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【連作短編027】 迷い猫 全10話 ―夜の街に、名前のない者たちがいる―  作者: macchao


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第八話 雨:雨が消した匂いが、最後の希望を試す

雨が降ると、これまで頼りにしてきた匂いは消えてしまいます。


手掛かりを失った中で、それでも諦めずに子猫たちを探すハルたち。今回は四匹目との出会い、そして残る一匹への希望を描いたお話です。


よろしくお願いいたします。

 雨が降ると、匂いは消える。


 テンが最初に言った。それだけで、皆が走り出す理由になった。



 ハルは商店街の屋根を伝った。雨の中、足を滑らせながら、声を探した。声は匂いより、雨に強い。


 排水溝の奥で、小さな鳴き声が聞こえた。


「四匹目か」


 覗くと、流れ込む水の中で、子猫が一匹、必死に足をかけていた。


「掴まれ」


 ハルは前足を伸ばした。子猫の方も、伸ばした足が震えていた。一度滑り、もう一度伸ばし、ようやく届いた。


 引き上げたとき、子猫はもう動かなかった。だが、息はあった。



 クマが作った場所に運び込むと、リンが布で水気を拭った。


「大丈夫ですか、もう大丈夫——」


「黙ってやれ」


 ジジが言った。柄にもなく、声が硬かった。


 子猫はしばらく目を開けなかった。皆が黙って見ていた。


 ようやく目を開けたとき、最初に見たのはユキの顔だった。


「……四」


 それだけ言った。


「四番目、ということか」


 ハルが聞くと、子猫は小さく頷いた。



 雨が止んだころ、ロクが現れた。子猫を見て、何も言わなかった。ただ、長く見ていた。


「残り、一匹だ」


 ハルが言うと、ロクは頷いた。


「匂いは」


「雨で流れた」


「足跡は」


「流れた」


 ロクは、それ以上何も言わなかった。だが、今度は逃げなかった。倉庫の方を見たまま、立っていた。



 その夜、ユキが珍しく、ハルに聞いた。


「五番目は、見つかると思う?」


「わからない」


「正直だね」


「正直に言うしかない」


 ユキは少し笑った。子猫らしい笑い方ではなかった。何かを諦めた人間が見せる笑い方に、少し似ていた。


 ハルはそれを、見ないことにした。今は、それでいいと思った。

第八話をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は「雨」を通して、頼りにしていた手掛かりが失われる状況を描きました。それでも声を頼りに命をつなぐ姿と、少しずつ変わっていく仲間たちの関係を書いています。


四匹目は見つかりましたが、残る子猫はあと一匹。物語もいよいよ終盤へ向かっていきます。


次回もお付き合いいただけると嬉しいです。

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