第八話 雨:雨が消した匂いが、最後の希望を試す
雨が降ると、これまで頼りにしてきた匂いは消えてしまいます。
手掛かりを失った中で、それでも諦めずに子猫たちを探すハルたち。今回は四匹目との出会い、そして残る一匹への希望を描いたお話です。
よろしくお願いいたします。
雨が降ると、匂いは消える。
テンが最初に言った。それだけで、皆が走り出す理由になった。
*
ハルは商店街の屋根を伝った。雨の中、足を滑らせながら、声を探した。声は匂いより、雨に強い。
排水溝の奥で、小さな鳴き声が聞こえた。
「四匹目か」
覗くと、流れ込む水の中で、子猫が一匹、必死に足をかけていた。
「掴まれ」
ハルは前足を伸ばした。子猫の方も、伸ばした足が震えていた。一度滑り、もう一度伸ばし、ようやく届いた。
引き上げたとき、子猫はもう動かなかった。だが、息はあった。
*
クマが作った場所に運び込むと、リンが布で水気を拭った。
「大丈夫ですか、もう大丈夫——」
「黙ってやれ」
ジジが言った。柄にもなく、声が硬かった。
子猫はしばらく目を開けなかった。皆が黙って見ていた。
ようやく目を開けたとき、最初に見たのはユキの顔だった。
「……四」
それだけ言った。
「四番目、ということか」
ハルが聞くと、子猫は小さく頷いた。
*
雨が止んだころ、ロクが現れた。子猫を見て、何も言わなかった。ただ、長く見ていた。
「残り、一匹だ」
ハルが言うと、ロクは頷いた。
「匂いは」
「雨で流れた」
「足跡は」
「流れた」
ロクは、それ以上何も言わなかった。だが、今度は逃げなかった。倉庫の方を見たまま、立っていた。
*
その夜、ユキが珍しく、ハルに聞いた。
「五番目は、見つかると思う?」
「わからない」
「正直だね」
「正直に言うしかない」
ユキは少し笑った。子猫らしい笑い方ではなかった。何かを諦めた人間が見せる笑い方に、少し似ていた。
ハルはそれを、見ないことにした。今は、それでいいと思った。
第八話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は「雨」を通して、頼りにしていた手掛かりが失われる状況を描きました。それでも声を頼りに命をつなぐ姿と、少しずつ変わっていく仲間たちの関係を書いています。
四匹目は見つかりましたが、残る子猫はあと一匹。物語もいよいよ終盤へ向かっていきます。
次回もお付き合いいただけると嬉しいです。




