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〈祈りの塔〉を出た神子は、本当の世界を知らない  作者: うなぎ
砂漠の村編

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7/11

祈りの仕事



 僕が村に着いてから、六日ほどが経過した。


 その間、僕はセシリーといろいろな遊びをした。影を踏む遊びだったり、地面に印をつけて競ったり、砂の中から珍しい形をした鉱物を探したり……などなど。

 それは僕にとって未知の遊びで、面白くて、いつまでも時間を潰していられると思った。


 そして、今日も一日が始まる……のだが……。


「おはよー、ミコっ!」


 そろそろ目を覚まそうとしていた僕の耳元に、そんな声が聞こえてきた。

 そして――


「ぎゃっふっ!」


 突然、体にものすごい衝撃を感じた。

 セシリーが寝ている僕の体に馬乗りになったからだ。小さい体とはいえ幼い子供ではない彼女の体重はそれなりに重く、僕はその衝撃で吐き気を覚えてしまった。


「ねえミコミコミコ。起きて起きて起きて起きてー。朝だよー、朝朝。今日もいい天気でお日様がきれいだよ。あはははははは」

「分かった、わかったよセシリー。起きるから乗らないで」


 彼女は毎日こうして僕を起こしてくるようになった。ここまでしなくていいと、するならもっと優しく起こして欲しいと言ったんだけど全く聞いてくれない。

 こんなの、アドたちだったら絶対にやってくれないよね。みんな、僕が起きるのを待っているか、そうでなければ優しく起こしてくれるだけだもん。


 とにかく、セシリーのせいで僕は完全に目を覚ました。ふらふらとしながら、ゆっくりと立ち上がる。


「昨日の夜ねー、ずっと考えてたの! 今日はミコと何して遊ぼうかなー、何したら喜んでくれるかなーって。それで決めたのっ! 今日は砂人形を作るのっ!」

「ああ、僕が来た時に作ってたあれね。面白そうだね、それは」

「ミコは明日いなくなるかもしれないんだよね? だから、今日中に頑張って教えるのっ!」

「うん……」 


 明日、僕はこの地を立ち去るかもしれない。

 それが旅のしおりに書いてあったアドの予定だった。『約一週間後』って書いてあったから確定日じゃないけど、一応の予定日。彼が迎えに来てくれるのに、こちらの都合で引き延ばすことはできないと思う。


「じゃあ、しばらくしたら外に行くよ。着替えるから、出て行ってもらえるかな」

「えー、セシリーね、ミコの着替えてるところ見たいなー」

「そ、それは恥ずかしいよ。外で待ってて」

「はーい」


 何とかセシリーを外に追い出して、僕は着替えを始めた。


 着替えながら、明日、もし旅が終わったらと考える。アドが明日のどのタイミングで来るか分からないから、実質、今日がセシリーと遊ぶ最後の日になってしまうかもしれないんだよね。

 そして、さらに旅のしおりに書かれていたことを思い出す。



 ――旅の最中とはいえ、あなたは〈祈りの塔〉で神に祈りを捧げる神子なのです。どうかその使命をお忘れなきようお願いします。

 ご存じの通り、祈りは一週間に一度です。場所はどこでも構いません。しかし作法を正しく、発声と体勢をお忘れなく。

 一日程度なら周期がずれても問題はありませんが、どうかお勤めをお忘れなきよう。 



 とのことだ。そして今日は祈るべき日の当日。セシリーと遊んでたら忘れてしまいそうなので、今のうちにやっておこう。


 着替え終わった僕は地面に座り込んで、両手を組む。目を閉じ、深い瞑想の彼方に己の心を落としていった。


 神と一体になる。根拠はないけどそんなつもりなのだ。

 体の底から、ぽかぽかと暖かい力が湧いてくるのを感じる。これがアドの言うところの祈りの力らしい。


「神よ、世界が平和で安定しますように」


 そう言葉を出すと、ぽかぽかした暖かい力が天上へ向かって上昇していくのを感じた。目を開けても空中には何も見えない。僕の体も周囲の様子も何も変わっていない。けれど、なんだかそんな感覚が残ってるんだ。


 これが僕の、神子としての力。祈りの力……らしい。

 何も効果は見えないけど、僕は信じてる。どこか遠いところで、僕の祈りをどこかの神様が聞き届けてくれていることを。それで、世界が少しだけ良くなっていることを。


 さてと、セシリーのところに行こう。



 祈りを終えた僕は、すぐにセシリーのもとへと向かった。

 彼女は少し遅かった僕に文句を言ったけど、まあ、こんな風に軽口を叩くのは仲良くなった証拠だと思いたい。


 途中、村長の家で朝食を食べて、改めてオアシスへとやってきた僕たち。


「はい、それじゃあ今日は一緒に砂人形を作るんだよ」


 そう言って、セシリーが地面に座り込んだ。


 人形、か。


 塔で祈ることが仕事の僕にとって、遊びというのはとても珍しいものだ。

 アドたちは僕の望みを叶えてくれる。けれど、何か新しい娯楽を率先して提供してくれることはない。そういう意味でこうした遊びに誘ってくれるセシリーという存在は、僕にとって本当に稀有な人間ということになる。


「まずはー、砂を集めます。それでねー、このオアシスの水辺に浮いてる、黒っぽい泥を混ぜるの。そーしたら、サラサラした砂が固まって人形にできるのー」


 そう言って、セシリーは砂と泥を混ぜ始めた。僕もやってみたけど、意外にもかなりしっかりと固まっていた。オアシスの泥には特殊な接着性があるのかもしれない。


「人の形にー、固めるのー。目と口を付けてあげるの~。爪を使って、切れ込みをいれるの~」


 とても意外な話だけど、セシリーはああ見えて手先が器用みたいだ。爪を使って人形の細かい表情や服装を刻み込み、精密な美術品を完成させていっている。


 僕も見よう見まねで人形を作っているんだけど、どうにも上手くいかない。特に人形の目のあたりがどうしても綺麗に描けなかった。


「あはははははー、ミコ、下手すぎ―」

「うるさいなぁ」


 本当に、情けない限りだよ。でも熟練したセシリーと比べられても困っちゃうな。始めたばかりなら誰でもこんなものだよ。


 僕がそんな風に悪戦苦闘している間に、セシリーは人形を一つ完成させたようだ。

 かわいらしい長い髪をもった、砂の人形だ。大きな目は人間ではありえないけどデフォルメされてかわいらしく仕上がっていた。


「それ、どうするの?」

「んとねー、気に入った人形は家に持って帰るの。そうじゃないなら捨てる」

「そうなんだ」


 僕も最初は失敗したけど、次こそは……。


「……ん?」


 気合を入れなおした次の人形を作ろうとしていた僕は、ふと、近くに人の気配を感じた。


「あっ」

「どうしたの、ミコ? あ……」


 同じように、セシリーも固まる。


 そこにいたのは、初日、僕とセシリーに悪態を付いたセシリーの兄――アーロンさんだ。




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