第六話 数:名前を失った子猫たちは、数で呼ばれていた
今回は、新たな子猫との出会いから、「名前を持つこと」の意味が少しずつ見えてきます。
静かな一話ですが、この先につながる大切な回です。
どうぞ最後までお楽しみください。
三匹目は、商店街のアーケードの隙間で見つかった。
見つけたのはリンだった。夜の見回りで、雨どいの裏に隠れているのを聞きつけた。
「鳴き声がしたんです。普通の子猫の鳴き方じゃなかった」
「どう違った」
ハルが聞くと、リンは少し考えた。
「助けを呼ぶ声じゃなくて……数を、数えるみたいな声でした」
*
その子猫は、ユキより少し年上に見えた。耳に同じ欠け、同じ間隔の傷があった。
名前を聞いても、答えなかった。だが、ユキの方を見たとき、何かが動いた。
「お前、知ってる」
ユキが言うと、子猫は小さく頷いた。
「順番、だった」
「順番?」
「一匹目、二匹目、三匹目。そう呼ばれてた」
ハルは、その言い方に何かが引っかかった。
*
集会で、ゴロがそれを聞いて目を細めた。
「番号で呼んでいたのか」
「名前を、付けなかったということだ」
クマが言った。一拍遅れて。
「名前を付けないのは、覚えなくて済むようにするためだ」
「なぜ覚えなくて済むようにする」
ジジが聞いた。誰も、すぐには答えなかった。
長い沈黙のあとで、テンが言った。
「失っても、痛まないようにだ」
*
ハルはロクのところへ行った。今度は、待たずに探しに行った。
「番号で呼んでいたのか」
「呼んでいた」
「お前も、覚えなくて済むようにしたのか」
ロクは初めて、はっきりとハルを見た。
「お前は、覚えていたか。十年前の、あの子の名前を」
ハルは答えられなかった。
「覚えてない。それが答えだ」
ロクは静かに言った。
「だから、俺は番号にした。覚えていないことに、痛みを感じなくて済むように」
*
三匹目の子猫は、結局、自分で名前を選ばなかった。
ユキが「呼びたいときは、呼んでいい」と言うと、ただ頷いた。
その夜、橋の下で三匹が並んで眠った。ハルはその様子を、少し離れた場所から見ていた。
数える、という行為が、今は名前を持たない者たちの間で、唯一の繋がりになっていた。
それでいいのか、ハルにはまだわからなかった。
第六話をお読みいただき、ありがとうございました。
「数」というタイトルには、数えることと、名前を失うことの両方の意味を込めました。
名前がないからこそ生まれる距離と、それでもつながろうとする子猫たちの姿を書いています。
次回も少しずつ過去の出来事が明らかになっていきます。
引き続き『迷い猫』をよろしくお願いいたします。




