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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 第四章 家族の絆
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母の号泣

 母親が本音を、ここまで言ってくれたのだ。娘の自分も、本音で話をしよう。


 ペルセは密かにそう決心し、ゆっくり口を開いた。


「私さ…心のどこかで、お母さん達が私に会いたくないんじゃないかって、思ってた」


 サトゥニアで初めて両親のことを聞かされ、「会わないことを選んだ」ことを知った時に、頭に過ったことだった。

 もちろん、サトゥニアは否定してくれたが、疑念はなくならなかった。


「でも、そうじゃなかったんだね…。会いたくて、でも我慢してたんだって、今、分かったよ」


 ペルセはそう言いながら、持っていたタオルを握り締める。全身に力を込めてないと、こちらも泣きそうだった。


 デメナはペルセの言葉を、一切遮ろうとはしない。むしろ、優しく続きを促してきていた。

 これが、母親の安心感なのか。なんだか、マールと同等か、それ以上に落ち着く空気だ。


「お母さんに、直接言いたかった。私を、私として産んでくれて、ありがとう…って」


 その一言で、デメナの目から再び、涙がこぼれ始めていた。だがそれでも、デメナはこちらに触れてこようとはしない。


 ペルセは、地面に付いているデメナの手に、自分の手を重ねた。


「…私も、会いたかったよ、お母さん。…ううん…」


 ペルセは言葉を切ろうとした。 

 それと同時に、ハイーラから言われたことを思い出す。もし両親に会う機会があったら、ある特定の言葉で呼ぶと喜ぶ、と。


 それは、「お母さん」ではない。

 もっと短く、幼い言葉だった。


「…ママ」


 たった、二文字。

 その言葉を、母であるデメナにぶつけてみた。


 言われたデメナは、完全に止まっている。口からは、声にならない声しか聞こえてこない。


 ペルセは首を傾げながら、母の顔色を伺う。

 母親相手なら、ちょっと恥ずかしいことを言っても、問題ないだろうか。マールにすら、言ったことがないおねだりを。


「…ママ…甘えても、いい?」


 その言葉の直後、デメナはペルセの背中へ、腕を回してきた。それが、母からの抱擁だと理解するのに、少し時間がかかった。


「ペルセざぁぁぁん…!!」


 もはや、母の泣き声は言葉にもなっていない。

 しかし、その腕には、もう手放さないと言わんばかりの、強い意志を感じた。


 デメナの奥にある感情が、流れ込んでくる。本当に、我慢の限界だったようだ。


 少し、苦しくさえある。でも、全く嫌ではなかった。

 ペルセは、母の背中に手を回した。


「…ママ…私は、ここにいるよ」


 ペルセはそう言った後に、何だか恥ずかしくなった。普通は、逆なのではないだろうか。


 だが、デメナにはそんなことを気にする余裕がなさそうだ。嗚咽を漏らしながらも、必死にペルセの名前を呼び続けている。


 ペルセは、そんな母の背中を優しく撫でる。

 今までは、泣いていたペルセをマールが撫でる、ということが多かった。それを思うと、何だか不思議だった。


 母の頭にも触れる。

 ペルセと同じ色の髪を、上部で一部束ねている。

 触っていて、心地良い。ずっと、撫でていたい。


 そんな、どうでもよいことが頭を過る。

 母の抱擁が強すぎて、ペルセは逆に少し落ち着いてきた。


 それと同時に、何だか違和感を覚える。

 デメナの背後に、誰かがいる。


 しかし、姿が見えない。でも、確実にいるのは分かる。


「…お母さん、落ち着いた?」

「えぇ。…取り乱してごめんなさい…」


 しばらくすると、デメナの泣き声がおさまってきた。しかし、その抱擁を解いてくれなかった。


 ペルセは母の背後を指さした。

 先ほどから、気になって仕方がないことを聞いてみよう。それだけの、軽い気持ちだった。


「…ねぇ…そこ、誰かいるの?」


 そのセリフで、デメナの顔色が変わった。

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