第12話 啓の闇 ―支配― 後編
後編が短くなったので中篇とくっつけました
紛らわしくてすみませんが***で区切ってます
しばらくしたら消しますがそれが追記した境界線になります
やまずに降り続く雨は次第に強くなっていった。
「知りません。知る必要もありません」
そう言ってすぐにレンは走り去ろうとした。
「―――フランを殺す」
そう言うとレンはようやく話を聞く気になったのかようやくこちらを向いてくれた。
「・・・どういうことですか?」
「今お前が俺の前から立ち去ったら、フランを殺す。そう言っただけだ」
「貴方には出来ませんし、させません。先生に―――」
「お前の話を誰が信じる?」
「そんなの・・・話せばすぐに―――」
「レン、お前は何処までジェンヤ先生の、そして他の先生の事を知っている?」
「少なくとも先生が貴方のした事を知れば、貴方は終わりです」
「どう伝える?」
「どうって・・・貴方が殺したって、伝えます!」
「で、信じると思うか?」
「信じさせます」
「無駄だ、絶対に」
確信がある。絶対に"先生達"は信じない。それどころか自分ではなくレンを疑うことになるはずだ。
「ケルスさん、あの人たちが死んだ時も一緒にいたんですよね。知ってるんですよ? なら先生は取り合ってくれるはずです」
どうやらレンは事件の詳細を少ししか、知ることが出来ていないようだった。
「はぁ・・・詳しく教えよう。まずあの一件、そもそもあの三人の殺害方法は先生達に特定すらされていない。そして俺は、レンも見てただろ? あのあと仲良くさせてもらっててね。誰がまだ俺があいつらを恨んでいたと思う? お前が知らせる? してみろ。逆に俺はお前がやったと言おう」
「嘘です! そんな事が・・・」
「嘘じゃない。そしてお前が今俺の言った事すべてを先生に伝えたとしたら・・・別にいいぞ? してみろ。お前はまず聞かれるだろう。誰から聞いたか、と。誰から聞いたと言う、まさか俺からか? 誰が信じるんだ。自分からわざわざ詳細に犯行を自供したなんて。誰も信じない」
「信じて・・・くれます」
「言葉が震えてるぞ? あまり動揺するな。更にだ、お前の事を先生がもし、もし信じたとしてもだ。俺はこう言わせて貰おう。あの噂を流したのは実は"レンでした"、ラージ達がそう言ってたのを思い出しました、と。それを弁明したあとに言わせてもらおう"もしかしたらレンが口封じにあいつらを殺したのかも"と」
「先生が貴方の言葉なんて」
「信じるさ! 絶対に信じる。そうだな・・・後あのラージ達が喧嘩を起こす時フランを連れていなくなってたな。あれも先生に言わせてもらおう。先生はフランに確認するだろうが・・・フランはお前を庇うかな? 最近見てて分かるだろ。どんどん元気が無くなっていくフランを。罪悪感に苛まれてるようだぞ。もっとも俺がそうしたんだけどな」
「・・・・・・貴方が」
そこまで言うとレンの腕に纏っている水の魔力がどんどん形を変えていく。
「お前が原因だったのか!」
そう言い、怒りを爆発させ自分に向かってくるレンを見てまた自分も構える。
「死ね!」
水を纏った手が自分の鼻先をかすめる。すばやく突き出された拳に躊躇は無く、弱さもない。雨が降っているので火はほぼ役に立たない。自分も両手に水を纏いながら拳を固める。狙うのはレンの頭では無く腹。
想像するのはパズルの様な魔力。
"爆散"で衝撃を与えれば動きが多少動きが鈍るかと思ったが避けられる。次は頭では無く自分と同じようにレンもこちらの胴体を狙ってくるようになる。避けられる、そう思った瞬間に見える魔力が一瞬で一気に伸びた。
まずい。
そう思ったときにはすでに遅く水が一気に伸び、腹に激痛が走る。そのまま吹っ飛ばされ樹に当たる。魔力を見てもいまいち理解出来ない性質だった。ただ形が変わっただけなのだ。
「おい、何でこんなに強いんだよ!」
思わず愚痴る。別にまだ追い込まれていないので、それほど危機感を抱いてなかったが想像以上に強く驚いた。
「一年前の私とは違います。それに・・・雨が降っていますからね、私、水の魔法は得意なんですよ?」
「知ってるよ! そんな事言われなくても・・・だから雨の日にわざわざここにまで誘ってきたんだ!」
そう知っていた。
水は得意。二年になる時の試験、普通使うはずの火を使わずに水を使っていたのだ。かなり得意と予想はしていた。
「知っていてわざわざ雨の日に誘い出すなんて馬鹿ですか?」
そういいながらこちらに一歩一歩近づいてくるレン。
「覚えてるか? 二年になる時の試験でさ、お前、ディスチェに試験石をすぐに割られて泣いてたじゃないか。あれ見て水使えても、それほど強くないかなーって思ったんだけどな」
「・・・あれを見ていたんですか? 悪趣味ですね」
「あぁ悪趣味だ」
そして自分の前で立ち止まるレンを、見上げると同時に風を吹かせる。・・・特に深い意味はない。
「下着見えてるぞ」
「どうぞ見てください。貴方はここで死ぬんですから」
「ちっ・・・これだから殴り合いはしたくなかったんだが、な!」
言い放つと同時に地面に"爆散"を合わせた水球を放つ。飛び散る水は明らかにケルスが使う火よりも散り方が悪かった。
『くそっ、法技はまだ苦手なんだよ』
それでも怯ませるのには十分だったので、その隙に距離を取る。
「抵抗しないでください。殺せないじゃないですか」
「抵抗するさ。死にたくないんだ」
距離を詰めまたお互いに魔法を纏っての格闘になる。お互いに殴り合いになったが魔法の特性が分からない以上、回避優先になり大きな打撃を与えることが出来ずにお互い疲弊する。
息が荒くなる、苦しい。それは相手も同じようだ。
「はぁはぁ・・・なぁ、ちょっと休憩しない?」
「・・・ふぅ。嫌です。貴方はここで死ぬんです。私が必ず殺します、フランには手を出させません。唯一の・・・友達なんです!」
そしてまた戦いが再開される。気が少し緩んでたのかもしれない。叩き込んでくる水球を避け相手に大きな隙が出来た。
勝った。そう思った瞬間、紫の空気が一気に広がる。
『くそっ・・・ありかよ。そんなの』
突き出そうと動かした手は止まらず、レンに当たると思われたその攻撃は、突然目の前に現れた水の壁に阻まれる。爆散の水を纏った手は壁にぶつかった瞬間に、強い衝撃と共に弾かれ、体勢を崩す。
――あ、やばいかな?――
自分に避ける隙は無く、相手も攻撃をやめる理由は無い。さっき食らった攻撃とは違い更に強い衝撃に襲われ、地面に叩きつけられる。
「がはっ!」
痛みが強すぎ動けない。
レンに目を向ける。
「これで終わりです」
「・・・降参するって言ったら・・・やめてくれる?」
やめません。
そういって自分の首に手をかけてくる。
嬉しいと、純粋に思った。
「何を笑って―――んぐっ!」
手を腹に当てるレン。
「な・・・にこれ。何・・・で」
レンの腹部は真っ赤に染まっていた、失血を防ごうと手を腹部に当てているが、手の平の隙間から血が少しずつ漏れているのか服の赤い部分が徐々に広がっている。そしてゆっくりうずくまり小さくもがく。
「なんで? いつのまに・・・何これ・・・」
「痛いだろ。ここでお前は死ぬんだ」
さっきとは立ち位置が変わっていた。倒れるレンを見下ろす自分。
ただ小さな水球を放っただけだった。"貫通"を付加して。
"法技"に様々な種類があり、今まで見た事があるのはケルスの"爆散"、二年の試験で見た絡みつく火・・・"粘着"、最後にラージが死に際に放った水の粒での"貫通"。
この三種類で魔力のイメージはそれぞれ"爆散"がパズル、"粘着"が柔軟、"貫通"が螺旋だった。難易度はまったく別で、パズル、柔軟の魔力は全く想像がつかず普段頻繁に見ているケルスのパズルが、かろうじて使える程度だった。それに対して貫通・・・恐らく一番汎用性がある法技、螺旋の魔力これが一番わかりやすいものだった。すぐに練習したら爆散よりもかなり楽に覚えることが出来た。一番便利なわりに覚えるのが楽とは・・・としみじみ思ったものだ。
「大丈夫? 痛そうだけど。うわー・・・すごい血」
「貴方が・・・やったんじゃないですか。何を・・・したんですか?」
未だにレンは腹を押さえ、地面で虫の息になっている。
「法技、レンさんも使ってたでしょ。自分のは貫通だけど、レンのは何?」
「だれが貴方に教え―――がぁぁぁあああ!!」
腹を思い切り踏みつける。容赦はしない。殺意をもって自分を殺そうとしてきたのだ。
「もうちょっと女らしく悲鳴をあげられないの? 早く教えてくれ」
「余計な・・・お世話です。私はここで―――ぐうぅっ!」
あまり痛くないようだったので今度は腹に当てた足に力をいれる。
「死ぬの怖いよね? 早く言いなよ」
「怖く・・・無いです。はぁ・・・はぁ・・・絶対にいいません」
「そっか・・・じゃぁごめん。今からすごい嫌な事をさせてもらうね」
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虚ろな目をしたレンの体は赤く染まり、長く地面に倒れていたので泥だらけになっていた。雨が少しづつその血を洗い流していたが色が消えるまでは大分時間が掛かりそうだ。
「んー・・・その服はもう着れないな。」
「・・・」
穴が開いてぼろぼろになった服をレンは着ながら、無言で衣服を整えた。のろのろとした動きだが明確な殺意を目に宿し自分を睨みつけてくる。
「傷はもう全部消えただろ。ほら、これ着ていけよ」
自分の上着を脱いでレンに渡す。
「・・・」
「おい、まだ怒ってるのかよ」
「あんな・・・」
「あんな?」
「・・・もういいです。約束は守ってください」
「約束なんてしてないけどな。ほら、ちゃんと着ろよ」
「もしフランに私と同じような事をすれば―――」
「ごめん・・・もう時間が無いんだ。明日学校で」
ケルスと変わる約束の時間が迫っていた。後ろでレンが何かを言っているが気にせず、すぐに寮に向かって走る。
『啓、すごい寒いんだけど』
『そりゃ長い時間ずぶ濡れだったからねー』
『俺の上着どこにやった?』
寮に帰るとさっそくケルスにレンに渡した上着の事を訊かれる。
『ごめん、無くした。』
『・・・・・・どうしよう。俺すごい怒ってる』
『いや、本当に悪かったと思ってるよ。ほら、あっちの世界の服装の知識も開放したから許してくれ』
恐らくケルスが興味を示さないだろう異世界の服装の知識を渡してみる。許してくれないだろうなーとは思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
『許すかどうかは内容次第だな』
日本での自分はファッションに疎く、あまり知識自体は無かったが何もしないよりかは良いだろうと思っていたが、要らない、と言われることも無くケルスはしばらく日本の衣服の情報を見ていた。
翌日 早朝
『純白のシャツってカッコイイな。特に袖が』
『相変わらずのセンスだな。シャツがカッコイイと思うのか』
ケルスが見ていたのはどうやら就職活動でもよく使われるスーツの下に着るような長袖のシャツだった。
『いつか作るぞ』
『・・・本気か』
『本気だ』
登校するとレンがフランに声を掛けているのが見えた。フランは暗い表情が一瞬明るくなったように見えたがすぐに授業が始まり自分はケルスの中で眠りについた。
『啓、時間だぞ』
『・・・・・・ん? あぁもうそんな時間か』
ケルスに呼ばれて起きたらすでに下校が始まっていた。レンが自分を見ているのを確認して訓練の場所に向かう。
訓練場所に着くとすでにフランとレンがそこで待っていた。
「ケルス・・・私―――」
「フランちゃん、気にしなくて良いんだって!」
フランとレンの表情は対照的だったが、少し内心で驚く。レンとは多く接していなかったがフランが相手だとここまで笑顔になれるんだなと思いながら早速、用件を切り出す。
「フラン、レンからどこまで聞いている?」
「えっと・・・ケルスがあの事はもう、気にしないって言ってるから訓練に付き合って欲しいとしか・・・」
「レン・・・まだ伝えてなかったのか?」
事前にできる限り伝えてほしいと頼んでいたはずだがフランにはほとんど伝わっていなかったようだ。
「そんな顔で睨んできても無駄です。フランちゃんがいるんですから、何もできないでしょ?」
「レン・・・ちゃん・・・」
レンは人目が無いこともあり、まったく普段の姿からは想像出来ないような態度でフランに接していたが、フランはまだあの事件を引きずっているのか相変わらずレンに対する態度も暗かった。
「時間がもったいないから簡潔に言う。今日からフランには風、レンには氷の属性を教える。想像はついてるから簡単に出来ると思うが、どうしても協力が必要でな。四ヶ月位・・・手伝ってもらうぞ」
言った瞬間にフランが驚いた顔で自分を見たが、レンは目的を知っている為、少し顔をしかめた。
その日からしばらく三人での練習が始まった。




