第7話 誤解
「お前か? ケルスって言うやつは」
―お前―、目の前に来た三人の一人にいきなりそう呼ばれた。
『・・・啓、聞き間違いかね? お前って呼ばれたぞ。初めて話すこいつに』
『聞き間違いではないね』
『とりあえず話を聞いてみるしかないか・・・』
何故か口を歪め怖いぐらいを笑みを浮かべている啓から目をそらし前にいる三人に向ける。同じクラスの人で間違いないだろう。。
「えーと・・・何かようかな?」
「最近お前、フランさんに付きまとっているそうじゃないか」
「本人に聞いたのか」
「・・・それを見たって人から教えられたんだよ」
「誰から?」
そう訊いた瞬間にいきなり胸倉をつかまれ凄まれる。
「それは言えないんだ・・・とにかく、もうフランさんに付きまとうなよ」
それだけ言うと三人は自分の席に戻っていった。残念なことにフランと話をしていた時とは違い誰も自分達に目を向けていなかった上に、隣にいつもいるはずのレンも偶然席を離れていたようだ。
『目撃者無し、先生に相談できると思う? 今のは理不尽だと思う』
『クックック、相談してみろ。取り合ってくれるかな?』
『・・・とりあえず明日の休み時間に誤解を解けるか話し合ってみるか』
「へー・・・そんな事があったんだ」
いつもの訓練場所で啓は手を動かしながら今日、遭った事をフランに伝える。
「あぁ、遭ったんだよ。フランが企てたのかな?」
「違うわよ! 私がやるわけないでしょ?」
「そうかい、容疑者筆頭候補だったんだけどな」
―――――お前じゃない、知っている―――――
「・・・本当に疑ってたの、泣くわよ?」
「泣いてもいいぞ・・・クラス中に今までの事を喋って"お前"がいかに粘着質だったか暴露してやる!」
「それなら私は貴方に暴行されたって訴えてやる!!」
「・・・」
「・・・」
「するなよ」
「しないでよ」
「うん・・・だけどさ・・・暴行ってなんだよ・・・ひどすぎるでっち上げだな」
「ケルスが何もしなければいいのよ」
手を止め体を休める。毎日の二時間をフランのせいで授業の復習しか出来ないのは少し痛いがあきらめる。相変わらずケルスはフランの事が苦手なのかここに来ると引きこもる。
「疲れたし帰ろうか」
「・・・もう?」
「あぁ、明日は誤解を解くのを手伝ってくれよ?」
「ん~どうしよっかなー。ケルスの態度次第かしら」
いつの間に呼び捨てになっている、そう思いながらも訂正するのも余計かと思い気にしなかった。
翌日の昼休み、また同じように三人組がやってきた。
「おい、また昨日あっていたそうだな」
「仕方ないだろ。あれは―――」
殴られた。
教室の中なのに。
喋っている途中だったのに。
「警告したはずだろ・・・なんで、ぐっ―――」
殴り返す。周りが騒いでいるが気にしない。三対一なのだ。しかも先に殴られた。
あぁ痛い、すごく痛い。いきなり遠慮せず頭を殴るのかよ・・・たぶん口が切れてる。一発目は一番前にいた奴からだった。だから目の前の奴を殴った。次に二人に両腕を押さえられ腹を殴られた。
『おーおーやるねー』
もがく、動けない。殴られる、痛い。
『はっはっはっ!!! 優しいな! ケルスは本当に優しい! あっはっはっは!!!』
耳に啓の笑い声が聞こえる。なんでこいつ笑ってるんだ、優しい? 俺の何処が優しいんだ?
『―――なんで使わない? 自衛だ。使えよ』
・・・しばらく殴られていたら動けなくなった。体がだるい・・・。動かせない。
「お前が付きまとうのが悪いんだよ。警告しただろ? もう近づくなよ」
何を言ってるんだ・・・あいつ、あいつが! 付きまとったんじゃないのか。なんで先生が来ないんだ・・・普通こういう状況なら止めるんじゃないのか・・・。
色々な考えが頭を埋める。声が出ない、啓が何を言ってるのかはっきり聞こえない。
『そうだ! お前は悪くない! 目の前の男を見ろ』
言われたとおり見る。そこには自分がもう動けないと思ったのか背中を向けて自分の席に戻ろうとする三人の背中が見える。
『酷いと思わないか? 酷すぎる! フランに付きまとった、誤解じゃないか! 周りを見ろ、お前がぼろぼろなのに庇う者がどこにいる? ケルス・・・お前は優しすぎる。黙ってこのままでいいのか? やれよ、大丈夫だ。ちょっとした火傷を負わせるぐらいだ。さぁ!』
『―――でも、それじゃ・・・』
『俺がうまくやる』
――やっちまえ――
・・・あぁ、やってやる。
そう思った瞬間に意識が途切れた。
『馬鹿が』
目覚めるとそこはベッドの上だった。
「気づいたか、ケルス」
頭を少し上げるとジェンヤ先生が見えた。
「心配したぞ、教室でいきなり乱闘があったと聞いてな。大丈夫か」
「ご心配をおかけしてすみません」
「しばらく安静にしていろ。ここは治療室だ、治術師の先生は先ほど水を換えに行ったが・・・しばらくすれば戻るだろう」
痛みはほとんど消えていた。窓の外を見ると空は暗くなり日も沈んでいた。突然涙が出てきた。何処かが痛み始めたのではなく悔しいのだ。誤解がある事は知っていた、解こうともした。だけどほとんど一方的に殴られた。
誤解を解こうとしたのにである。
何も悪くないのに。
「僕を・・・」
「ん?」
「僕を殴った"奴"はどうなったんですか?」
「あぁ・・・それはな、まぁ今は気にせず休め」
ジェンヤ先生は何か言い辛そうに言葉を詰まらせていたが気にしないことにする。しばらくして治術師の先生が戻ってきたが暗くなっているということもあり治療室で一泊することになった。
『なんで使わなかったんだ』
『啓・・・お前いたのかよ。ずいぶん笑ってたな・・・この馬鹿野朗』
『あぁ、俺は馬鹿野朗だ。で? なんで使わなかった』
『使わなかったって何をだよ』
『"爆散"、背中に当てられただろ。両手押さえられたときだって、下に撃てばあの二人は避けられなかったはずだ。』
『・・・思いつかなかった』
『嘘つくな、躊躇ったな? 家が気になったか、それとも周りの被害か?』
『ごめん・・・眠らせてくれ。』
『あぁ疲れてるところ、すまなかったね』
翌朝治療室から登校するといつものように・・・昨日と変わらず、本当なにも変わらずジェンヤ先生が入ってきて授業を始めようとする。
「それでは授業を―――」
「先生、どういうことですか」
クラス中の目線が自分に集まる。気にしない、可笑しいのだ。
「ケルス、授業中だ。私語は慎め」
「どういうことなんですか! 何故あの三人がこの教室にいて変わらずあそこに座ってるんだ!」
怒鳴る。理解できない・・・あれほどの事をしておきながら
あの三人は変わらず授業を受けようとしている。
「黙れ、ケルス。昨日の乱闘は他の生徒にも話を聞いたがお前も手を出したそうじゃないか。喧嘩には必ず原因があると思うが昨日はお前の怪我を気遣いあえて聞かなかった。今日改めて聞き取りを行うからお前ら四人を、呼ぶ予定だったんだ。以上だ、なにか質問は?」
静かな、落ち着いた先生の声は余計自分を苛立たせた。
『やめておけ』
取り乱しそうな心を落ち着かせ、啓の言葉を聞き落ち着くことにする。
「無いな、では授業を始める」
講義の内容はまるで耳に入らなかった。
やがて授業はすべて終わり、先生に呼び出される。
『ケルス、大丈夫か?』
『大丈夫なように見えるか? 全部お前のせいだからな・・・フランは任せたはずだぞ。その結果がこれかよ』
『・・・本当にすまないと思ってる。・・・もしケルスが望むなら俺が今から煩わしい事を一切始末しよう』
『始末ってなんだよ? 噂流した奴とあの三人殺してくれるのか?』
『しないよ、そんな事。ケルスも望まないだろ? ちょっと反省させるだけだ』
『んじゃ任せた・・・眠いんだ・・・しばらく眠らせてくれ』
『あぁぐっすり眠って休んでくれ。俺が煩わしいことは片付けておく』
―――覚悟しろ、ごみが。十分楽しんだか? 死ぬほど後悔しろ―――
啓は思わず自分の顔が歪むのを抑えられなかった。




