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英雄の法  作者: 西表山cat
2章 幼い歪み
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第11話    啓の闇 ―支配― 前編

 フランと待ち合わせの場所に行く途中、あまり見ない先生を見かけた。昨日起こした事件の調査をしているようだがどうせ自分が起こした現象を理解できる人がこの世界にいるとは思えない。


「ずいぶん遅かったですね。ケルスさん」

 ジェンヤ先生との話はそれほど長くは感じなかったが、フランは少し不機嫌なようだった。

「久しぶり。フラン」

「・・・あら? "さん"をつけないんですか? ケルスさん」

 数日前、自分がした挑発の言葉をフランはそのまま投げかけてくる。


 だからこの子を好きだった、のかも知れない。

「ははっ、何を怒ってるんだ? フランは」

「・・・っ! また貴方は・・・もういいです。この数日・・・あなたにずっと謝りたかった。私がいればあの時・・・」

「そうだね。とても痛かった・・・突然殴られたんだからね。・・・俺がこの数日何を考えていたか教えてやろうか? お前と話すとまた誰かに"誤解"されるかも知れないじゃないか。しかも誤解を解くために、お前は何も手伝ってくれないと知ってるからな」

 教える。どれだけ痛かったか。

 彼女の心が傷つくようにゆっくりと、ちゃんと、伝えるように。



「どれだけ痛かったか分かるか? いきなり頭を殴られてさ、口の中が切れて血がでちゃったよ、笑えるだろ。でさ、とっさの事だったから、すぐに殴り返したんだよ。そうしたらどうなったとおもう? 二人に両手押さえられてさー、卑怯だよね、三対一なんて。勝てるわけないよ、もがいたんだけどさ、抜け出せないんだよ。魔法使ったら周りにいる人たちに迷惑掛かるかもしれなかったから、使わなかったさ。腹なぐられて、吐きそうになった。ずっと殴って来るんだよ。本当にひどいやつらだった。・・・悲しそうな顔をするなよ、まだまだ言いたい事はたくさんあるんだ。・・・まぁラージ達とは誤解がある事は知ってたし防ごうとしたよ。ねぇ・・・原因は知ってるよな」

 ここで問い詰めるように、圧迫するように、フランの目を見ながら責めるように、顔を少しずつ近づけ、話しかける。

「フラン・・・お前のせいなんだよ。あいつらに気絶するほど殴られる前日にさ・・・"俺"はあいつらに言われたんだよ。フラン、お前に近づくなって。話すのをやめようかとも思ったけどさ・・・・・・覚えてるよな? 覚えてるだろ? 覚えてなくちゃいけないよな? 前日に、俺は、何を、お前に言った? お前は、どう、答えた? ・・・答えろ」


 ここまで話すとフランは少し涙ぐんでいた。綺麗な顔を赤くしながら、流れる涙を拭い、肩を少し震わせ、小さく少しずつ言葉を紡ぎだす。

「ごめん・・・なさい。本当に・・・こんな事が・・・あるなんて・・・私が―――」

「誰が謝れといった。お前は"馬鹿"か。俺が言っていたことを聞いていたのか? もう一度俺は言い直さなくちゃいけないか? 最後だ・・・答えろ」

「本当に・・・ごめんなさい。私―――」

「もういい、黙れ」

 話していても要領を得ない。もともとフランから何かの情報は求めていなかったし、ただ"  "つけたかっただけなのだ。

「これから教室に戻っても俺に喋りかけるな。片付けることがどうしてもあってな。お前とはその片づけが終わってからだ」

 そういってその場を立ち去った。



 帰り間際に見た"        "は最高だった。




 翌日もケルスはいつもどおり授業を受けていたが、その中から見えるフランの様子は以前と大分変わっていた。もともと友達も多く、昼休みにも誰かと常にいた彼女は、明らかに"おかしく"なっていった。


 彼女はほとんど誰とも会話をしなくなり、休み時間も食事を一人で取るようになっていた。時折こちらを見ているようだったが、ケルスがそんな事に気がつくはずもなく、しばらく時が過ぎていった。


――― ケルスも自分も何も無く一月ほどが経ち、曇ったある日の事。


『珍しく雨が降ってるな』

『珍しいか? 啓の世界でも雨はあっただろ』

『ここまで少なくは無かったからな・・・ケルスに声かける様になって一度もなかったし』

『帰りが楽しみだよ』

『・・・まさか今日も、じゃないよな』

『いつも通りにさせてもらうよ』

『濡れたら寒いんだけど・・・知ってるだろ? この世界じゃ、傘が無いことぐらい』

『あの全身を覆う奴は?』

『寮において来た』

『なら残念だ・・・ずぶ濡れになろう』

『・・・どうぞご自由に』

 ケルスには悪いと思っていたがどうしてもいつも通りの時間が必要だった。自分の考えが正しければ、今日ほどいい天気はなかったからだ。




 訓練の場所、そこにつくと全身はほぼずぶ濡れになっていた。雨が降って少し寒いがそんな事は気にしない。学園からずっと背後に一つの足音がついてきているのを、感じながらゆっくり歩いてきた。


「そろそろ出てこいよ」

「・・・気づいてたんですか?」


 自分と同じようにずぶ濡れになっていたレンが樹の後ろから現れた。長い髪は濡れ服は体に張り付き実に扇情的な姿だった。ただし初めて会った、ディスチェに倒されたときのような、あの時の弱々しさはまったくなく、強い意志を宿した瞳で自分を真っ直ぐに見つめてくる。


「気づいていたさ・・・フランと会った時の、あの表情からずっと気になっていた」

「そこまで私の顔は・・・変でした?」


 少し微笑みながら雨の中、会話をするその姿に・・・。

「いや、綺麗だったよ。思わず襲おうかと思った」


「用件はわかってますね・・・あの人たちを殺したのは貴方ですか?」

「いきなりだなー。・・・どうしてレンさんが、あの人たちが死んだって知ってるのかな?」

「家の者に聞いたんですよ。ここ最近時間だけはありましたから、調べてもらいました。何故か先生たちは消えたことに関して一切口を閉ざして教えてくれませんでしたので」

「そっか」

「貴方ですよね? 殺したのは」

「あいつ等に噂を流したのはお前だろ」

 明らかに相手の動揺が伝わる。

「違います。・・・そんな話はいいんです、今は―――」

「まいったよ。すぐにレンさんがやった事がわかったけど、あそこまで露骨にやってくるとは」

「っ違います!」

 思いっきり否定されてしまう。



 違うものか。あれほど分かりやすい事をしていたのだ。



 初めて自分とフランが一緒に声をかけたときの、少し歪んだ表情。そして翌日からケルスに素っ気なくふるまい、あの後すぐにあいつ等から声が掛かってきた。更にあいつ等から声が掛かるときだけ、席から離れていた。それだけなら偶然と言えたかもしれないが、すぐ次の日にあいつ等に声をかけられる前にフランを呼び出し、誤解を解く一切の要素を潰していた。ケルスは意識していなかったが気になっていた自分ははっきりとその様子を覚えている。


 真っ黒だ。


「嘘つくなよ。俺も変わりにいい事教えてあげるからさ」

「・・・なんですか?」

「あいつ等を殺したのは、なんと私です」

「・・・っ!」

 レンはその言葉を聞いた瞬間に両手に水を纏い、構える。

「やっぱりあなたが・・・!」

「おいおい、あわてるなよ。ここで一つ疑問が生まれないか?」

「疑問なんてありません! すぐに先生に―――」





「さて・・・なぜ俺は素直にこの情報を貴女に教えてあげたのでしょーか?」



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