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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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二人の淫魔の、違う優しさ

 リリエスと子供達の姿は、その場にはない。

 それでも、ハイーラはじっと、リリエス達のいた空間を見つめていた。


 なぜだか、目が離せない。


「…遅くなっちゃいましたわね」


 イアノは懐中時計を見ながら、ポツリと呟いた。

 周りにある時計を見てみると、確かにもういい時間だ。子供が寝てしまっていてもおかしくはない。


 留守とマールの世話を任せたペルセが、寝落ちしてしまうかもしれない。


 早く、帰らなければ。


「…もしこの後お時間ありましたら軽くお茶でも、と思いましたが…その様子だと、難しそうですわね」

「あっ…いえ…」


 懐中時計から目を外したイアノが、悪戯っぽくクスクス笑っている。何だか気まずくなり、視線を反らした。


「…アナタのような優しい方、なかなかいるものではありませんわ」

「えっ…?」


 自分が、優しいと。イアノは今、そう言ったのか。

 訳が分からず、呆然とイアノを見つめる。


「今回の一件、本来ならば当事者であるマールさんが怒って然るべきことですのに、当人以上にアナタが怒っていた。それだけでも、十分ですの」


 違う。

 マールが怒らないから、自分が代わりに怒っただけだ。自分が怒らなければ、あの一家に、誰が怒りをぶつけるのか。


 優しさではない。感情の代行をしただけだ。

 それなのに、そのように言われるのは、どうにもむず痒い。


「そこに加えて、子供への…あの、扱い方も。ペルセさんにもきっと、その優しさが伝わったのでしょうね。だからこそ、心を開いた」


 イアノの声は、ずっと穏やかだ。


 子どものことも、自分はイアノについていっただけだ。あんな子供に厳しく接することなど、到底できなかった。

 ペルセのことについても、マールが連れてきた子供だったから、丁寧な世話をしたに過ぎない。


 全部、イアノの買いかぶりだ。そうとしか、思えなかった。


「多分、アナタはそれを、意図してやっていない。マールさんも恐らく、ペルセさんにとっての癒やし役を、意識してやってるわけではないのでしょう?」


 そこまで言ってもらえるなんて。ハイーラの胸から、熱いものがこみ上げてくる。


 マールのことも、見抜かれている。

 ペルセからマールの話を聞いていたのだろうか。


 確かにマールは、間違いなくペルセの居場所となっている。

 第一発見者である、というだけではない。アイツのことだから、本当に自分の気まぐれで拾ったはずだ。


 だが、結果的にマールは、ペルセを救った。自分も大きな傷を抱えたままで。


「お二人は、互いに良いご友人に恵まれましたわ。その関係、今後も大切にしておいたほうが、良いでしょうね」

「…言われずとも。あのズボラと長く付き合えるのは、私だけです」


 だからこそ、マールは自分が支えなければ壊れてしまう。今回の件でハイーラは余計にそう確信した。


 イアノは静かに微笑むと、懐中時計を懐にしまった。


「…足止めしてしまって申し訳ありませんわ。そんなご友人のところへ、早くお帰りになっては?」


 ハイーラはイアノのその言葉に、小さく頷いた。


 自身の足元に、一方通行の赤い転送陣を引く。行き先は、マール達のいる、自宅だ。


 帰ろう。帰って、今回のことをマールに話さなければ。


「また後日、お伺いしますわ」


 赤い光に包まれる直前、イアノの声が聞こえてきた。しかし、それに応えることもできず、ハイーラの体は完全に光に覆われた。

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