第九話 刻限:迫る期限、閉ざされた場所に残る命
第九話「刻限」です。
迫る時間の中、ハルたちは最後の一匹を探します。
小さな命を救うために、彼らが向かう先とは――。
貼り紙の赤い印に、もう一枚、紙が重なった。
テンが読めない文字を、何度も見た。
「形が変わった。たぶん——日付だ」
「いつだ」
ゴロが聞いた。
「わからない。だが、紙が増えるたびに、近づいている気がする」
*
その夜、重機が一台、倉庫の前に止まった。
動いてはいなかった。だが、止まっているだけで、街の匂いが変わった。リンが一番先にそれに気づいた。
「機械の匂いです。嫌な匂い」
「嫌な匂いじゃない」
ジジが言った。
「終わりの匂いだ」
*
ハルは倉庫の中を、隅から隅まで回った。五匹目の匂いは、どこにもなかった。
「中にはいない」
ロクが、ハルの後ろに立っていた。
「中にいないなら、どこだ」
「わからない」
ロクの声が、初めて揺れた。
「五匹目だけ、最初から見つからなかった。運んだ覚えがない」
「運んでいないのか」
「運ぶ前に、いなくなった」
ハルは、その言葉の意味を、しばらく考えた。
*
ユキが、倉庫の裏で足を止めた。
「ここ」
「何かあるのか」
「足が、止まれと言ってる」
今までは、足が「進め」と言っていた。止まれと言うのは、初めてだった。
壁の隙間に、小さな穴があった。子猫一匹がやっと通れる大きさだった。
「ここから、出たのか」
「出た、んじゃない」
ユキが言った。
「閉じ込められた」
*
穴の奥は、配管の隙間だった。狭く、長く、出口が見えなかった。
「入れるのは、子猫だけだ」
クマが言った。
「俺たちでは届かない」
全員が、ユキを見た。ユキも、自分の体を見た。
「私が、入る」
「危ない」
ハルが言った。だが、止める言葉が、それ以上出てこなかった。
「危ないのは、知ってる」
ユキが言った。
「でも、足が、止まれと言ってない」
重機の音が、遠くで一度、低く響いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第九話「刻限」では、ハルたちに残された時間が少しずつ迫ってきました。
見つからない五匹目の子猫。
変化する貼り紙。
そして、ユキが感じ取った小さな違和感。
次回はいよいよ、最後の救出へ向かいます。
引き続き『迷い猫』をよろしくお願いいたします。




