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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第四章 家族の絆
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父の温かさ

 デメナに言われ、ペルセは父を見つめる。


 やはり、マールほどには見えない。まだ初対面で、そこまで親しくないからだろうか。


 クロニオスはデメナを睨みながら、まだ文句を言い続けている。だが、その奥からは確実な揺らぎが見えた。


 温かくて、落ち着く揺らぎだ。

 雰囲気や声こそ怖いが、内側はかなり優しい雰囲気だ。


「…お父さん、私に会いたかった?」


 ペルセの問いに、クロニオスは錆びた機械のような動きで、ゆっくりとペルセの方へ顔を向けた。


 クロニオスは即答できず、しばらく唸り続けている。

 そんなに、難しい質問だったのか。


「クロニオスさん」


 デメナが低い声で、クロニオスを呼ぶ。何だか、笑っていた先ほどとは少し雰囲気が違う。


 ペルセも思わず、デメナの方を見てしまった。その表情は、真面目そのものだった。


「もう、ごまかし続けるのは辞めませんか?私とペルセさんのやり取り、見られてたでしょう?あれを見て、父だから拒む、というのがあり得るとでも?」


 デメナは諭すように、しかし逃さないように言い放つ。声は冷たいが、デメナの奥に見えたのは、クロニオスへの強い願いがこもった感情だった。


 父。

 自分にとっての育ての父は、オーレンだった。それは、間違いない。

 だが、目の前にいる実父も、ちゃんと自分を受け入れてくれる。奥からわずかに覗く感情から、それは伝わってきていた。


 何よりーーー母を受け入れて、父を拒絶する理由なんて、どこにもなかった。


「…お父さん。私…お父さんとも…ううん、『パパ』とも、お話したいよ」


 このパパという言葉も、ハイーラの教えだ。

 それを言われたクロニオスは、完全に固まった。


 しばしの静寂が訪れる。

 それに耐えきれなくなったのか、デメナが静かに噴き出した。


「…客観的に聞くと、破壊力スゴいですよね、その言葉」

「え?…そ、そういうもの?」


 パパとママという言葉。これらは、そんなにスゴい言葉なのか。

 デメナにもクロニオスにも、想像を絶するほどに効いたのは間違いなかったから、実際効果てきめんではあったのだろう。


 クロニオスはなおも固まったまま、動かないでいる。眼前で手を振っても、反応してくれない。


「…やれやれ」


 デメナは呆れたようにため息をつくと、クロニオスの頭を引っ叩いた。

 何だか、ハイーラがマールにやってるような、雑な扱い方と重なる。


 この二人、夫婦として長い付き合いがあるのか。

 それが今の一瞬で、少し見えた気がした。


「ってぇな!?何しやがる!!」

「いつまでフリーズしてるんですか。娘からのお願いですよ、ちゃんと応えてあげてください」


 文句を言うクロニオスに、デメナはため息をつきながら返している。


 クロニオスは舌打ちをすると、改めてペルセの方へ向き直った。その表情は、先程よりもどこか柔らかい。


「…話なんざ、いくらでもしてやる。いくらでも、聞いてやる。だから…もっと、甘えろ」


 クロニオスはそう言いながら、ペルセの頬にそっと、手を添えてきた。


 ーーー大きな手だ。自分の顔を、すっぽり覆ってしまいそうなほどに大きい。オーレンとは大分違う手だが、何だか安心する。


「…クロニオスさん。ペルセさんを、抱っこしてあげては?」

「何でそうなるんだよ」


 デメナが何か思い付いたように、突然言い出した。

 クロニオスはそれに不満気だ。


 抱っこ。

 オーレンからは荷物のように抱えられたことも何回かあるが、抱き上げられた経験は、今までになかった。


 ただ、あんな丸太のような腕を持つクロニオスなら、できそうではある。


 どんな感じなのか、やってみたくはある。


「何で俺が…」

「これは、お父さんにしかできないですよ」


 頭を抱えるクロニオスに、デメナはまだ笑いながら煽っている。


 別に、ペルセも嫌ではなかった。

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