サプライズ
今日の鍛錬も、楽しかった。
アモディエナの動きが、前よりもよく見えた気がする。
魔力の扱い方も、何だか最初よりも大分コントロールできてると、アモディエナにも認められた。
とはいえ、あまり長くは動けない。鍛錬の体力は、まだまだ足りない。
疲れて鍛錬場の椅子に寄りかかっていると、頬に冷たい感触がした。
「ひゃっ…」
「疲れただろう。飲みな」
視線を向けると、飲み物を持っているアモディエナの姿があった。汗を拭いながら、その飲み物を受け取り、口へと運ぶ。
ーーー冷たくて、美味しい。
ペルセにとってはこれが、鍛錬後の小さな楽しみでもあった。
ふと、アモディエナに目を向ける。
何だか、今日は少しいつもと様子が違う。
言葉にするのは難しいのだが、アモディエナの奥の方に、何だか落ち着かなさがあるような気がする。
そして、やけに時間を気にしている。
一体、何なのだろうか。
ペルセは飲み物を飲みながら、首を傾げた。
「…入りますよ、アモディエナさん」
すると、入り口の方から、女性の声が聞こえてきた。
どこかで、聞いたような覚えがある。だが、思い出せない。
「…やっと、ですかね」
その声に、アモディエナが待ち侘びたかのように呟いた。もしかして、この声の主が来るのを待っていたのか。
不思議に思いながら見ていると、入り口の扉が開いた。
そこにいた者の顔を見て、ペルセは止まった。
「…えっ?」
一瞬、自分の顔が鏡に映ったのかと思った。
しかし、自分は今、間違いなくアモディエナの隣にいる。顔だけが、向こうへ行ってしまったのか。
そう思ってしまうほど、扉の向こうにいた女性の顔は、自分に似ていた。
「…ペルセ、紹介するぞ。この方は、デメナ。お前の…母親だ」
アモディエナが若干言いにくそうに、女性を紹介してくる。
デメナ。
そういえば、最初にサトゥニアに来た時、母親の名前を聞き、写真を見せられた記憶がある。
あの写真の人物が、今、目の前にいるのか。
なんだか、実感が湧かない。
しかし、これだけ似ているのならば、母娘と言われても不思議と納得はいく。
目の前にいるデメナは、こちらを見て、今にも泣きそうな表情をしていた。
「…お母さん…なの…?」
そんな表情を見て、やっとのことでペルセの口から出た言葉は、それだけだった。
にも関わらず、デメナは震えながら、こちらにゆっくりと近付いてくる。
「…ペルセさん…?ペルセさん…」
ペルセの前に来ると、デメナは膝をついて、ペルセに視線を合わせた。
近くで見ると、本当に自分とそっくりな顔だ。髪の色も、自分と同じである。とはいえ、体つきはさすがに大人な女性だ。
その体つきを余すことなく披露する、ちょっとセクシーな上半身の衣装とズボンという、動きやすそうな格好だ。
何だか、ハイーラが羨ましがりそうな体付きだ。
そんなどうでもいいことを考えていると、デメナは手を地面について、泣き始めた。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
その声は弱々しく、なんとか絞り出したような、掠れた声だった。
何に対して謝っているのか。何で、自分に謝るのか。全く、分からない。
「あなたが辛い時に、支えられなかったのに…!母のケジメとして…もう会わないつもりだったのに…ッ!もう、我慢ができなくて…!!」
デメナが何か言っている。でも、ペルセには、その内容を完全には理解できなかった。
だが、デメナが母として決めたことを曲げてまで、自分に会いに来たことは理解できた。
ペルセは上下する母の肩に、そっと手を添えた。
「…お母さん」
優しくそう呼ぶと、デメナは顔を上げる。
涙と鼻水が交じって、酷い顔になっている。汗を拭くためにもらって、まだ使っていなかったタオルを、デメナの顔に押し当てる。
以前、マールに自分の泣き顔を拭かれたように、優しく拭き取っていく。何だか、自分の親の涙を拭くのは、不思議な感覚だった。
「本音が聞けて、良かった」
「…え?」
ペルセはタオルを顔から離すと同時に、安堵のため息を吐いた。




