17話 鑑定屋にて 前編
鑑定。それはある意味ではギャンブルのようなもの。
偶然拾った謎めいたアイテムの価値がどれほどのものなのか、期待と不安の入り混じった感情と共に、大きな富を得るか、あるいは全くの徒労となるのかが決まる。
「ここが鑑定屋ぁ? ちょっとボロいわね」
「馬鹿、聞こえるだろ」
「わぁーアーリンの家と同じ匂いがするぅ」
ただし、アラド達はさほど期待もせずに来店していた。
店の中には、鑑定後、そのまま売り払われた品々が所狭しと並んでいる。
剣、杖、装飾品、その他諸々……
ただし、普通の武器屋、防具屋で売られている品とは違って、珍しい形をしたものや、見たことがない品も多い。そして品質もバラバラ。一般品質の品や、高品質、希少品質の品などが規則性もなく、バラバラに売られていた。
「ねぇ見て、この『火鼠の衣』、最高品質だって。
火属性の攻撃を一切無効化しちゃうんだよ」
ミーシャは、目立つ位置に配置された貴重品を見て、指をさした。
そこにあったのはどう見てもボロ布を織っただけの安物のローブにしか見えないものだった。
「へぇー……すごいな。値段は?」
「んーと、いち、じゅう、ひゃく……20万Gだね」
「20万G!?」
と、アーリンは思わず叫ぶ。
「そんなにするわけ?」
店内がにわかに騒がしくなったせいか、店の奥から一人の男がゆっくりと近づいてきた。
「わははは。最高品質ともなれば、それくらいするのが普通だよ。
それで、君たちは一体どんな品をお探しかな?」
男は手に扇子をもって、顔を扇いでいる。
ぽっちゃりと肉付きが良く、どうやらかなり稼いでいるらしい。と、アラドは男をひと目見てそう思った。
「いえ、俺たちは鑑定してほしくて店に来たんです」
「ほう。冒険者かい? 若いのに大変だねぇ」
店主は、アラドの右腕が無いことにすぐ気づいた。
そして同情するような調子で更に続ける。
「安くしておくよ。レアリティによって料金は違ってくるがね」
「ではお願いします」
アラドは、大きな腰布からダンジョン攻略の戦利品3つを取り出し、机の上に並べた。
『緑の指輪』と、『金の杖』『古い刀剣』の3つ。
「ふむ」
鑑定屋の店主は、まずは緑の指輪を手にとった。
「これは一般品質の『緑草の指輪』だねぇ。よく見つかるんだよ」
そう言って、店主はカウンターの下から小さな木箱を取り出した。
パカっと箱をあけると、そこにはまったく同じ形状のものがぎっしりと詰まっていた。
「ほら、これ全部『緑草の指輪』だよ。効果はほんのわずかに体力が上昇するって効果なんだけど……まあ、ほんとに誤差みたいなものだね」
「そうですか」
「ああ、もし良かったらうちで引き取るよ。値段は5G。鑑定料も5Gだからつまり、無料買取って形になるけどね」
アラドは一瞬だけ自分で使うことを考えたが、小さくうなずいた。
「わかりました。引き取ってください」
「まいどあり」
そしてアラド達が手に入れてきた緑草の指輪は、他の無数の指輪に紛れて、すぐにわからなくなってしまった。
「さてと、残り2つは私も見たことが無いねぇ……」
そこで店主の手が止まった。
「貴重品ってこと!?」
アーリンはうれしそうだ。
「その可能性はあるね。ちょっとまってくれ」
そこで店主は、大きな辞書のようなものを取り出した。
パラパラとページを捲っていくと、途中からは何も書かれていない白紙のページが。
「こいつは『認識の辞書』って言われてるものでね、白紙のページにものを押し付けると、そのアイテムの情報が書き込まれるんだ。まあ、冒険者なら知ってるかな」
と、店主はまず金色の杖を手にとった。
「それじゃあ、それじゃあ、ぺたっとな」
認識の辞書に杖をおしつけると、まもなく白紙のページに文字が浮かび上がった。
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金と怠惰の杖
レアリティ: 希少品質
タイプ:片手杖
重さ:普通
武器攻撃力: 10
効果: 体力が1ランク低下する代わり、精神力が倍増する
概要:黄金で造られた特別な杖。呪いと祝福の混じった変わりものの一品。
純金製ということもあり、レアリティの割には非常に高価である。
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「おおっ! 希少品質だったか」
「へぇ、精神力が倍増……つまり、休憩無しで2倍の魔法が唱えられるってことね」
アーリンはそう言って、金色の杖=『金と怠惰の杖』をひっつかんだ。
「じゃあこれは私が使うから」
一方的な、傲慢な決定事項だった。
アーリンらしいな、とアラドは笑うしかない。
「まあ、どうせ他に杖を使う人間は居ないしな」
そう。どうせ杖を使えるのはアーリンのみ。問題はない。
そしてアラドは、最後に残された古ぼけた剣を見つめる。
――これ、どうみても実戦用じゃないよなぁ。
と、アラドは、鑑定が行われる前からやや気持ちが下がっていた。
刀身がくすんでいて、お世辞にも美しいとは言えない剣だったからだ。
ボス部屋の宝箱から見つかったのだから、高レアリティの可能性が高いとは言っても、見た目だけで言えば一般品質か、それ以下の品にしか見えない。
「ふむ。これも見たことが無いねえ」
鑑定屋の店主は剣を持ち上げて、首をかしげた。
「……あ」
ただ、店主の手がそこで止まった。
何かを見つけたのかわからないが、まるで凍ってしまったように動かなくなる。
「よかったら、この武器は買い取ろうか?」
そして認識の辞書を使うこともなく、そんな奇妙な言葉を口走った。
彼の顔には張り付いたような笑顔が浮かんでいる。
「どういうことですか? 俺は、鑑定をしてほしいんですけど」
「それは分かってるがね。認識の辞書を使う鑑定は一回50Gの料金が掛かる。だから鑑定せずにそのままこの剣を売るのも悪くないと思うんだが」
「……つまり、その剣は50Gの価値もないってことですか?」
「だってこの古ぼけた剣がそんな値段になると思うかね?」
「……わかりませんけど……」
そこでアラドは、疑問を持った。
――どうして鑑定を渋る必要があるんだ? と。
店の方からすれば、鑑定代金を受け取れる以上、黙って鑑定してしまったほうが良いに決まっている。
それなら、この店主が良心的な人間だから、わざわざ忠告したのか?
あるいは……
「その剣、いくらで買い取ってくれるんですか?」
アラドが言う。
「うむ。そうだねぇ……見た目だけで言えば、10Gってところだが……まあ、30Gで買い取ってあげよう。特別サービスだ!」
鑑定屋の店主の対応は奇妙だ。と、アラドは思った。
まず彼の額にはなぜか汗が浮き出ている。何か焦ったり動揺しているらしい。
それに、特別サービスなどと言って、値段を変更するのも奇妙だ。
よっぽどこの剣を買い取りたいらしい。
そして何よりも――店主の目は、『たいして価値がない』はずの、古ぼけた剣に釘付けになっていた。
「ちょっと待ちなさいよ。アンタ。その剣が30Gなワケないでしょ!?」
アーリンもアラドと同じ結論に至ったらしい。
声を荒げて、店主に怒鳴りつける。
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと鑑定しなさいよ。そうしないと、この店燃やすわよ!?」
アーリンは手に火球を発生させると、店主の顔にそれを近づけた。
「ひっ、ひぃっ!? わ、わかりましよ」
そしてようやく、店主は古ぼけた剣を認識の辞書の空白ページに押し付けた。
「あ」
「え」
「うそ」
アラド達三人は、その空白ページに浮かび上がった文字を見て、間抜けな声を漏らしてしまった。
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古の名もなき剣
レアリティ:最高品質
タイプ:片手
重さ:普通
効果:何者かの強い祝福により、全ての基本ステータスが1ランク上昇する
武器攻撃力:280
遠い昔、最終戦争よりも以前に造られた剣。
造られた当時は神話等級相当の価値があったが、あまりにも長い時間により劣化し、今となっては誰もその武器の名前すら知らない。
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