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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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幻惑と、返却

 今、なんと言ったか。

 「全員を無力化する」、と言ったか。


 もはやキーアは、まともな思考ができなくなってしまったのだろうか。


「キーア様!」

「我々も、協力します!!」


 一部の動ける取り巻き達が前に出てくる。キーアと同じく、今の贅沢な暮らしを壊されるわけにもいかないという判断だろう。その声には、焦りが滲んでいた。


 ーーーそんなことをしても、罪が重くなるだけだというのに。


 キーア達の体から、淫魔特有の、ピンク色の魔力が表に出てくる。だが、自分の使えるものと同系統なのに、明らかに違う。

 濃い。あまりに濃すぎる。不快な甘い匂いが漂ってくる。ハイーラは思わず、鼻をつまんだ。


 どうやら、こちらに強烈な幻惑をかけて、正気を失わせ、記憶を飛ばすつもりらしい。


「さぁ、狂いなさい!!」


 キーアは叫びながら、その魔力をこちらへ思い切り流してくる。しかし、ハイーラの方へは向けられていない。


 ーーーどうやら、自分には幻惑して無力化する価値すら感じていないようだ。自分だけなら、この人数で押し切ることができる、と思ってるのだろう。

 実際、ハイーラ一人ではこの場を制圧することはできない。


 だが、そんなことはハイーラとて織り込み済みだ。バルディに飲ませた中和剤は、淫魔のフェロモンを完全無効化こそできないが、かなり軽減してくれる代物である。


 バルディの方へ目を向けると、もはや魔力による濃霧で覆われてるような状態だった。霧の中で、バルディがどうなっているのかは見えない。


 イアノの方を見ても、同様だった。


「うふふふっ、あはははは!どうでしょう!?同性でも辛い量の幻惑魔力です!私を見下すからこうなるのですよ…!!」


 キーアが勝ち誇ったように高笑いをしている。

 もう勝った気でいるらしい。


 だが、その笑顔も、すぐに崩壊した。


「…やれやれ…手荒な真似は、したくなかったのですが…」


 霧の奥から、イアノの呆れたような声が聞こえてきた。それと同時に、イアノを覆っているピンクの魔力に、異変が生じた。


 魔力が、変色している。ジワジワと、内側から塗り替えられるように。


 ーーー否。塗り替えなどではない。もはや、それは『上書き』に近い。

 かつて、ペルセがアンドレイスとの戦いの中で引き起こした、あの時の魔力災害に似ている。


 だが、目の前で起きていることは、明確にあの時とは違う。規模ではペルセが上だったが、その精度は圧倒的に高い。

 イアノは自らを覆う魔力のみを、正確に青く変化させていた。


「な…!?」


 キーア達が唖然としている。

 振り払われるならまだしも、内側から完全に破壊されるのは、初のことであろう。


 そうこうしてるうちに、イアノを覆っていた魔力が、完全に深い青色に染められてしまった。そこからは、淫魔の魔力特有の、不快臭はしてこない。


 これはもはや、別物だ。否が応でも、同じ魔力ではないと、一瞬で分かってしまう。


「この程度で無力化されると思われているのなら、ゴエティフス家も甘く見られたものですわ」


 イアノはその魔力塊を持ち上げ、同時にその姿を確認できた。


 ーーー見えなくなる前と同じ、座ったままの姿だ。まさか、一歩も動いていなかったとでも言うのか。


 キーアは持ち上げられてしまった魔力の塊を見て、口を震わせている。


 一体、どうする気なのだろうか。そう思っていると、イアノは前に出てきた取り巻き達を含め、幻惑魔力をぶつけてきた淫魔の人数を数えた。


「…キーア含めて五人、ですわね。私達を幻惑しようとした、愚か者達は」

「な、なにを…!?」


 狼狽する取り巻き達に呼応するかのように、持ち上げられている青い魔力の塊が、ボコボコ動き出している。

 ここで炸裂させるつもりなのか。そうなったら、ただでは済まない。


 思わずハイーラが身構えると、イアノは優しい笑顔を浮かべた。


「アナタ方の魔力、お返ししますわ。ちょーっとばっかり、元のものとは異なりますけどね」


 イアノがそう言うと、魔力の塊が一瞬にして分散する。

 それらは、相手に逃げる隙すらも与えず、正確無比に、イアノが数えた5人の淫魔達に直撃した。


 それと同時に、キーアの、淫魔達の絶叫が響き渡った。

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