罪人の捕縛と、子供の保護
キュエル家。
淫魔の頂点。アスティアノの中でも屈指の名家だ。
ハイーラも同族ゆえ、その名だけは知っていた。だが、関わったことはない。
ましてや、そこに子供を預けるなど、到底、できない場所だ。
一瞬の沈黙。聞こえてくるのは、苦しみ続けるキーア達のうめき声だけだった。
「…キュエル…家…?」
取り巻きの一人が、恐る恐る声をあげる。
現実を認識できないのだろうか。
すると、バルディが口を開いた。
「確かに、それが最も確実ですね。イアノ、お願いできますか?」
「全然大丈夫ですわ。代わりに、バルディはこの者達の連行をお願いできます?」
「お任せください」
バルディの依頼に、イアノは軽く応えた。
バルディは軽くこちらに頭を下げると、呆然としている取り巻き達や、苦しみ続けるキーア達の手に、何も言わず、淡々と拘束具をつけた。
それに抵抗する者は、もはやこの場に存在しなかった。取り巻き達も、素直に拘束された。
「では、こちらについてきてください」
バルディは、キーアや取り巻き達をそのまま連行していった。それにも誰も反発せず、意思を失ったかのようにバルディの言うことに従うのみだった。
ーーーもはや、壊れている。完全なまでに。
ハイーラはその様子を、バルディ達の姿が見えなくなるまで見つめ続けていた。
「…さて、と。私達も動きましょうかね」
イアノはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
その声に、ボケっとしていたハイーラは我に返った。
しかし、この屋敷は広い。子供を探すといっても、どうやって見つけるつもりなのか。
そう思っていると、イアノは迷いなく、軽快な足取りで歩き出した。
「こちらですわ。ついてきてくださる?」
「あ、え、は、はいっ!!」
イアノはハイーラにそう語りかけると、そのまま歩いていった。ハイーラは慌てて、その後をついていく。
イアノの足取りに、全く躊躇が見えない。真っ直ぐだ。
「…イアノさん、子供がどこにいるかが分かってるんですか?」
歩きながら、ハイーラは素直に疑問をぶつけた。
広い屋敷内の子供の存在にも気付いていたイアノの感知は、明らかに異常だ。
イアノは視線を向けることなく、口を開いた。
「直属の上司であるデメナ様との、鍛錬の成果ですわ。あの方ほどではありませんが、生命の気配を強く感じるんですの」
そう言うイアノは、誇らしそうだった。だが、力を誇示しているわけでもない。
イアノがこれだけの感知能力を持つのなら、その師匠であるデメナは、どこまで見えるのか。
そして、その血を引くペルセは、一体どうなるのか。
そう考えると、目の前のイアノが何だか格の違う相手に見えてきた。
「ここにいるようですわ」
イアノはとある扉の前で歩みを止めた。
派手なピンクが目立つ外装の中では珍しい、何の変哲もない簡素な扉だ。
イアノはその扉を、音を立てないようにゆっくりと開けた。
中に子供がいることへの配慮だろうか。
中には灯りがついていない。だが、子どもが複数人いる気配は、はっきりと感じられた。
イアノとハイーラは、自身の魔力を掌から少量放出し、それを光源として部屋を照らした。
ーーーどうやら子供部屋のようだ。子供用の玩具や、赤ん坊用のガラガラ等が散乱している。
そして、そこには8人の、幼い淫魔の子供たちの姿が確認できた。
皆、痩せている。骨が、浮き出ている。その上に、粗末な布が、巻かれているだけだった。
世話など、されていない。
「…ッ…」
思わず、息が詰まる。あのペルセの姿が、重なった。
…直接見たわけではないが、恐らくマールと初めて出会った時のペルセも、こうだったのだろう。その時のマールが、今の自分のような感情を出したとは思えないが。
しかし、よく見てみると、ほとんどの子供はペルセよりも年下に見える。それが、余計に耐え難かった。
「…これは…余計に、ここで保護しなければなりませんわね」
イアノの顔が、わずかに歪んでいる。やはり、この有様に不快感を感じてるようだ。
「少し、子供達をお願いできますか?私、キュエル家に連絡を取りますので」
「…分かりました」
イアノのその頼みを、断るはずもない。
ハイーラは、そのまま子供達を怖がらせないよう、ゆっくり、静かに一歩一歩距離をつめた。




