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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第四章 家族の絆
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父・クロニオス

 何か、まずいことでも聞いただろうか。


 デメナは一瞬固まったが、涙を拭きながら、ゆっくりと背後へ視線を向ける。


 やはり、そこには誰もいない。だが、誰かいる気配はする。


「…ペルセさん。なぜ、そこに誰かいる、と?」

「わかんない。けど…何か、裏?っぽいとこに、誰かいるのかなー、って…」


 ペルセとしても、言葉にするのが難しい。

 その場所にいるのは違いないのに、ズレた場所に見えるような、そんな感覚だった。


 それを伝えただけなのだが、デメナは抱擁を解き、立ち上がった。


 あれだけ抱きしめてこられたからか、何だか少し寂しい。あとでもう一度抱きしめてもらおうか。


 そう思ってデメナを見ると、何だか真剣な表情だ。とても、口を挟めるような様子ではない。


「…クロニオスさん。観念したほうが良いのでは?」


 デメナは虚空に向けて、話しかける。

 その瞬間、一瞬空間が歪んだ。


 歪みの奥から、大きな体の男が現れた。

 黒い短髪で、腕が丸太のような、筋肉質な男だ。この男もすーつを着用しているが、何だか引きちぎれそうで心配になる。


 写真で見た時も怖そうだと思ったが、現物はもっと怖い顔だった。


 ペルセは思わず、デメナにくっついた。


「…大丈夫ですよ、ペルセさん。この人、敵ではありませんから」

「ホント…?」


 デメナはペルセの背中へそっと手を回してくる。

 その様子を見て、目の前の大男は顔をしかめていた。


「…この方は、クロニオスさん。私の夫です」

「おっと…?」


 夫。

 それは確か、結婚した相手の男性を示す言葉だったはず。


 デメナによれば、このクロニオスという男がデメナの夫らしい。つまり、結婚した相手、ということだ。


 そんな者が、自分の前になぜ現れたのか。デメナの、母の夫、という情報から導かれる結論は、一つしか思いつかなかった。


「…お父さん!?」


 ペルセは思わず、叫んでしまった。


 何だか、デメナの時よりも実感が湧かない。

 こんな怖い悪魔が、自分の父だと言われて、信じられるだろうか。


 クロニオスは小さく舌打ちをした。


「怖がられてんじゃねぇか」

「あなたは普段から怖いですから。ちょっと笑ってみても良いんじゃないですか?」


 クロニオスの文句に対して、デメナは静かに笑いながら返答している。本当に、夫婦のようだ。


 クロニオスの声も、とても低くて怖かった。

 だが、その奥にある感情が、微かに見えた。


 ーーー温かい。


 その感情は、デメナ以上に抑えつけられているような印象だ。


「お父さん…?」


 ペルセは小さく呼びかける。それに対しクロニオスは呆然としたまま、反応してくれなかった。


 やっぱり、自分には会いたくなかったのだろうか。少し、落ち込む。


「…クロニオスさん、呼んだのに反応されてなくて、落ち込んでますよ」

「あ?…クソッ、お父さん呼びされて反応しきれねぇ…」


 デメナがからかうように、クスクスと笑っている。その横で、クロニオスが気まずそうにしていた。


 クロニオスは渋々、屈んでペルセに視線を合わせる。

 近くで見ると、より怖い。よくよく見ると、顔のあちこちに小さな古傷もある。


 クロニオスは重々しく、口を開いた。


「…お前の父の、クロニオスだ」


 それだけ言うと、黙りこくってしまう。

 父に黙られてしまうと、何を話していいか、ペルセも分からない。


 オロオロしていると、デメナが笑いながら横槍を入れてきた。


「…ペルセさん。クロニオスさんの潜伏が分かったのなら、この人の心の揺らぎも、多分見えるのではないのですか?」

「なっ…!?デメナ、余計なことを…!!」


 クロニオスは必死にデメナを止めようとするが、ペルセの正面からは動けないでいる。だからこそ、じっくりと見ることができた。

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