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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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キュエル家当主・リリエス

 子どもたちを連れ、屋敷の外に出た。

 道中、子供達はずっと、忙しなく辺りを見回していた。


 あの部屋の外にある色々なものが、彼らの目を引いていたのか。


 ーーーそういえば、初めてペルセがアスティアノに来た時も、そうだった。


 そう思いながら、ハイーラは子供達を見つめる。

 明るい場所で見てみると、暗くて見えなかった部分がよく見えた。


 骨ばった頬。

 身体に引っかかってるだけの、ブカブカな布。

 不自然に細い足。

 全てが痛ましかった。


「キュエル家の者に、すぐに来るよう申し付けましたから…もう間もなく来るはずですわ」


 イアノはどこからか懐中時計を取り出し、時刻を確認しているようだ。

 その所作1つをとっても、とても上品だ。キーアとの格の違いを、改めて感じる。


 キュエル家の使者でも来るのだろうか。

 せめて、無礼のないようにしなければ。


 ハイーラは無意識のうちに、自身の着ているエプロンドレスのホコリを払ったり、襟元を整えたりしていた。


 すると、前方に青い転送陣が出現した。

 そこには、茨が絡み付いた、五芒星の紋様が刻まれている。


 ーーーキュエル家の家紋だ。

 キュエル家の者が来る。


 ハイーラは思わず、身構えた。


 転送陣が、青白く光を放つ。

 あまりの眩しさに、思わず目を閉じてしまう。


 しかし、それもほんの一瞬だった。


「…お久し振りですわ、リリエス」


 イアノの落ち着いた声が、聞こえてくる。


 今、リリエスと言っただろうか。聞き間違いではないのか。


 それは、キュエル家の若き当主の名前だ。だが、いくらゴエティフス家の令嬢とはいえ、そんな相手を呼び出せるのか。


 恐る恐る、目を開く。

 そこにいた姿は、疑いようもないものだった。


 美しく束ねた白銀の髪が、風になびいている。淫魔特有の、露出の多い衣装を着てはいるが、対照的な凛とした顔をしている。


 ーーー間違いない。リリエスだ。

 ハイーラでも、写真でしか見たことのない相手だった。


「こちらこそ、お久しぶりです…イアノ様」


 リリエスはその場で軽く頭を下げた。その低い声は、どこまでも美しい。

 並大抵の者なら、その容姿と声だけで、魅了されてしまうであろう。


「事情はお話した通りですわ」


 イアノはそう言いながら、子供達へ視線を向ける。

 子供達は転送陣から放たれた光によって、目を眩ませてるのか、目を上手く開けられていない。


 だが、言葉を交わさずとも、子供の状態を理解するには十分だったようだ。


「…想像以上に、酷い状態ですね」


 リリエスは険しい表情を浮かべている。

 その表情のまま、ゆっくりとハイーラへ視線を向けた。


「君が、ハイーラですね」

「は、はいっ!!」


 思わず、背筋が伸びる。

 サトゥニアの時のような、絶対的な魔力差ではない。むしろ同族だからこそ、リリエスの魔力の強さが、嫌でも分かってしまう。


「この子供達は、キュエル家で責任持ってお世話させてもらいます」


 リリエスは真っ直ぐにハイーラを見つめている。

 その声は冷静であった。だが、リリエスの言葉は、そこで終わらなかった。


「ここまでのことになってしまったのは、管理できていなかった私の責任です。申し訳ありませんでした」


 リリエスはハイーラの前で、深々と頭を下げた。


 リリエスにそんなことをさせてしまうとは。すぐ止めさせなければ。

 そう思っていても、ハイーラの口は言葉を発してくれなかった。


 ハイーラが唖然としている間に、リリエスは頭を上げた。


「後日、また機会を改めて、直接お詫びに伺います」

「は…はあ…」


 ハイーラの口から出たのは、何とも間の抜けた返事だけだった。


 リリエスはそれだけ言うと、子供達の方へと近付いた。

 子供達は、視界が回復したようで、リリエスを見つめている。


「…お姉さん、誰…?」

「これから君達を、愛する存在です」


 不思議そうに見つめてくる子供に、リリエスは微笑んだ。


 8人もいると、全員をまとめて抱擁、とはいかない。だが、リリエスはそれでも、可能な限り、全員を包み込むように抱き寄せていた。


 足元に再び、転送陣が敷かれている。

 それが、青い光を放ち始めた。


「…リリエス。時間があったら、またお茶でもしましょうか」

「えぇ。ぜひ」


 その一言を最後に、リリエスは光の中へと消えていった。

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