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英雄の法  作者: 西表山cat
2章 幼い歪み
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第14話    中間試験終了

『くくく、素晴らしい負け方だったじゃないか』

 試験の手伝いを一切しなかった啓は遠慮せずに笑った。

 一日目の試験の結果は実に偏ったものであった。ケルスは負けに負けまくり、一部の優秀な生徒がほぼ負け無しで勝ち上がっている。それは傍目から見て明確なほど結果として現れていた。

『いいんだよ。啓だって知ってるだろ? 元々戦いに関する才能なんて自分にはないんだよ』

 今日の試験を見て啓は確信した。弟のダーディとの訓練、ランヤの戦い・・・どれを見ても試験の中のケルスよりも強かった。

『嘘だな。本気を出せば余裕でディスチェにも・・・ディスチェは言いすぎかも知れないが、上位には少なくとも入れるだろ?』

『無理だって。説明しただろ? あれはダーディにしか使えない―――』

『何で嘘をつく? これだけ長くいるんだぞ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?』

『はぁ・・・いい加減しつこいぞ』

『んー、まだダメか。いつか教えてくれよ』

『そんないつかはこない。変わるぞ』

『ん? ・・・あぁ、試験で疲れただろ。ゆっくり休め』

 話しながらいつの間にか学園の出口まで来ていたようだ。




 森に向かって歩いていると、細長い氷柱が空から降り注ぎ足下に突き刺さる。こんな事が出来る奴は自分以外に一人だけだ。

「・・・どういうつもりだ? レン」

「どういうつもり、貴方にそれを問う資格がありますか?」

 先に来ていたレンとフランが何も見えない場所から突然現れる。

「俺が何か悪いことでもしたか?」

「悪い事・・・悪い事・・・わからないんですか! 今日の負け方です! いつもの貴方はもっと強いのにどうして・・・どうして手を抜くんですか!」

「それがどうした? お前らに答える理由は無い」

 目的はすでにレンに伝えている。だがフランに疑われないように知らないフリをするその姿は実に滑稽だった。

「ケルス、このままじゃ―――」

「黙れ、フラン。今までの約束通りお前らは昼間、俺に話しかけるな。あと試験最中に睨みつけて来るのもやめろ、うっとうしい」

「でも―――」

「フラン・・・今までよく俺を手伝ってくれたな。明日、試験が終わったら理由を教えてやるから、お前らはただ勝ちあがればいい。最初に言っておいた"あの二人"だけには、俺の言ったとおりにしろ。出来なければ悲しい事になる・・・レン、お前なら俺が言っていることがわかるな?」

 そうレンに言葉を投げかける。この四ヶ月、一度も属性の訓練でフランには暴力を使ったことはないが、レンには一度だけ使っている。それを覚えているのか少しだけレンが体を震わせる。

「わかりました。ケルスがそういうなら」

「フランはやっぱり物覚えがいいな。レンとは大違いだ」

 そう言いながらフランの手を引っ張り、自分の胸元に引き寄せ抱きしめる。

「っん!」

「フラン・・・」

「今日はこれまでだ、明日またな」

 話を切り上げ寮に帰る、どうせ明日までなのだ。




 翌日、ジェンヤ先生とユンラウェーズ先生の生徒同士の試験が始まり、今目の前にいるのは懐かしい顔だった。

「久しぶりだね。ディスチェ」

「ケルス、無駄口はたたくな」

 訓練場の中心でお互いに向き合い構える。

「はじめ!」


 その声が聞こえた瞬間にケルスの視界からディスチェが消える。見えなくても関係ない、そういう法技を身に着けている。火球に爆散を乗せたものを四つ、

自分の四方で破裂させる。

「っぐ!」

「そこか」

 怯んでいるディスチェに向かって走り両手に炎を纏う。すぐにディスチェは体勢を立て直し、同じように自分に向かって走ってくる。すれ違う瞬間、自分の手を伸ばしたがディスチェには届かず、逆に胸を掌底で打たれる。一瞬、全身に衝撃が走り、苦しみのあまり倒れる。

「まだ・・・やる?」

「はははっ、無理だよ。こーさん」

 こうしてケルスはまた負け続けた。




 レン対ディスチェ


「ディスチェさん・・・久しぶりですね」

「レン・・・さんですよね。ずいぶん強くなったようで」

 お互いに未だに負けなし。ディスチェも気を引き締める。

「はじめ!」


「では先手は頂きます」

 そう言った瞬間、レンの周りに水が飛び散り瞬時に凍結する。

「果たして貴方に避けられますか?」

 徐々にレンの周りに存在する氷の礫が動き始め、レンを中心に円を描き始める。

「・・・避けてみせる」

 その言葉を聞いた瞬間に氷の礫はディスチェに向かって射出された。連続して礫はディスチェに避けられ、地面を抉り続けた。しばらく氷の礫が地面に当たる音が響き、徐々に速度を上げた礫はやがて風を切る音を出す。

「頑張りますね」

「・・・っ」

 休まずに降り注ぐ礫は少しずつディスチェの体力を削り続けた。

 避け・・・避け・・・避け・・・


 ずっと続くと思われていた礫の連激は唐突に終わりを告げた。

「はぁ・・・はぁ・・・もういいんですか?」

「降参」

「・・・え?」

「降参です」

 こうしてレンとディスチェの試合は、ディスチェの勝利で終わった。


「ケルス……んな事を言わ……ればあいつ……てすぐに……てやるのに」

 呟かれたその言葉を聞いた人は誰もいなかった。




 フラン対ジンガ


「よう! お前が風を使う噂の奴か。まぁ珍しいだけだと思うが宜しくな」

「・・・」

「おい!! 挨拶も出来ねーのか!」

「はぁ、うるさい」

「・・・なんだと?」

 険悪な雰囲気が流れ、その場にいる周りの人たちもたじろぐ。

「え、えーと・・・はじめ!」


 開始の声が響いた瞬間にフランは突風を放つ。

「無駄だ!」

 それを見越していたジンガは地面に手を当てる。岩が盛り上がり壁を作り、風を全部防いだ。

「やはり防御魔法特化での格闘狙い・・・ですよね」

「なんだよ、俺の試合見てたのか?」

「・・・残念です。とても」

「何をいってる―――おわ!」

 岩の横から突風が吹きジンガを場外に吹き飛ばした。それだけの事だった。

 フラン対ジンガの試合はフランの勝利。


「"自分が知らない物に接する時、人は愚か過ぎることがある"。信じてはいませんでしたが、ここまでとは・・・。ケルスなら壁を作りながら動くのに・・・」

 遠距離攻撃は左右から来ない。授業で教わった属性のみであればそうだったが彼女が使っていたのは風なのだ。




フラン対ディスチェ


「よろしく」

「貴女が先ほど・・・是非よろしくお願いしますね」

 フランから放たれる小さな殺気に、誰も気がつかず穏便に試合が始まる。

「はじめ!」


 始まった瞬間にまたディスチェが素早く移動し、フランの視界から消える。

 しばらくして攻撃してこないディスチェに痺れを切らしたフランが問いかける。

「・・・来ないんですか?」

 ディスチェも動きを止め、フランに問いかける。

「どうして何もしない? 今までの奴らはすぐに風の魔法で吹っ飛ばしていただろう」

「どうでもいいでしょう? 早く来てください」

 本能が危険だと言っていた。獣人特有の能力だったがディスチェは今までそれを感じたことが無い。初めて感じる確かな予感に、ディスチェは遠慮無く従う事にした。

「降参だ」

「・・・私、何もしてないんですが」

 フラン対ディスチェの試合はフランの勝利。


「殺気は抑えていたはずなのに・・・至近距離に来たところを一番強い"風"で、岩にぶつけて殺そうとしたのがいけなかったのかしら?」

 ケルスをディスチェが苦しめていた。それを見てしまったら許せなくなった。




そして最後・・・レン対ジンガ


「今度は負けん・・・絶対に勝つ」

「降参します」


「・・・今なんと言った?」

 対戦相手から発しられた言葉が信じられずに問い返すジンガ。

「降参します。時間の無駄です」

 時間の無駄、そう言われてジンガは自分が抑えられなくなるのを感じた。


「巫山戯るな!!」

 レンは自分に放たれる火球を氷の壁で防ぎジンガを睨みつける。

「・・・どういうつもりですか? 私は降参したんですよ」

「関係あるか!! 貴様こそ、どういうつもりだ!!」

「言ったでしょう? 時間の無駄です。はぁ、次は容赦しません。では失礼します」

 そう言ってレンがその場所から離れようとすると、周りがざわめき始め、先生もジンガの様子に気がつき駆け寄ってくる。

「先生がきちゃいましたね」

「お前が・・・お前のせいだろうが!!」

 ディスチェほど速くは無いが、全速力でレンに迫るジンガを止められる者が誰もいなかった。獣人が全力で人間であるレンを攻撃すれば、どうなるか分かりきっている。しかしジンガの拳がレンに届く瞬間にジンガは吹き飛ばされた。

「っぐふ」

 岩にぶつかり動かなくなるジンガを見ながらレンは不満そうにフランを見つめる。

「止めなくても私は大丈夫でしたよ?」

「私が止めてなかったらレン、殺してたでしょ。その技は先生からも禁じられてるんだから、早く解除して」

「・・・ほら、解除したわよ」


 その後、騒ぎを見ていた人も多かったということもあり、フランがした事は特に咎められずに、ジェンヤ先生による怖い教育が、目を覚ましたジンガを待っていた。


 それからは特に問題も起こらずに試験が進み、無事二日ですべて終了した。


この章の終わりにあと1話短いの投稿してその後整理をいろいろします。

次の章では一気に話が飛びます。

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