第6話 芽吹く悪意
すぐに思いついた嘘はフランに一瞬で見破られてしまう。一瞬そのまま話そうかとも考えたがすぐに思い直す。"風"の属性は使い手が少なくジェンヤ先生すら使ってる人を見た事が無いと言っていたのに、成績がふるわない自分が練習していたと知れたら笑われるかもしれないからだ。それを考えるとどう誤魔化すか考えるが―――
「ずいぶん悩まれていますね。今何を考えていらっしゃるんでしょうか? 話すか否か、それともどう誤魔化すかでしょうか?」
『あっはっは!! 正解! 君頭いーねー、ケルスとは大違い!』
"奥"で手を叩きながら笑う啓にケルスはちょっといらついた声で返す。
『たまには俺の応援もしろよ・・・』
『賢い子は好きなんだよ。それにかわいいし、さて・・・どうする?』
『つきあってられるか、そもそも答える義理がない』
「まだ沈黙ですか。・・・まったくの偶然でしたけど昨日ははっきりあなたが風を使うところを見ることが出来ました。あれは―――」
「だからどうした? 残念だけど教える義理はない」
問い詰められているような気分になり、思わず自分の口から出た言葉が想像以上に怒っているような口調でケルス自身が一瞬戸惑ったがすぐに続ける。
「そもそもあれは"風"なんかじゃないよ。火を想像して出したんだけどなんか失敗してね」
『だめだ、それは通らない』
「ふふ、それは通りません。だってこの前も同じような練習をされていたじゃないですか。それに火の魔法を失敗したなんて嘘にしては幼稚すぎると思いませんか? 一年前ならともかく」
そもそも答える義理はないといい、何故自分でこの話を続けたか頭を悩ませる。このまま無言で帰ろうともしたが、それではあまりにも不自然だ。少し考えた結果・・・あきらめた。
『・・・変われ、啓』
『・・・おいおい、いいのかよ』
『あぁ、早くしろ。まぁ今頃矛盾を全部覆せるとは思わないけど任せた。これ以上イラつきたくない』
ケルスから変わり改めて目の前の少女に目を向ける、長い髪を弄りながらこちらの様子をじっと見ている。
「さて・・・ではこのまま押し問答を続けていても意味がない。はっきりと聞こう、僕が"風"の練習をしていたと"仮定"してフランさんはどうしたいのかな?」
「・・・あら、目つきが変わりましたわね、応じてくれる気になったのかしら? 先ほども申し上げましたが"風"を教えて―――」
「それはだめだな」
すぐに拒否する。ケルスとは違う方法で誤魔化そうとしたが、"風"を使えると仮定してもあまり結果は変わらなかったので啓は違う方法で応じる。その答えを聞いてフランの目元が少し鋭くなる。
「・・・理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
「"俺"に利益が無い、それだけだ。そもそも使えないしな」
「その口調が"素"なのかしら? ・・・ではケルスさんが望むなんらかの利益を私が提供できれば、教えていただけますか?」
彼女の受け答えに思わず口から笑みがこぼれる。利益・・・彼女はそんな事を本当に自分に与えられると思っているのだろうか?
「悪いけどフランさんが俺の望む物を用意出来るとは思わない」
「わからないわよ?もしかしたら―――」
「この話はまた今度しよう。暗くなってきた」
「・・・わかりました、だけど私はまだ諦めていません。この話は明日また」
話が大分長引いてしまい、いつの間にか辺りは暗くなっていた。帰り道はお互いに無言で、フランはケルスよりも寮が離れていたため途中で分かれた。気まずかった・・・。
『なー啓。俺絶対に明日、フランさんに話しかけられると思うんだけどどうしよう』
寮についてから早速ケルスから情けない声が飛び出す。
『悪いとは思ってる。で? どうしたい』
『話しかけられた瞬間に啓に任せると、無視するの2択で悩んでる』
『無視はまずいだろ・・・相手はケルスと違ってかなり人気者だし、良くない噂でも流れたらどうするんだ?』
『良くない噂って・・・なんだよ』
『想像しろ、クラスの人気者が男に喋りかけている! しかし相手を見るとそいつはいかにも冴えない顔の男だ。更になんとその子を無視! 女の子は続けて必死に何かを喋りかけるが変わらず男は無視! ついに女の子は涙ぐみ・・・』
『おい、やめろ。想像の中で男がクラスから孤立したじゃないか』
『想像の中の自分が・・・じゃないのか?』
『・・・いや、でもみんな貴族だしまさかそんな陰湿な』
『貴族だからこそ、と思わないか?』
『・・・はぁ、だめだ。どうしようもない、啓任せたよ』
『おう、任せろ』
次の日午前の授業が終わり休み時間になると食事前にフランがこちらにやってきた。
『んじゃ任せるぞ』
『あぁ』
「ケルスさん、昨日の事は考えてくれたかしら?」
「少しは考えたさ。しかし休み時間に話かけてくるとはな・・・おかげで注目されてるじゃないか」
いつもは意識していないが、周りを見ると珍しがってこちらを向きながらひそひそと話している人たちが何人かいた。
「それが狙いといったら怒るかしら?」
「怒る」
「まぁ! 怖い」
フランはまったく怖くなさそうに口に手をあてる。すぐ隣にいながらよくわからない会話を聞いてレンは少し居心地が悪そうな顔をする。
「レンさんも落ち着けないだろ? フランさんがここにいたら」
「・・・私? かまわないわよ」
「無駄よ、レンちゃんは私とは親友の仲なんだから」
そう言われたレンは困ったように顔をこちらに向ける。
「一月でそこまで仲良くなったのかよ・・・すごいな。ちゃんづけとか・・・」
「違うわ・・・小さいころから家同士の繋がりがあってね。よく一緒に遊んだわよね?」
「え?・・・ええ、よく一緒に幼いころは遊びましたね・・・本当に・・・」
レンとフランの間にじゃっかん温度差を感じるが付き合うのはやめておく。三人で話すと疎外感を味わいそうだ。
「とにかくこの話は昼休みはなしだ。変に勘違いされても困るからな」
「・・・もう手遅れかもしれませんわね。それでは今日も"あそこ"で待たせていただきますね」
「・・・それで頼む」
"もう手遅れ"、という言葉に少し違和感を感じたが、何かあるはずが無いとすぐに忘れた。後日はっきりと思い出すことになったが・・・。
午後の授業が終わりフランの席に目を向けるともうすでにいなくなっていた。待たせるのも悪いかと思い、自分も急ごうとするが突然レンから声が掛かる。
「・・・ケルスさん。伺いたいことがあるのですが」
「なんだよ、フランさんを待たせてるからな。すぐに答えられることならいいぞ」
ケルスの受け答えを聞きながら啓は少し驚く。彼女の顔が気づきにくいが少し歪んでいるのだ。
その感情がなんなのか理解は出来なかったが、啓はその表情を面白いと・・・
面白いと思ってしまった。
「フラン・・・さんとはどのような関係ですか?」
「・・・どんな関係って、昨日話しかけられて・・・それぐらいだな」
「話かけ、られた? 話しかけたの間違いではないんですか?」
「まさか! レンさんも知ってるでしょ? 僕はそういうの苦手なんだよ」
「・・・もういいです。フランさんに確認します」
そう言ってレンは少し怒ったようにすぐに教室を出てしまった。
『啓』
『ん~?』
『俺、なにか怒らせる事、言ったか?』
『さぁ?』
いつもの練習場所に来てみるとフランが待ちくたびれたようにこちらを見ていた。
「遅い! いつまで待たせるつもりだったんですか!」
「すまないね・・・教室を出るときにレンさんに呼び止められて」
「あの子に? ・・・なら仕方ないわね」
「レンさんとはただの幼馴染じゃないのか?」
「幼馴染よ。小さいころから・・・ただ学園に入ってから一年間別々のクラスだったから、ここ一月は少し話しかけづらくてね・・・って私の話はいいんです!」
「なんだよ。このまま昔話でも聞いて今日は帰ろうかと思ってたのに」
「・・・そこまで教えるのが嫌なんですか」
「なんでそこまで"風"にこだわるんだ。フランさんなら格闘も魔法もそれなりに優秀なんだから、そのままでも半年後には優秀なクラスに移れるだろ?」
「優秀な人が集まったクラスには興味ありません」
「・・・なら何が目的なんだよ」
「言えません」
「・・・」
「"風"を教えてくれたら考えましょう」
「諦めてくれないか・・・」
「諦められません・・・」
・
・・
・・・
「ならしばらく考えさせてくれ」
「・・・使えると認めたと考えていいのかしら?」
「実は俺が使えるふりをしてフランさん興味を引いてる・・・とは思ってくれない?」
そこまで言うとフランは小さく微笑むが、口から出たのは厳しい言葉だった。
「ふふっ、興味を引きたいなら最初声をかけた時から嫌な顔をしないで下さい。後ケルスさん、あまり社交的じゃないでしょ? 声をかける前から少し観察させて頂きましたが、"ふり"なんて器用な事が出来るとは思いません」
「・・・よく分かってるじゃないか」
苦しい言い訳だったかと啓も反省する。しかし気づかなかったがあまり話さない人に声をかけられてケルスは嫌な顔をしていたのか・・・
「えぇ、最近はよく休憩時間に見て―――」
「ごめん、もう訓練の時間にするよ。授業についていくのも大変だし」
「あら・・・ごめんなさい。訓練は見させていただいてもいいかしら?」
「いいけどつまらないと思うよ?」
「いつもしている訓練をしない・・・ならつまらないでしょうね」
「・・・好きにしてくれ」
訓練内容? おとなしくケルスの授業の復習をしてました。フランはジト目でにらみつけてきたが効かない。そもそも豆腐メンタルのケルスとは心の出来が違うのだ。
『豆腐メンタルってなんだ?』
『豆腐のように純粋で綺麗な心って意味だよ』
すかさず嘘をつく。
『・・・嘘だろ。調べてくる』
啓はそっと豆腐メンタルという単語を閲覧禁止リストに追加した。もちろん豆腐の意味も合わせて"訂正"しておいた。
三日ほどフランと同じようなやり取りが続いたが啓がうまく相手をしているようで。昼間は自分に話しかけてこなくなった。しかし何故か隣にいたレンと 会話をしなくなった。最近は仲良く出来ていたかと思ったが声をかけても無視されるようになったのだ。
『・・・なんか新しいクラス馴染みにくいな』
『そうか? なかなか面白いだろ。ほら見てみろ、頭の悪そうな三人の学生がこちらに向かってくるぞ?』
『は?』
しみじみとしていた休憩時間にその厄介事はやってきた。




