15話 最奥へと
ゴブリンの洞窟を、三人は順調に進んでいった。
危惧していたCランクモンスターの出現も、最初に出くわしたゴブリンジェネラル以外には出現することもなく、順調に道を進んでいく。
道中で3個の宝箱を発見し、その他雑魚敵との遭遇しつつも、危うげなく3人は最奥へとたどり着いた。
「……あいつがボス。だよね」
「間違いないな。でかい宝箱もあるし」
「あれって……王様かな?」
ダンジョンの最奥は、ドーム状の開けた空間になっていた。
その中央には、背の高い玉座があり、椅子には貫禄のあるゴブリンが座っている。
「あれはゴブリンキングだな。C+ランクのモンスターだ」
ハンドブックを見ずに、アラドが説明をする。
ゴブリンキング。文字通り、ゴブリンの王様だった。
「C+ってことは、さっきのジェネラルよりも少し強い程度ってこと? なら大したことはなさそうね」
アーリンは余裕たっぷりに前に一歩踏み出す。
「俺とミーシャが前に出る。
アーリンは絶対に前に出るな」
しかし、アラドはそんな彼女を抑えた。
アーリンは耐久力が3人の中で図抜けて低い。
万が一にでも攻撃を受ければ、それで終わりかもしれない。
無駄に油断して、陣形をくずすような真似は避けたいところ。
「……ゴブウゥ」
アラドとミーシャが前に出たところで、ゴブリンキングもわずかに身体を動かした。
ようやく敵の侵入に気づいたらしい。
「『……雑魚か』だってさ」
ミーシャがゴブリンキングの言葉を伝える。
普段なら、アラドも反論したかもしれないが、ボスを前にしてそんな愚行は侵さない。
先程、ゴブリンジェネラルを相手にした時とは、まるで空気の重みが違うことに、3人が気づいていたからだった。
緊張した空気。張り詰めていた。
それは王の風格だった。
例え、ゴブリンという低俗な魔物だとしても、一族を統べる存在ともなれば、ただの雑魚とは違っている。
「……」
アラドも、先程までのように突っ走って攻撃を仕掛けることはない。
そして、
「ゴォオオオオ!」
ゴブリンキングが咆哮をあげて、立ち上がった。
すると、ゴブリンジェネラルが仲間を呼んだ時と同じように、地面に魔法陣が浮かび上がり、4体の魔物がそこに現れた。
「えっ……嘘でしょ!?」
王の召喚に応じた魔物たちは、鎧に身を包んだゴブリン。ゴブリンジェネラルだった。
「「ゴブゥ! ゴブグルゴブゥ!」」
そしてゴブリンジェネラル達が改めて召喚魔法を行使。
それによって、5体✕4=20体のゴブリン達が小さなドーム状の空間に出現した。
「やばいぞ」
先程までは、無駄に広いだけの空間に感じられたこの場所も、今は敵の大群のせいで、狭くて暑苦しく変わっている。
3人は、この状況が非常にまずいことを、察知していた。
「ゴブリンキングの『仲間呼び』のクールタイムは90秒。ゴブリンジェネラルも同じだ」
「つまり、90秒後にはまた一気に数が増えるってわけね」
「そうだ」
「ど、どうしよう。逃げる?」
ミーシャはこのダンジョンに入ってから一貫して同じ主張、逃走を提案し続けていたが、今現在においては、彼女の意見が最もベターだということに、2人は理解した。
それ以上の会話もなく、3人はすぐに後ろを振り向いた。が。
「……そうか。しまった……」
出口へと通じる道は、金属製の巨大な落とし格子によって閉ざされていた。
『ダンジョンのボス部屋に入ると、入り口が閉ざされ、脱出不能になる』
それは冒険者なら誰もが知る常識だった。
そうなった時、ボス部屋から脱出するにはボスモンスターを撃破するか、あるいはなんとかして壁や扉を破壊して抜け出すしかない。
「アーリン。あの鉄格子は壊せそうか?」
当然、アラドはアーリンに質問する。
「あー、ゴメン」
アーリンは手をあわせて頭を下げた。
「無理じゃないとはおもうけど………多分、今それだけの威力の魔法を使うと、気絶しちゃうかも」
3人が相談している間にも、魔物たちは徐々に距離を詰めてきていた。
敵の数はほとんど無数に見えるほど多く、ゴブリンキングの姿はもはや見えなくなっている。
「やるしかなさそうだ」
アラドが一歩前に出る。
「出来ることを、全部やるぞ」
覚悟を決めてしまえば、それほど恐れるべきものもない。
あとは何をするべきなのかを考えるだけ。
「ミーシャ。お前はまだ魔法は全然使ってないよな?」
「うん」
「思いっきりやってくれ。なるべく早く、多くを倒さないと敵は復活するからな。
一撃でなるべく数を減らすんだ」
「分かった」
そう言って、ミーシャは『アランの薪』を抜いた。
彼女が使えるのは地獄魔法と神聖魔法の2種類。
そして、彼女が戦闘時に使用する地獄魔法とは、ある種の召喚魔法といえる。
彼女が利用するのは、地獄における刑罰の力。
本来なら、地獄に堕ちた悪人たちに振る舞われるその力を、聖アランの許しによって現世に召喚する技だった。
「地獄第三階層:刑罰の鎌」
ミーシャの手に握られた『アランの薪』に、青くて巨大な炎が纏われた。
炎はまるで巨大な鎌首のような形に変形し、剣はまさしく死神の鎌のようになった。
「二人共、避けてね!」
ミーシャが叫ぶ。
アランとアーリンの二人がその場にしゃがむと、ミーシャはその巨大な炎の鎌をふるった。
ドーム状の空間に居た魔物たちは、一匹の例外無く、攻撃をまともにくらった。
Dランク以下の魔物達はその攻撃に耐えきれず絶命し、ゴブリンジェネラルが呼び出した魔物達は一撃で全滅。
残ったのは傷を負ったゴブリンジェネラル4匹と、やや不機嫌そうな顔をしたゴブリンキング。
「うぅ……限界……」
ただし、強大な力を行使した代償か、ミーシャはその場に倒れてしまった。
「よし。見やすくなった!」
アーリンは笑い、そして魔法を唱えた。
「ファイアブレス!」
先程ジェネラルを倒した中級魔法を、再び唱える。
ミーシャの攻撃で弱っていたジェネラル達は火炎の波に飲み込まれて、絶命した。
……しかし。
「くうっ」
アーリンもアーリンで、限界が近かった。
回復アイテムも、休憩も無しで無理を突き通したダンジョン攻略。
アーリンの疲れは既に限界が近づいていた。
「……アラド。不本意だけど、ボスはあんたに任せるから……」
アーリンはふらつく頭で、アラドに向かって最後の魔法を唱える。
「『シールド』『ヘイスト』『マッスル』……」
三種類の肉体強化魔法。
それを唱え終わると同時に、アーリンの精神力は限界を迎え、その場に昏倒した。
「……分かった」
アラドは言う。
そして考える。
もしもこの状況で再び召喚魔法を唱えられれば、勝ち目はゼロ。
パーティは全滅確定。
――時間の猶予はないな。
アラドは覚悟を決めて前に出る。
アーリンの置き土産のおかげで、体の調子は絶好調ではあるものの……果たして、ボス相手に一人で勝ち目はあるのだろうか?
「悩んでる場合じゃねぇ。やるしか無いんだ」
アラドは首を振って覚悟を決める。
今、ここで負ければ、自分の腕を奪った人間に復讐することも、両親の仇を見つけることもできない。
それになにより、自分の命よりも大切な二人の仲間を失うことになる。
アラドは首にかけたネックレスを一度強く握りしめ、覚悟を決めて前に出た。
「うぉおおおおおおッ!」
アラドが持つグレートソードは、かなりの重量を誇る大剣。
本来、片腕であれば筋力がB+程度はなければ使うのは困難で、やや筋力が足りていないアラドは、剣に振り回されるような格好になってしまう。
が、アーリンのエンハンス呪文のおかげで、今はその剣も片腕で十分に扱える。
加速しているアラドは前に進み、そして一騎打ちを仕掛ける。
一撃。アラドはまずゴブリンキングの脚の健を切った。
二撃。バランスを崩したゴブリンキングは膝をつき、彼の脇腹を突き刺すように。
三撃。血の混じった絶叫をあげるゴブリンキングの頭部に登ると、串刺しにするように剣を垂直に突き下ろした。




