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【連作短編027】 迷い猫 全10話 ―夜の街に、名前のない者たちがいる―  作者: macchao


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第四話 餌:償いは言葉ではなく、残された餌に宿る

第四話「餌」です。


今回は、名前を持たない子猫と、それを見守る猫たちの話です。


言葉にできない過去や後悔は、時に小さな行動として表れるのかもしれません。


ハルたちの静かな時間を、どうぞお楽しみください。

 倉庫の子猫は、名前を持っていなかった。


 ユキが聞いても、答えなかった。鳴き方さえ、忘れているようだった。


 ハルは三日続けて、倉庫に通った。魚を一匹ずつ運んだ。何も言わず置いて、何も言わず帰った。


 四日目の朝、骨だけが残っていた。並べ方が、几帳面だった。



「お前がやってるのか」


 集会で、ジジが聞いた。


「ロクのやり方を真似てるなら、意味がわかってやれ」


「意味って何だ」


 ジジは答えなかった。代わりにゴロが言った。


「償いは、聞かれて答えるものじゃない」


 それだけだった。誰も、それ以上は聞かなかった。



 五日目の夜、ハルが倉庫に着くと、ロクがいた。


 今度は逃げなかった。箱の前に座り、ハルが運んできた魚を一瞬だけ見て、また子猫の方を見た。


「お前が、餌をやっていたのか」


「ずっと」


「なぜ」


 ロクは答えなかった。長い沈黙のあとで、ようやく言った。


「この子は、前にもいた子と、同じ模様をしている」


「前の子、というのは」


「お前が、気づかなかった子だ」


 ハルは動かなかった。動けば、何かが崩れる気がした。


「同じ模様、というだけか」


「それだけだ」


 ロクは目を逸らした。


「それだけで、十分だった」



 ユキが倉庫に来たのは、その翌晩だった。


 子猫はユキを見ると、初めて鳴いた。短く、一度だけ。ユキは何も言わず、隣に座った。


「思い出した?」


 ハルが聞くと、ユキは首を振った。


「ううん。でも――この子のことは、知らなくても、隣にいられる」


 それだけで足りる、という言い方だった。ハルはその先を望まなかった。



 帰り道、テンが追いついてきた。


「ロクの匂い、また変わった」


「どう変わった」


「焦りの匂いが、少し減った」


 ハルは黙って歩いた。自分の匂いも、何か変わっているのかもしれない、と思った。確かめる方法はなかった。


 橋の下を通るとき、ハルは足を止めなかった。今までは、必ず一度立ち止まっていた場所だった。


 止まらずに歩けたことに、自分でも少し驚いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第四話「餌」では、ロクの抱えていた過去と、ハルが少しずつ変わっていく姿を描きました。


償いや後悔は、言葉にして伝えることが難しいものです。

けれど、誰かのために何かを続けること、その姿そのものが想いになることもあるのではないかと思います。


名前のない子猫が、これからどんな場所を見つけていくのか。

そして、ハルたちが過去とどう向き合っていくのか。


次回も見守っていただけると嬉しいです。

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