母の号泣
母親が本音を、ここまで言ってくれたのだ。娘の自分も、本音で話をしよう。
ペルセは密かにそう決心し、ゆっくり口を開いた。
「私さ…心のどこかで、お母さん達が私に会いたくないんじゃないかって、思ってた」
サトゥニアで初めて両親のことを聞かされ、「会わないことを選んだ」ことを知った時に、頭に過ったことだった。
もちろん、サトゥニアは否定してくれたが、疑念はなくならなかった。
「でも、そうじゃなかったんだね…。会いたくて、でも我慢してたんだって、今、分かったよ」
ペルセはそう言いながら、持っていたタオルを握り締める。全身に力を込めてないと、こちらも泣きそうだった。
デメナはペルセの言葉を、一切遮ろうとはしない。むしろ、優しく続きを促してきていた。
これが、母親の安心感なのか。なんだか、マールと同等か、それ以上に落ち着く空気だ。
「お母さんに、直接言いたかった。私を、私として産んでくれて、ありがとう…って」
その一言で、デメナの目から再び、涙がこぼれ始めていた。だがそれでも、デメナはこちらに触れてこようとはしない。
ペルセは、地面に付いているデメナの手に、自分の手を重ねた。
「…私も、会いたかったよ、お母さん。…ううん…」
ペルセは言葉を切ろうとした。
それと同時に、ハイーラから言われたことを思い出す。もし両親に会う機会があったら、ある特定の言葉で呼ぶと喜ぶ、と。
それは、「お母さん」ではない。
もっと短く、幼い言葉だった。
「…ママ」
たった、二文字。
その言葉を、母であるデメナにぶつけてみた。
言われたデメナは、完全に止まっている。口からは、声にならない声しか聞こえてこない。
ペルセは首を傾げながら、母の顔色を伺う。
母親相手なら、ちょっと恥ずかしいことを言っても、問題ないだろうか。マールにすら、言ったことがないおねだりを。
「…ママ…甘えても、いい?」
その言葉の直後、デメナはペルセの背中へ、腕を回してきた。それが、母からの抱擁だと理解するのに、少し時間がかかった。
「ペルセざぁぁぁん…!!」
もはや、母の泣き声は言葉にもなっていない。
しかし、その腕には、もう手放さないと言わんばかりの、強い意志を感じた。
デメナの奥にある感情が、流れ込んでくる。本当に、我慢の限界だったようだ。
少し、苦しくさえある。でも、全く嫌ではなかった。
ペルセは、母の背中に手を回した。
「…ママ…私は、ここにいるよ」
ペルセはそう言った後に、何だか恥ずかしくなった。普通は、逆なのではないだろうか。
だが、デメナにはそんなことを気にする余裕がなさそうだ。嗚咽を漏らしながらも、必死にペルセの名前を呼び続けている。
ペルセは、そんな母の背中を優しく撫でる。
今までは、泣いていたペルセをマールが撫でる、ということが多かった。それを思うと、何だか不思議だった。
母の頭にも触れる。
ペルセと同じ色の髪を、上部で一部束ねている。
触っていて、心地良い。ずっと、撫でていたい。
そんな、どうでもよいことが頭を過る。
母の抱擁が強すぎて、ペルセは逆に少し落ち着いてきた。
それと同時に、何だか違和感を覚える。
デメナの背後に、誰かがいる。
しかし、姿が見えない。でも、確実にいるのは分かる。
「…お母さん、落ち着いた?」
「えぇ。…取り乱してごめんなさい…」
しばらくすると、デメナの泣き声がおさまってきた。しかし、その抱擁を解いてくれなかった。
ペルセは母の背後を指さした。
先ほどから、気になって仕方がないことを聞いてみよう。それだけの、軽い気持ちだった。
「…ねぇ…そこ、誰かいるの?」
そのセリフで、デメナの顔色が変わった。




