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〈祈りの塔〉を出た神子は、本当の世界を知らない  作者: うなぎ
砂漠の村編

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4/11

砂漠の村


 こうして、僕は歩き始めた……んだけど。


「はぁ……」


 つ、疲れる。


 僕はずっと〈祈りの塔〉で暮らしていた。部屋が狭いわけではなかったけど、どこか遠くに行く必要のない生活をしていた僕にとって、離れた目的地へ歩いていくことは初めてだった。


 歩いた。とにかく歩いた。もう三十分近くは歩いてる。塔の中で過ごしてきた僕にとって、一日でこの歩数は記録的なものだと思う。砂が盛り上がって丘のようになっている場所もあるから、上り下りがやっかいで前に進みにくい。


 アドが車で送ってくれなかったら、きっと大変なことになってたと思う。僕、この砂漠地帯で死んでいたかもしれない。


 僕は『旅のしおり』の内容を思い出す。村に着いた後についてだ。



 ――旅のしおり、村にて。


 現地の村長にはあなたのことを伝えてあります。最初に訪ねると良いでしょう。ただし、あなたが神子であることは伝えていません。重客であると知られればいろいろと面倒になるでしょうから。他の村人にもあなたが神子であることは隠しておきましょう。


 立ち寄る村は小さな村が多いです。普通の国や都市とは違い、貨幣は存在しません。あなたは現地で一時的な衣食住を求めることになりますが、報酬として対価は必要ありません。すべての請求は我々神官が負担します。何を求めても構いませんが、節度ある旅になることを期待します。


 約一週間後、私が村まで迎えに来ます。そして私とともに車に乗り、次の村へと向かうことになります。

 


 と、いうことらしい。


 はぁ、それにしてもどこまで歩けばいいのこれ? 村っぽいもの全然見えないんだけど。


「この……丘を越えれば……きっと」


 目の前には砂が集まってできた小さな丘がある。


 これを越えれば何か、あるんだよね? この先もずっとずっと砂漠だったら、僕はきっと干からびて死んじゃうよ。

 そんなことを思いながら、僕はその丘の上に立った。


「うわぁ……」


 砂の丘を抜けると、そこには村が広がっていた。


 小さな湖のあるその村は、ごく少数の木とその奥に点在する家によって構成されている。湖はオアシスっていうのかな? 家は砂と同じような材質のものをブロック状に固め、それを積んだ簡素な造りをしているように見える。


「やっと……村に着いたんだ」


 村人らしき数人が、村の中をゆっくりと歩いている。これが、外の世界の人なんだ。僕は村の人たちと仲良くできるかな?


 とにかく、目標が見えてやる気が出てきた。疲れてたけど、これならもう少し歩いて行けそうだ。

 


 丘を降りた僕は、オアシスの近くまでやってきた。

 大きな水たまりと、周囲を覆う植物。それから人工的に整列された作物のようなものもある。どうやらこの水を使って小さいながら農業を営んでいるらしい。 


 村に行くためには、このオアシスを横切らなければならない。僕は建物の方に向かって歩き始めていた。

 その途中、奇妙な少女を見つけた。


「んしょ、んしょ、んしょ」


 彼女は、砂をこねていた。

 子どもの泥遊びのように見えるが、見た目の年齢は僕より少し下か同じ程度。少し……遊びが幼過ぎに思える。 


 かわいらしい容姿の少女だ。


 太陽の光を反射する美しい金髪は、まるで星のようにキラキラと輝いている。それを両サイドで二つのリボンにまとめている。

 背は僕よりも低く、小さい体。だけど血色はよく健康的に見える。

 白いワンピースのような服を身に着けている。ただ、砂遊びのせいで所々濡れた砂がこびり付いているのは残念だ。


 この子が、僕の旅で初めて出会った……外の世界の住人。


 このあたりに散らばっている黄色い砂と、おそらく水辺にある黒い泥。それを混ぜ合わせ粘性を持たせ、団子状にしてこねているようだった。


 何のために、と思ったが近くを見てすぐにわかった。彼女の隣には、同じ材料で成形された人形がいくつも置かれていたからだ。

 砂の人形だ。写実的ではないけど、デフォルメされてかわいらしい印象を覚える。すでに水が乾いているようで、それなりに固くまとまっているように見える。


 これを……作ってるみたいだね。


 さてと、いつまでも様子を眺めているわけにはいかないよね。話しかけないと。

 身内以外に話をするのは、初めてのことだ。ちょっと緊張するけど、なるべく……失礼のないように。


「こんにちは、この村の方ですか?」


 人形作りに夢中になっていた女の子が、僕の声に反応して顔を上げた。くりくりとした宝石のような瞳の中に、好奇心と疑問が垣間見える。


「え? あなた誰?」 

「僕は少し離れたところからこの村にやってきた旅人です。村長さんに会いたいんですけど……」

「たびびとー? って、何?」


 女の子が首を傾げた。

 あまり来訪者がいない村なのかもしれない。旅人がいないなら単語を知らなくてもおかしくない……かな?


「えっと、村の外から来た人ってことかな。そこに住まずに少し滞在して帰っていく人、みたいな?」

「ふーん」


 僕の説明を理解したのかそうでないのかは分からないけど、女の子はこっちに興味をなくしたようで再び砂遊びを始めた。

 とはいえ僕はこの村に滞在するんだ。できれば無視されたままではなく多少は仲良くしておきたい。


 とにかく、会話の糸口を掴みたい、かな。


「えっと、素敵な人形だね。あとで僕にも作るところ見せてもらえるかな?」


 実際、砂遊びとしてはよくできた人形だと思う。写実的ではないが、小動物のようにかわいらしい愛嬌のある造形。プレゼントにもらえるなら喜んでもらって帰ると思う。


「え、素敵?」

「うん、素敵だと思うよ」

「セシリーのお人形さん、褒めてくれる人初めてっ! 嬉しい!」


 そう言って、女の子が抱きついてきた。


 どうやら、人形を褒めたことが好感触だったようだ。別に下心があってそう言ったわけではなく、本当にそう思って言っただけなんだけどね。

 セシリー、というのが彼女の名前らしい。


「あの、村長の家の場所を教えてくれるかな?」

「こっちこっち、案内してあげるっ!」


 そう言って、セシリーは僕の手を引っ張った。 

 彼女の手は泥だらけで、僕の手まで汚れてしまった。


 強引な子だ。せめて、手を洗ってから触って欲しかったなぁ。

 

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