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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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放棄された子供達

 子供達は、虚ろな目をこちらへ向けてくる。自分を観察しているかのようだった。

 見知らぬ大人を、警戒しているのか。しかし、そこに抵抗する意志は感じられない。


 ーーーただ、手だけが震えていた。


 ますます、胸が痛む。この子達は、子供らしい感情を表に出すことすら許されていなかったのか。もしそうなら、ペルセ以上に酷い状況だ。


「…子供のことを心配するあたり、母親としての心はあると思ったのに…」


 ハイーラは子供に聞こえないよう、静かに吐き捨てた。もう、怒りも沸かない。

 ただひたすらに、失望しかなかった。


 だが、それを嘆いていても仕方ない。

 ハイーラは膝をつき、子供達に視線を合わせた。


「…こんにちは」


 そして、柔らかな笑みを浮かべ、子供達に優しく挨拶をした。

 子供達は、そんなハイーラを見て、不思議そうに首を傾げた。


「こん…にち…は…?」


 比較的成長してるように見える子供が、たどたどしく返してくる。しかし、その声は弱々しく、掠れていた。


 あまりにも、可哀想だった。


 可能なら今すぐにでも、目の前の子どもたちにお腹いっぱいお菓子を与えてやりたい。甘やかしてやりたい。そんな衝動に駆られる。


 だが、あいにく手元にお菓子などない。何もしてやれないことが歯痒かった。


「…お姉ちゃん、私達を、どうするの?」


 そんな事を考えていると、子供の一人が声を上げた。

 そこには、警戒も怯えもない。

 …いや、感情が死んでいるようにも聞こえる。


「ここから、出してくれる人を連れてくるわ。…君達は、ここから出たい?」


 しかし、ペルセの時とは違う。自分はあくまでもこの子達の一時的な保護人だ。

 連れ出すとしても、子供達自身の意志を確認せずにはいられなかった。


 何より、ペルセを自分のところに連れてきたマールも、ペルセに強制してはいなかったはずだ。


 いきなりそんなことを聞かれた子供達は、困惑しているようだ。まぁ、無理もないだろう。

 しかし、戸惑いつつも、子供は口をわずかに開いた。


「……暗くて、狭い、この部屋から、出られるの?」


 その言葉に、ハイーラの胸に痛みが走る。子供達の認識が、あまりにも違いすぎる。


 ハイーラの感覚だと、「家」から連れ出す、というものだった。だが、目の前の子供は、「部屋」から出られる、と言ったのだ。


 キーアは、自分や取り巻き達の子供すらも監禁していたのか。ますます、キーアへの嫌悪感が増す。


「私達は、いらない子、じゃないの?」


 別の子供が、続けて言葉を紡ぐ。

 拒絶され続けることが当然で、感覚が麻痺しているようだ。こんな言葉を、これ以上子供に言わせたくはない。


「…予想以上に、酷い有様だったようですわね」


 ハイーラが言葉に詰まっているのを見通していたかのように、イアノがそう言いながら戻ってきた。


 思ったよりも早い。キュエル家への連絡をしてるのではなかったのか。

 そう思いながらイアノを見上げると、イアノはクスクス笑った。


「正確な場所を伝えましたから、キュエル家の者がそう時間をかけずに、ここへ来られますわ」


 イアノはそう言いながら、ハイーラの横に膝をついた。そして、優しい笑みを向けながら、その視線を子供達に向けた。


「この狭い空間から、連れ出して信用できる方と会わせて差し上げますわ。ついてきてくださる?」


 イアノはそう言うと、子供達の前に手を差し出した。

 そこに、恩着せがましさは一切感じられない。


 その場にいた8人の子供達が、イアノの元へ集まってくる。


 しばしの沈黙。やはり、見知らぬ悪魔からこのようなことを言われるのは、警戒もするのだろう。

 建物に吹く隙間風の音だけが、響いていた。


「…本当に、いいの?」

「えぇ。少なくとも、今よりは良い場所に行けますわ」


 何だか、明らかに不審者じみた物言いだ。

 だが、イアノが連絡した先は、あのキュエル家である。少なくとも、今より悪くなることは全くないと断言できる。


 すると、子供達は、イアノが差し出してきた手に、恐る恐る自分達の手を重ねてきた。暗い中でわずかに見えるその手も、細くて不安になってしまう。


「さ、行きましょうか」


 イアノはそれを見て微笑むと、ゆっくりと立ち上がり、歩き出した。

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