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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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醜悪な信念

 空気が完全に硬直している。

 目の前にいるキーアも、その後ろに控える取り巻き達も、動けずにいた。


 ようやく、こちら側の本気が分かったか。ハイーラは心の中でほくそ笑んだ。


「な…なぜ…ここまで…」

「あなた方のことを、綿密に調査した結果です。隅から隅まで知っていますよ」


 かすれた声でしか言葉を紡げないキーア達に対し、バルディは自身のペースを崩すことなく答える。


 ふと、横にいるイアノに視線を向けた。イアノは、前と変わらない様子でキーア達の様子を眺めているだけだった。


 ハイーラは再びキーアに視線を戻した。今なら、言いたいことを言える。


「…説明しなさいと言われてるでしょ。年を取って、耳が遠くなったのかしら」


 自分でも驚くほど、ハイーラの口は冷たい暴言を紡いだ。だが、それがキーアの顔を歪ませた。


「…俗な小娘風情で…!!」


 顔が、口元が震えている。

 恐怖ではない。これは、怒りだ。俗な見た目で見下していた相手から、言い返されたことに対してだろうか。


 だとするなら、相手を侮るにも程がある。


「こんな輩がいるから、私達の『看板』が必要なんです!!」


 キーアは怒りに任せて叫んでいる。しかも、ハイーラを指差している。


 他者を指差して「こんな輩」呼びとは、この期に及んでまだ無礼を重ねるつもりなのか。


 バルディはそれにも動じず、静かに口を開いた。


「…看板、ですか」

「えぇ、そうです!下賤な生まれであろう貴方がたには、分からないかもしれませんがね!」


 キーアは机を叩き、叫びんでいる。後ろの取り巻き達も、うんうん頷いていた。


 やはり、一家揃ってそのような考えか。昔から薄々感じていたので、驚きはしないが…失礼な物言いだ。


「私も、アスティアノの中では中堅家系の生まれです。その『看板』のお話、お聞かせいただけますか?」


 しかし、バルディは敢えて相手の思想を引き出そうとしている。それは、ハイーラにも分かった。


 ーーーこのような相手に慣れているのだろうか。ハイーラは驚いて、バルディを見つめた。


「『看板』があることこそが、成功者の証!その『看板』を保つのに必要なのは、金と才なのです!」


 キーアは嬉々としてバルディへ語り出す。

 そういえば、キーアの根本思想をちゃんと聞いたことはなかった。真面目に聞くと耳が腐りそうで、聞く気もなかったが。


 だが、ハイーラはちゃんと聞いたことを、早くも後悔し始めていた。


「であるから、詐欺も贈収賄も『看板』のためには必要だ、と?」

「えぇ、そうです。そして、マールも、無能の排除も!全て、正しいことなのですよ!」


 バルディの問いに答えたキーアは、そのままの勢いでハイーラを睨みつけてくる。

 その目付きは、昔なら縮み上がっただろう。だが今は、滑稽にすら見える。


「だからこそ…!!マールとか言う能無しに、価値などないのです!!分かりましたか、俗物!?」


 とうとう、ストレートに侮蔑してきた。

 もう、取り繕う気もないのか。


 だが、キーアは言い切って、どこかスッキリしたような様子だった。周りの取り巻きたちは、キーアの演説に小さく拍手を送っていた。


 ーーーあぁ。もう、この家はダメだ。

 ハイーラは改めて、そのことを確認した。


 すると、ずっと静観していたイアノが、顔を伏せながらゆっくりと口を開いた。


「…『看板』を保つのに、金と才能が必要、ですか…」


 その口調は、バルディと同等に冷たいものだった。

 キーアの、取り巻きたちの視線が、イアノに集まる。


「そうですよ?あなたのように、このような場で顔を隠すなど…そのような無礼を働く下等な者には、考えられないでしょうけどね」


 キーアは呆れたようなため息を吐く。

 イアノは顔を伏せたまま、仮面の留め具を外している。


 金属の外れる音が、微かに聞こえる。

 そして、イアノの顔から、仮面が完全に外れた。


 ーーーそれと同時に、イアノは髪をかき上げながら、顔をゆっくりと上げた。


「…驕らないでくださいませ」


 その目はハッキリと、キーアを見つめていた。

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