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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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圧倒的制圧

 一体、何をしたのか。

 本来の淫魔の幻惑は、快楽や欲望の増幅で理性を崩壊させるだけで、苦しめる作用はなかったはずだ。


 にも関わらず、キーア達の上げる悲鳴は、苦痛に染まりきっている。


 対象にならなかった取り巻き達も、のたうち回るキーア達を見てオロオロしている。


「来ないでっ!!来ないで、くだざぃ!!」


 キーアが血反吐を吐きながら、腕を振り回している。何かに追われているのか。しかし、周りには誰もおらず、ただ本人がのたうち回ってるだけだ。


 すると、ピンクの濃霧の中から、混乱を切り裂くように、一つの人影が姿を現す。

 ーーーバルディだ。


「…やれやれ。どういうイタズラを仕掛けられたんです?」


 バルディは、呆れてこそいるが、平然としている。やはり、突入前に中和剤を飲ませたのは正解だった。


「ちょっと魔力を変えて、返しただけですわ。数分で苦痛から解放されますので、問題はないか、と」

「…それをお手軽に行えるのはさすがです」


 ーーーちょっと?

 いや、あの色の変化は、明らかにそんなレベルではない。むしろ、真逆にしてしまってるのではないか、と思ってしまう。


 バルディはすでに、机の上に出しておいた書類も全て回収していたようで、元々持ってきていた茶封筒が、話をする前と同様に、パンパンに戻っていた。


「まぁ、もっとも…」


 イアノはそう言うと、未だ転げ回る取り巻き達を見る。

 皆がそれぞれ、転げ回ったり頭を床に打ち付けていたり、髪を振り乱していたりと様々な反応をしていた。


 これ以上、まだ何かあるというのか。


 ハイーラは戦々恐々としていた。


「…数分で終わるのは、現実世界だけ、ですけどね」

「だろうと思いましたよ」


 現実世界だけ、とはどういうことだろうか。

 バルディは理解しているようだが、ハイーラにはハッキリと分からなかった。


 もしかして、キーア達は何か幻を見せられているのだろうか。だとするなら、今のキーア達の様子は納得できる。

 だが、幻の世界の中での時間と現実の時間をズラす事など、可能なのか。


 ハイーラがそう考えてる間に、バルディがオロオロしている取り巻き達へと静かに近付いていく。


「無論、アナタ方も捕縛対象です。大人しく来られたほうが、身の為か、と」


 バルディは背後で転げ回るキーアを示しながら、冷静に告げる。


 ーーー絶望。その瞬間の取り巻き達の表情を一言で表すのに最適なのは、その言葉だろう。


 でも、それも無理はない。当主を含めた複数人がかりでの幻惑が全く通じないどころか、倍返しにされてしまったのだ。

 そこに勝ち目など、万に一つもなかった。


 取り巻き達は壊れた玩具のように、カクカクと頷くだけだった。


 すると、イアノが再び口を開いた。


「そういえば…アナタ方にも、お子様がいらっしゃるのですわね。この席には同席していないようですが、屋敷内におられる模様で」


 その発言に、取り巻き達がざわついた。

 イアノの様子からして、この場で思いついたような発言ではない。

 だとするなら…一体、どこまで掌握していたのか。


 ハイーラがその場で戦慄していると、イアノは軽く吹き出した。


「そう、硬くならずとも…さすがに私達も、幼きお子様を捕縛、なんてするつもりはありませんわ。マールさんのことや詐欺・贈収賄について、彼女らは無関係ですもの」


 クスクスと笑いながら、イアノは言い切った。

 その言葉に、ハイーラは安堵した。さすがに子供まで、となっては、いくら何でも可哀想過ぎる。


 取巻き達も、同様だったようだ。

 ーーーだが、同時に疑問符がハイーラの頭に浮かぶ。


 仮にここで、母親達を全員連行した場合、子供達はどうするのか。


 何人いるかは分からないが、ハイーラが自分で保護することは難しい。だからといって、イアノ達が保護するのだろうか。

 一時的ならそれでも良いかもしれないが、永続的には無理だ。


「あの…どこで、子供達を保護されるので?」


 ハイーラは恐る恐る尋ねた。それに対し、イアノは少し考え込んでいた。


「そうですわね…」


 イアノは顎に手を添えている。

 ハイーラも取り巻き達も、息を呑んで、イアノの次の言葉を待っていた。


 少しして、イアノがゆっくりと口を開いた。


「最も手早いのは、淫魔の宗家・キュエル家の方に保護していただくこと、ですわね」


 その言葉が、再び場を凍らせた。

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