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英雄の法  作者: 西表山cat
2章 幼い歪み
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第9話     啓の闇 ―寛恕―

 ジェンヤ先生の授業が始まり、生徒が真剣に耳を傾けている。教室の風景は変わらないが見えないところで一つの変化があった。ケルスに変わり啓が授業を受けるようになった。


************************


 どうしても纏まった時間がまずは必要だった。その為に少しお願いをする事にした。

『ケルス、ちょっといいかな?』

『なんだよ』

『・・・しばらくさ、体しばらく使わせてくれない?』

『なんだよ急に、気遣ってるつもりか? 悪いけどそれは無理だよ。ただでさえ最近授業についていけてないんだ・・・駄目だよ』

『四日ぐらいでいいんだ。頼むよ、俺が変わりに勉強しとくから・・・ほら後で見られるようにしとくから』

『・・・お前少しわがままだぞ。授業の終わりにも二時間使わせてるだろ? 何がしたいんだ』

 

『ごめん、悪いとは思うけど・・・どうしても勉強したいことがあってさ』

『後じゃ駄目なのかよ』

『今じゃないと駄目なんだよ。変わりにさ、見せてなかった知識の部分も見せるからさ』

『・・・いいのかよ。俺のために隠してるような物じゃなかったのか?』

『今まで散々見てきただろ。それにまだ全部見せるわけじゃない。隠すべき物はまだ隠してる。』

『仕方無いなー。わかったよ』

『悪いな、本当に。あと勉強してる姿さ、見られるのも恥ずかしいから出来ればその間は奥に行ってて欲しいんだけど・・・』

『あーあー、わかったよ。ちゃんと俺の変わりに勉強しろよ』

『ありがと、任せろ!』


************************




 勉強してる姿が恥ずかしい




 我ながら思い返し、つい笑ってしまう。明らかな嘘を自分は言いケルスはそれを指摘しなかった。


 嘘だと見破れないはずが無い、決して長くは無い期間だったがこれほど近くにいたのだ。


 気づかなかったはずが無い、お互いそれほど浅い付き合い方はしていなかった。


 気遣われている・・・自分がいなければ使えていた時間を、惜しまずにくれる。本当にいい"  "を持てたと思う。ケルスには悪いと思いながら、これからの計画を考える。



 先ずはあの不良達から片付ける事にした。



 まず一日目、休憩時間に話しかけた。

「ラージさん、ちょっといいかな?」

 自分に声をかけられたラージは少し気まずそうだったが、気にしないことにする。

「あぁ大丈夫だ。・・・この前の事、本当にすまなかったな」

「気にするな。・・・誤解だったんだろ? ならしかたない」


 誤解だからこそ、まだよかっただろうと痛感する。わざとなら今日朝にでも手に掛けていただろうと・・・とても感情を抑えられていたとは思えなかった。


「いや、それでもだ。一晩かけて考えたんだけどさ・・・なにか償いをさせてくれないか?」

 その言葉を聞いて少し驚く。

「そうか・・・実はさ、お願いがあって声掛けたんだけど・・・」

「なんでも言ってくれ。"法技"とか家に関わること以外なら全力で協力させてもらうよ」

「最近さ、授業についていけてなくて・・・よかったら仲直りも兼ねて、授業が終わったら"三人"で一緒に勉強しないか?」

「え? そんな事かよ・・・あぁ任せろ。シャオシとフェイウにも俺から声かけておくよ」

「ありがとう。本当に感謝するよ」



 授業が終わりすぐに大きな声で手を振りながら呼びかける。

「おーい! ラージさん、いくよー!」

「・・・ケルス、仲直り出来ているようだが、他の者もいる教室で大きな声を出す事は、感心しないぞ。以後気をつけろ」

「はい、すみません」

 授業が終わってすぐという事もありジェンヤ先生から早速注意される。声をかけたラージは少し恥ずかしそうに他の二人も連れてきてくれた。

「場所だけど、どうする?」

「寮だと狭いと思うしさ、ちょっと近くに静かな場所があるんだよ。いつもそこで勉強とか訓練してるんだけど、そこにしない? 風もないしさ」

 そんな会話をしていると、懐かしく感じる人から呼び止められる。

「ねぇ、ケルス」

「"さん"ぐらいつけたらどうなんだ? フラン"さん"」

 二日ほどしか口を利かなかっただけだが、ずいぶん久しく感じられた。

「・・・ごめんなさい、ケルスさん。少し話したいことがあるんだけど・・・」

「ごめん、今から"友達"と勉強するんだよ。また今度ね」

 フランの表情はとても曇っていて、その姿からは三日前に仲良く話していた時の面影がすっかり消えさっていた。

「そう・・・ごめんなさい」

 フランはそういい残し、すぐに去っていった。



 いつも訓練をしていた場所に着く。以前とは違いフランもさすがに気まずいのかついてくる事は無かった。

「いいのか? ケルス、俺たちは別に・・・! ケルスさん、だったか。ごめん」

 先ほどのやり取りを聞いていたラージが慌てて言い直す。

「気にしなくていいよ。ラージ達とは・・・仲直りしたんだしさ、"さん"なんて他人行儀な呼び方やめよう。もう"友達"だろ?」

「・・・いいのか?」

「あぁ、俺はケルスってそのまま呼んでくれ、俺も、もうラージ達に対して"さん"なんかつけないからな」

「ありがとう、ケルス。それにしてもフランさんに呼ばれてたけど、そっちは―――」

「いいんだ。あいつはいつでも、話せるから。それよりも今は勉強だ!」



 それから暗くなるまでその場で、四人で勉強をしたが思ったよりもだいぶ捗った。今日はこれで終わろう、そういって片づけをする。

「今日は助かったよ」

「・・・こんな事ならいつでも手伝うよ、一昨日は悪かったな。本当に」

「俺からも謝らせてくれ。すまなかった」

「すまなかった」

「おいおいおいおい、気にするなよ! もう"友達"だって言っただろ! そこまで言うなら明日も勉強、手伝ってくれよ?」

「あぁ」

「もちろんだ」




『啓、今日の授業はどうだった?』

『変わったことは何も無かったよ』

 寮に戻り、属性について考えていたところで今まで奥にいた、ケルスに話しかけられる。

『助かってるよ。だけど悪いけど後三日は頼むよ?』

『あぁ』

『ところで新しく開放した知識ってどうだ? 悪くはないだろ』

『・・・なかなかいいよ。改めて考えてみるとディスチェみたいな獣人の猫種って黙ってれば可愛く見えるなって思った』

『なんてマニアックなところを・・・』

『マニアック?』

 閲覧不可にマニアックという単語が新しく追加された日だった。




 二日目は休み時間にラージ達と仲良く食事をし、授業の復習を少しだけして分かれた。フランは相変わらず話しかけてこようとしてきたが、気づかないふりをして避けた。



「ケルス、今日も授業の復習でいいのか?」

「模擬戦みたいな事を・・・って思ったけどやっぱりいいや」

「なんだよ、ケルス遠慮してるのか? 別にいいぞ」

 いつもの場所に着くとラージ達は模擬戦の協力を遠慮なく申し出てくるがやめることにした。

「悪い、やめとこう。森で火なんか間違って飛び散らせて引火させたらまずいだろ? かといって素手で殴り会うのも俺はいやだぞ?」

「あーそれもあるか・・・」



「今日はさ、ちょっとラージ達の夢を聞かせてくれないか?」


 突然、啓は無性にそれが聞きたくなった。


「ぷっ。なんだよそれ」

 突然自分から放たれた言葉にラージは小さく笑う。他の二人もどうしようか、少し困った顔をする。

「いいから! お前ら座れよ、ほら。そこなら汚れないだろ?」

 とにかく座ってもらった。


「ほら! "親友"だろ? 嫌なら俺から言うぞ」

「なんだよそれ、ケルスの聞いたら俺も言わなきゃいけないのか?」

「てかケルス、いつの間に"友達"から"親友"に変わったんだよ」

「俺先に言ってもお前ら、自分だけ言わないつもりだろ!」

 どうしても"聞いてみたい"と思ったが誰も喋りたがらず、お互いがお互いの様子を少し困ったように見ていた。



 このやり取りすべてが茶番だった。それでもと・・・それでも聞きたいと思った。この世界に来てからケルス以外とは、あまり会話がなかった。不満には思ったことは無い、あまりケルスの邪魔になるなら控えようと思っていた。しかし今、こうやって話してもケルスには迷惑をかける事は無いからだ。


 絶対に。



「―――じゃぁケルスから先に言えよ」

「いいぞ」

 立ち上がり、生前の自分の夢を言おうと大きく息を吸う。


「・・・俺の名はケルス! 俺は【世界の様々な所を渡り歩き世界を知りたい】。それが俺の夢だ!」


 叫ぶ、大きく、それが・・・少し違うがそれが"生前の"夢だった。。それを叫んだ後に大きく声を出しすぎたかと少し笑みがこぼれる。自分に釣られてフェイウ、シャオシが続けて笑ったがラージは笑わなかった。そして次はラージが立ち上がった。


「"親友"の夢を笑えるか。ケルスが言ったんだ、俺も言わせてもらおう」

 その言葉を聴きフェイウもシャオシも笑うのを止め真剣にラージを見た。


「・・・俺の名はラージ! 俺はいずれ【王の剣】となる。それが俺の夢だ!」


 今度は誰も笑わなかった。次はフェイウが立ち上がった。


「二人とも先にいいやがって・・・"親友"なんだ。そんな真剣に聞かされたら言わないわけにゃいかないだろ」


 【王の剣】が何を意味するかは分からず、訊こうとしたがやめ、立ち上がったフェイウを見る。


「・・・俺の名はフェイウ! 俺は【父より受け継ぐ民を正しく導き良き領主】となる、必ずだ。それが俺の夢だ!」


 まだ言ってないシャオシはそれを聞いて少し困った顔をした。


「んだよ、俺が最後かよ。・・・クソ、こんな事なら最初に言っとくんだったぜ」


 シャオシは素早く跳ね上がり覚悟を決めたように息をゆっくり吸う。


「・・・俺の名はシャオシ! 俺は【魔法を極め、魔術師において最強】になる。それが俺の夢だ!」


 これで四人全員言い終わった。短い言葉だったが本気で叫び興奮しているのか皆、息が少し荒かった。しばらく無言でお互いを見ていたが沈黙を破ったのはラージだった。


「ぷっ・・・くくく。あっはっはっはっはっは!」

「ラージ! お前、さっき親友の夢を笑えるかって・・・ぷっあっははははっははっは」

「シャオシだって笑ってるだろ! あっはっはっはははっはっは」

「お前もな! はっはっはっはは、かっかっかかかか」

「っはっはっはは、なんだよ、その笑い方!」




 しばらく笑いあっていたが啓は疑問に思っていた事を訊く。

「ラージ、王の剣ってなんだ?」

「不勉強だぞ、ケルス。王の剣ってのは20年に一度選ばれるスゥイジンの王様に直接仕える事を許されるとても偉い身分だ。まぁ厳密に言えば少し複雑だがな」

「・・・知ってるのか、ラージ。選ばれるにはスゥイジンで開催する大会に―――」

「知ってる。勝ち抜いてやるさ、勝って、勝って、勝ち続けて、なってやる、絶対にだ。・・・それにしてもフェイウとシャオシの夢も初めて聞いたな」

「そりゃ普段はこんな事しゃべらないしな」

「くっくっくっ。そりゃそうだ」

「おい、笑うなよ。つられるだろ。くっくっく」


 その後、それぞれの夢について語り合っていたが、夢中になっていたのか、日が沈むのがだいぶ早く感じられた。


「ケルス、明日はどうする?」

「悪いな、明日は予定があってね・・・明後日でいいか?」

「おう!」

「じゃぁ帰ろうか」


 そしてその日は解散になった。




三日目も休み時間にラージ達と食事をし、授業の復習をしたが、授業が終わった後は一人で"いつもの"場所にいった。ついて来る気配を一つ感じたが自分からは声を掛けない。その場所についてから相手から声がかかる。

「・・・ケルス"さん"」

「なんの用かな。フラン"さん"」

「今・・・いいかな」

 誰もいない機会を見計らって声をかけてきたようだ。だが今は不都合がある。

「ごめん、フランさん。今日も駄目なんだ」

「いつなら・・・いつなら良いんですか? 私は―――」

「明後日だ、但し昼休みには絶対に声をかけて来ないでください。明後日の授業終わりです」

 明日まで、それがケルスから貰った制限時間だった。


「わかりました。明後日必ず」

「あぁ、必ずね」

 そう言ってフランは以前のように訓練を見る事もなく、すぐに帰って行った。最後まで目を向けなかったのでどんな表情をしていたのかも分からない。


 明後日にはじっくり見よう、そう思い"地"と"風"の属性の実技練習を始める。

「さて・・・どこまで使えるようになればいいかな・・・」


 その日は、実際に使えるようにひたすら練習しどうにか極小さい範囲で少し強い風を起こせるようになった。そして帰り際に地面に少し細工をし寮に帰った。




『けいー、明日が最後だよな』

 寮に戻りすこしだるそうに声がかかる。

『あぁ、明日で最後だよ』

『たくっ、四日も勉強したんだ。なにか成果でもあったか?』

『"地"の魔法が大分うまくなったね。まぁそれぐらいだけど』

『そっか・・・これが終わったら授業終わりの二時以外しばらく体貸さないからな?』

『もちろんだ、本当にケルスには感謝してるよ。ありがと』

『・・・変な事いうな、気持ち悪い。寝るぞ!』

『おやすみー』




四日目は雲ひとつない実に清清しい天気だった。午前の授業を受けながらそう思う。雨が降っていればまた悩む事になってしまう。

本当に・・・本当に外に出るにはいい天気だ。せっかくの最後の一日なのでジェンヤ先生の授業を真面目に聞きながら、後の予定を考える。



「―――このように"地"は他の属性、"火"、"水"と違い魔力を使い具現化するよりも、地面からいかに魔力を使い"操作"するか、これ一点に尽きると言われている。例え相性がいい者でも、絶対にそれは変わらない。よく覚えておくように。・・・む? もうこんな時間か。それでは午前の授業はこれで終わりだ。しっかり休め」



 休み時間、久しぶりに自分一人で食事をする。

「ラージ! 今日行くぞ! 忘れるなよ」

 自分とラージの席は少し離れているので教室に響くような声で釘を刺す。

「忘れるか。いつもの場所でいいんだよな! あとうるさい!」


 いつもの・・・ではない。


「あぁ、いつもの場所だ!」

 ラージもうるさいと言いながら同じように、大きな声で返してくる。クラスの何人かはこちらを見ながら笑っている者もいた。多少恥ずかしさを感じながらも気にせず返す。




 午後の授業も終わりすぐにラージ達と合流していつもの場所に向かう。今日向かう場所が少し違う事を歩きながら伝えておく。

「今日はさ」

「ん」

「昨日ちょっと森探索してたら変な物見つけたんだよ」

「どんなものだ?」

「よくわからない、みんなで見にいこうと思ってるんだけどどうかな?」

「・・・いいのかよ、貴重な物だったとしたら、誰かが出し抜いて盗るかもしれないぞ?」

「盗ろうと思ってない奴がよくいうな。まぁ欲しいならやるよ」


「少し走ろうか」

「あぁ」

「おう!」

 しばらく歩きいつもの場所を過ぎ森の奥にいく。

 目標の場所までは後わずかである。昨日練習が終わった後に仕掛けた場所が見える。そこに小走りで向かい下に目印があることを確認する。





「っぶ」

 わざと転ぶ。さすがにわざとらしすぎたかと思ったが怪しまれることは無かった。

「大丈夫か、ケルス」

 心配して走り寄って来てくれる三人を確認して手を地面に当て魔力を流す。

「・・・! なんだこれ!」

「閉じ込められた・・・のか?」

 集まった場所の周りから突然岩の"壁"が飛び出し瞬時に集まり閉じ込められる。まるで岩で出来た球状の物体に入れられてしまったようだった。

「っくっそ。この岩硬いぞ! 壊せない」

 ラージ、フェイウ、シャオシは閉じ込められてからすぐに球状の岩を壊そうと色々試しているようだが、全く砕くことが出来ずに戸惑っている。

「何なんだ・・・この岩」

「罠か何かか?」

「穴が少し開いてるけど・・・そこを攻撃しても駄目だな」

 そう、この球状の岩の塊、表面に拳大の穴が全体的にまばらに空いていた。啓も一緒に入ってしまったが他の三人が一箇所を見ている時に壁をずらし抜け出す。

「お、出られた」


 なぜそんな事を言ってしまったか一瞬振り返る。偶然を装ってしまおうと考えてしまっていたのかもしれない。しかし、そんな言葉に意味は無くなってしまった。準備が整ってしまったからだ。




 整ってしまった。



 今から自分が直接手を下さなくてはならない。

「ケルス! 出られたのか・・・とりあえず先生を呼んできてくれないか?」

 こちらを見てラージがすぐに助けを呼んできて欲しいと頼んでくる。




「・・・ごめん」

「・・・・・・ケルス?」

「・・・悪いな。ここ数日間、楽しかったよ」



 腕で魔力を操作し球状の岩の中に風を吹かせる。



「おい・・・ケルス・・・どういうつもりだ」

 戸惑っている。なぜ自分が外に出られたのか、なぜ自分が謝っているのか、それが理解できずに。これから手を下そうという時になって今までの四日間が脳裏によぎってしまう。

「お前が・・・やったのか」

「答えろ!・・・ケルス、親友じゃなかったのか・・・」

「・・・」

 答えない。黙って渦巻く風を更に強くする。

「・・・お前なんだな」

 沈黙し魔法を使う自分をみてラージが何か諦めたようにつぶやく。

「親友だと・・・思ってたんだけどな・・・。やっぱり"あれ"が原因か?」

 答えられない。

「"あれ"なんだな・・・簡単に許せるはずが無いよな・・・やっぱり」


 もし、もしあの事件がなければ・・・そう考えるがすぐにそれを振り払う。


 手遅れなのだ、何もかも。

「ケルス。俺たちを殺すのか?」

「・・・」

「! おい、シャオシ。その足の血、なんだよ」

「え? なんだこれ、痛・・・なんだ、切れてる」

「おい、フェイウお前の制服も切れてるぞ!」



 おかしい・・・まだ自分は風を吹かせているだけなのだが、中から聞こえてくるのは、何かに切られ戸惑う声だった。中でそれを見ていたラージが焦る様子が伝わる。フェイウとシャオシは未だに何が起こっているのか上手く理解できないようだった。

「ケルス・・・ケルス。この傷はなんだ? お前の・・・その魔法の力なのか」


 違う、昨日もこの魔法を使ったが人を切り裂く力などなかった。

 少し考えカマイタチという単語が頭をよぎる。かまいたち・・・何かの本で見たことがあるが生前それを見たことは無い。少し考えているとラージから声がかかる。


「悪いな。抵抗させてもらうぞ」

 ラージの右手を見ると水を纏っていた。その水を球状の岩の隙間から自分に向かって放って来る。小さな水の粒は、"普通"に見れば当たっても痛くも何とも感じないような物に見えた。


 だが啓は"防ぐ"のではなく避ける。

 魔力が見えていなければ防いでたはずの水は、自分を通り過ぎ後ろの木に当たり突き進み、そのまま向こう側に"貫通"した。


 恐らく法技だろう、魔力が見えなければ避けるまでも無い、と油断を誘える攻撃だった。

 渦巻き螺旋を描く水と共にこちらに向かってくる紫の空気。

 この世界の魔力は正直すぎるのだ。

 




「・・・今の避けるのかよ」


「・・・」


――――さようなら――――


 最後にそうつぶやき、中で回る風の勢いを一気に上げる。先ほど気がついたカマイタチで・・・とも考えたが、時間がかかりすぎる可能性があったので、最初の予定通り純粋な"火"を加える。


 風で荒れ狂う少し穴の空いた球状の岩の中が、一瞬で炎に蹂躙される。


 断末魔の叫びは刹那であった。


 "いやな"臭いと煙が穴から立ち上るが、煙が少なくなったところで魔法を止める。


 風と炎が吹き止んだその中を覗き込むと、黒ずんだ"人間だった物"が残っていた。






 俺もお前たちを許したんだ。お前たちも俺を許してくれるだろ?



――――あと二人――――

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