「仇を、父さんと・・・母さんが、あいつらに、王の、剣って・・・名乗って、ました」
「あぁ分かった・・・分かった。皆殺しだ。ぶっ殺してやる・・・命令したやつ、襲ったやつ、家族含めて全員俺がぶっ殺してやるから・・・安心しろ、一人も逃がさないから・・・だから」
その言葉を聞いて安心したのか握っていた手から力が抜けたのが分かった。
「あ・・・・・・」
それが何を意味するのか
「あ、え? だって・・・え?」
何を意味するのかを
「あ・・・あ、あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああぁあぁぁああああぁぁぁあああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああぁぁああああぁぁぁああああぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!」
理解した




