アンドレイスへの刑罰
「…まぁ、この話は本題ではないので、機会があればまた行わせていただきますわ」
イアノはそう言いながら、資料をめくる。
数枚めくり、とあるページで手を止めた。
そこに載っていた写真を見て、ペルセの顔が青くなった。
「…こ、れ…!!?」
そこには、アンドレイスの顔写真が掲載されていた。
ペルセを二度に渡って、理不尽に襲った、忌まわしい男の顔。
ペルセの顔が恐怖に染まるのも無理はない。
「大丈夫。…大丈夫だよ〜、ペルセ〜」
膝の上で震え始めたペルセの頭を、マールが優しく撫でている。
ーーー本当に、こういうところはマールに敵わない。マールには、天然の癒やし作用があるのかもしれない。
「…ペルセちゃん、あなたを傷付けた悪い奴は、もう捕まったのよ。あの時、サトゥニアの尋問室で、見たでしょう?」
ハイーラは震えるペルセに、優しく声をかける。
あの時、デメナに完全に無力化されたアンドレイスの姿を、ペルセも見ていたはずだ。
もっとも、そんな程度でトラウマが和らぐはずもないだろうが。
「わ、分かって、る…でも、やっぱり…」
ペルセは震えながら、マールにより強くくっつく。マールは困ったように苦笑しているだけだった。
イアノはペルセの怯えを知ってか知らずか、話を進め始めた。
「この、アンドレイスという男。何をしたかなど、今更説明するまでもありませんわね」
先程キーアの罪状については列挙された。だが、アンドレイスの罪状については、その場にいる全員が知っていた。
偏った思考に基づく、ダスノム区画への壊滅的被害及び、その場に住む悪魔達の殺害。そして、ペルセへの二度に渡る殺害未遂。
ハイーラとマールの知る範囲だけでも、かなり不愉快なものだ。思わず、顔をしかめる。
その空気を察したようで、イアノはそのまま話を続けた。
「この男には、5年間に渡るレベル3の幻影刑に処します」
5年間。
犯した罪に対して、期間が短すぎるかもしれない。
だが、刑罰の中身が、とんでもないことであることを、ハイーラは知っていた。
「レベル3の、幻影刑…!?それって…」
「えぇ。ご存知かと思いますが、幻影刑としては最高クラスに重い刑罰ですわ」
戦慄するハイーラとは対照的に、イアノは世間話でもしてるかのように冷静だった。
マールですら、冷や汗をかいている。
ペルセは怯えつつも困惑した様子で、イアノを見つめているだけだった。
「ペルセちゃんに分かるよう説明しますと…。そもそも幻影刑とは、罪人…この場合はアンドレイスですわね、その者のやったことに応じた幻影を見せ続ける刑ですの」
「…やった、こと…?」
イアノは説明を始めた。大分、噛み砕いてくれてはいる。だが、やはり身近なものではないためか、ペルセは首を傾げていた。
「例えば…殺しを行った奴なら、殺される幻を、延々と見せ続けられるってこと」
「ひぃっ…!?」
ハイーラが具体例を出すと、ペルセはその生々しさを理解したようだ。思わず、小さな悲鳴をあげる。
そんなに怯えられても、幻影刑自体、殺害など犯した、かなりの重罪人にしか使われないものなのだ。例え話が恐ろしくなるのも仕方がない。
「もちろん、罪の重さや本人の思考によって、刑の度合いは変わります。今回の場合は最も重いレベル3ですから、映像だけではなく、主観や感触なども、全て感じてもらうことになりますわね」
「か、感触…?ってことは、痛さとかも…」
「えぇ。痛みも苦しみも、本人の感覚として受けてもらうことになりますわね」
「ひぃぃぃ!?」
ーーー完全にペルセが怯えている。アンドレイスではなく、幻影刑の苛烈さに。
とはいえ、レベル3の幻影刑の詳細については、「受けた者は漏れなく精神崩壊する」以上のことは、ハイーラも知らなかった。
ーーーだが、内容を聞いて、納得した。
殺人を犯した者なら、殺される幻を延々と見せられる。しかも、その感触は全部、現実のものとして受けてしまうこととなる。痛みも、苦しみも、全て。
「…そんなのを、5年間も…?」
「えぇ。無論、慣れが来ないように、見せる幻影の中身は、随時変えていきますわ」
ハイーラの口から漏れた質問に、イアノは笑いながら答えた。
噂にしか聞いたことのない、最高クラスの幻影刑。
絶対に処されたくはない。




