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不思議の国のダレカ  作者: なちも


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15 女王の招待状12 お茶会Ⅱ

言われて初めて自分に呼ばれる理由がないことに気づく。

確かにおかしな話だ。招待状など来るはずがなかった。

でも、夢ならあり得るのだろうと思ったのも確かだ。むしろ、城から招待状なんて夢らしいと思いさえして、疑いもしなかった。


(だって、招待状が…)


確かに自分あてだったと考えて、ハッとしてドレスのポケットを探る。

しかし、確かに招待状だったはずのそれは、女がつかみ出した時にはすっかり純白の鳩になってしまっていて、呆気にとられている間に軽やかに羽を広げ力の抜けた手の中から飛び去ってしまった。


「やだっ! 嘘」


待ってと慌てて手を伸ばしたが、捕まえることはかなわない。

思わず立ち上がった衝撃で茶器がガチャンと派手な音を立てたのに気を取られたその間に、あっという間にバルコニーからその白が遠ざかり、見えなくなった。

伝書鳩が手紙になるのか、手紙が鳩になったのか。いずれにしろ、今確かめたくない事実だった。


呆然と見送り、途方にくれる。


女王は鳩を追って立ち上がった女にきょとんと目を丸め、不思議そうに首を傾けた。


「あれにまだなんぞ用があったのか? 書状は御前に宛てられ、御前はすでに来賓としてこの場に座った。あれの役目はすでに果たされておると思うたが…?」

「いえ、ですが、あの、私、間違えてこちらに来てしまったみたいで…」


招かれたのは双子の方で、もしかしたら宛名を見間違えたかもしれない。

顔から火が出そうな、いたたまれない思いで「すみません」と謝る様子に、女王はますます首をひねる。


「何を惑う? 招待状を受け取ったのであろう? であれば、客として選ばれたのは御前に他ならぬ」

「ですが、女王陛下は、私をご存知ないとおっしゃったと思うのですが…」

「然様。書状に招かれた客を我が知らぬは道理。御前も我を知らなかったはずだが? その御前を我が知るはずはあるまい?」


それがどうしたと言わんばかりに胡乱げに眉をひそめた女王に、女はやっぱりと肩を落とす。


間違えたのだ。


人間の郵便局員ですら、稀には間違う。

ましてや鳩だ。間違うこともあるだろう。


しかし、女王は「あり得ぬ仮定だ」と一笑に付した。

その後で、いやと首をひねる。


「御前の世界では起こり得るのか? 招くべきを違い、招かざるものを招くなど、我が国においては書状の風上にもおけぬ不届きな所業だが…」

「それは…ごく稀には」


住所変更が出されてないとか、記載住所の誤りだとか、誤配など、滅多にないが稀にはある。


「俄かには信じがたいことだな。どうだ? 兎」


不信げに名を呼ばれた白兎が「偽りございません」と女の代わりに頷いて、女王はようやく納得したようだった。

「そうか」と頷き、思案げに顎をなでる。


「そのようなことが起こり得るとは、御前の世界はさぞや不便であろうな。書状が誤るなど。是正が必要なのではないか?」


何と答えたものか返事に窮する女に、「まあ良い」と肩をすくめる。


「我が国において、書状は一通たりとて違うことはない。ましてや、あれは城の書状。あれが招くは城の客。城の客は我の客ぞ。来賓を違うなど、到底あり得ぬことと心得よ」

「だが、それ故、御前は我の客に相違ない」


お座りと鷹揚にうながされて、女は中途半端に浮かせたままにしていた腰を再び椅子に落ち着けた。

カラカラに乾いたのどにはほどよく冷めた紅茶が嬉しいが、ますますなぜここにいるのかわからなくなってしまった。


「私はどうしてここへ来たのでしょう?」


途方に暮れて聞かずにいられず尋ねたが、女王の返事は「知らぬな」とにべもない。


「書状が招いたのだ。その由は我が問うべきことよ。我が招いたのであれば答えてもやれようが、我は書状ではない故な」

「改めて問おう。御前は何用で参ったのか?」


問い返されて、女が再び返事に窮したのは、もはや無理からぬことだった。

招待されたと思ったから。首をはねられたくなくて。迎えが来たから。夢だと思って。

どれもがここへ来た理由だが、何の用でと問われたその答えにはならないような気もする。

まごつく女に「答えられぬか」ふむと女王は微笑む。


「では質問を変えよう。御前はここへ来たら何があると思って参ったのだ?」


ここへ来たらーーー?

女は途方に暮れた顔で眉を下げた。


「わかりません」


具体的に何があると考えたわけではなかった。


「ただ、陛下が私をご存知で、だから、女王陛下にお会いすれば、なぜ呼ばれたか教えていただけるものとばかり…」


全部説明がつくのだとしか思っていなかった。

だから、ちっとも気付いてはいなかったが、とにかく行けばどうにかなるとしか考えていなかったのだ。


完全に肩透かしだ。


女王はそうかと頷いた。

でも、そのアルカイックスマイルからは、もう何の感情もくみ取れなかった。

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