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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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マールの公的認知

 静寂。


 止める暇もなかった。

 リリエスはあっという間に出ていってしまった。


 ハイーラは呆然としたまま、リリエスの出ていった後の玄関を見つめる。

 リリエスが出ていく前と、何ら変わらない玄関だ。


「…さて、と。ペルセちゃん、そろそろ降りてくださる?」

「え〜」


 イアノが咳払いをする。

 その声で、ハイーラは我に返り、イアノの方へ視線を向けた。


 イアノは居座り続けていたペルセを、膝の上から下ろしていた。ペルセは若干不満そうにしている。


 しかし、イアノはそんなペルセに、優しく微笑みかける。ペルセはそれを見て、渋々イアノの膝の上から降りた。


 そのまま、ペルセは空いた席に座るものだと思った。だが、ペルセの向かった先は違った。


 ペルセは、マールの席へ行くと、その膝の上に乗ってきた。


「うぉ、っとぉ〜…」


 その勢いに、マールは思わずバランスを崩しそうになる。何とか倒れずに堪えたが、危なそうだ。


 何だか、今日のペルセは甘えん坊だ。

 ーーーちゃんと、ペルセが変わらず子供をやっている。

 それだけで、何だか少し嬉しくなる。


「…マール、大丈夫?」

「ん〜…まぁ、何とかなるよ〜」


 ただ、マールの負担は別だ。

 しかし、ペルセの無邪気な笑顔を見ると、そこに水を差すことが野暮な気がしてしまう。


 マールもあまり気にしておらず、ペルセの肩や頭に手を置いていた。


「…すみません、うちの子が」

「いえいえ、お気になさらず」


 ペルセの保護者として、イアノに謝罪はしておかなければならない。ハイーラは、頭を下げた。


 しかしイアノは特に気にしてない様子で、むしろ若干嬉しそうに笑っていた。


「さて、本題に入りますわね」


 イアノはそう言いながら、懐から一枚の紙を取り出した。


 そこには、マールの氏名と住所、そして同居人の名前として、自分とペルセの名が記載されていた。


 ーーーこれは、住民票か?

 公的に死亡扱いされたはずの、マールに?


 ハイーラが戸惑っていると、イアノが口を開いた。


「まず、一点目。キーアに改竄されたマールさんの戸籍を、元通りに再現しましたの。住所は、この自宅の住所に設定させていただいておりますわ」


 その言葉に、ハイーラの胸と、目頭が熱くなる。

 公的にも、マールの存在が、ようやく戻された。その事実が、どうしようもなく嬉しかった。


「マールさん、ここに住めるの!?」

「…そうみたいだね〜」


 マールの膝の上にいるペルセが、その中ではしゃいでいる。

 それに対するマールの反応が、若干鈍い。マールもやはり、事実を遅れて実感しているのだろうか。


 ペルセの反応で、これが現実だと認識できる。

 ーーーちゃんと、マールがアスティアノで、堂々と生きられる。


 ハイーラは震える手で、自身の口を覆っていた。今にも、泣きそうだ。


「やった!!これでマールさんと一緒だ!!」

「おぅっ…」


 ペルセは勢いのまま、マールにくっついた。

 勢いが強すぎて、マールが椅子ごと倒れそうになる。咄嗟にハイーラが背もたれを支えて、事なきを得たが、危なかった。


「ったく…」


 それを見て、何だか泣く気もなくなった。しかし、その目尻から、一筋の涙が流れ落ちる感覚も、確かにあった。


 もう、遥々ベリアスまで食事を持っていったりする必要もない。

 何より、マールとずっと一緒にいられる。それが、たまらなく嬉しい。


「…ベリアスの家、どうしようか〜」

「あそこ、元々廃屋でしょ?私も手伝うから、掃除だけして、全部元通りにするわよ」


 だが、現実として、その問題はあった。

 マールがベリアスで暮らすのに使ってた家は、町外れの捨てられた廃屋だった。異常なまでのズボラさと、アスティアノ由来の魔力を併せ持つマールだからこそ、最低限の暮らしはできただろう。普通なら耐えられない。


「その必要はありませんわ。あの区画、まとめて取り壊して再開発を行うことが決まりましたので」

「…えっ!?」


 イアノはサラッとそう言った。

 あまりに軽く言うものだから、反応が遅れてしまう。


 イアノは別の資料をパラパラとめくり、とあるページをこちらに見せてきた。

 そこには確かに、大きな文字で「ベリアス再開発計画」と書かれていた。


 ーーー本当に、魔界そのものが変わり始めている。

 ハイーラはそれを、強く実感した。

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