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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第一部 特別編居場所なき淫魔とそれを支え続けた者
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残酷過ぎる余罪

 やはり、キーアは変わらない。

 この女は、マールにしたことを『善』であると認識している。


 何も悪いことをしていないのだから、裁かれる理由はない、と。本気で、そう思っている。


「…なるほど。これは、あなたにとって悪いことではない、と?」

「えぇ。ただの、能無しへの躾ですから。なぜ、このような話をされるのか…全くもって、理解できません」


 バルディが改めて書類に書かれた内容を指で示しても、キーアは見向きもせず、ただ首を傾げているだけだった。


 すると、キーアは何か閃いたように表情を変えた。


「あぁ…もしかして、あなたも殿方ですから、ここのフェロモンにあてられてしまったのではなくて?」

「はい?」


 いきなり何を言い出すのかと思った。

 確かに、この空間の濃厚なフェロモンは、並大抵の男性を、欲望で支配してしまうだろう。


 だが、バルディには事前に中和剤を飲ませてある。それ以前に、そもそも全くフェロモンによる揺らぎが見えない。


 バルディが何も言わずにいると、キーアは側にいた案内人に何かを囁いていた。

 言葉は聞こえなかったが、会話を終えた案内人はハイーラ達の側に寄ってきた。


「…ここのフェロモンで、主催者の頭が回らず、話が進まないでしょう。お出口へご案内します」


 案内人が、ハイーラの耳元で囁く。

 …どうやら、キーアは自分達にさっさと帰れ、と言いたいらしい。


 呆れたものだ。まだ、話をしてほんの少ししか経っていないというのに。


 対面しているキーアが、変わらない醜悪に見下した笑みを向けてきている。


 ーーーだが、ここで引くわけにはいかない。

 ハイーラには、椅子から立ち上がる気など毛頭なかった。


 案内人は困ってるようだが、そんなのは知らない。


 バルディもイアノも、それは同じなようで、全く動いていなかった。


「お気遣い、感謝します。ですが、問題ございませんよ」


 バルディのその言葉に、キーアの顔がひくついた。思い通りにいかず、苛ついているようだ。


 ーーー本当に、分かりやすい。


 バルディはそのままの流れで、持ってきた茶封筒の中から、追加の資料を取り出す。


「百歩譲って、この件だけなら確かに、家の中での問題として処理することが可能でしょう。ですが、こちらについてはどう説明されますか?」


 バルディはその資料を、キーアの方へ差し出す。それを見たキーアの顔から、初めて笑みが消えた。


 後ろに控える取り巻きの淫魔達も、ザワザワし始めた。


「ベリアスにおける、幻惑能力を悪用した巨額の詐欺・搾取。そして…」


 バルディは淡々と、資料をキーア達に見えるようにしながら読み上げる。


 事前に知らされていたとはいえ、あまりに酷い。

 アスティアノならまだしも、ベリアスならば確かに、淫魔の幻惑は比較的通用するだろう。

 だが、資料に記された金額は、普通に暮らすならば一生食うに困らないほどの、とてつもない金額だった。


 一体、どれだけの被害者がいるのか。もはや、想像もしたくない。

 しかし、その資料には、ハイーラが見たくなくても、被害額や日時等が詳細に記載されており、嫌でも認めざるを得なかった。


 しかし、バルディの話は、まだ続いた。

 眼前のキーアが資料を穴が開くほどに見つめている。それを無視し、静かにページをめくった。


「…それで得た金を、そのまま福祉の者へ握らせた。そして、マールさんへの社会的援助を出させず、逆に余計に追い詰める方向へ誘導したこと。平たく言えば、福祉課への贈収賄ですね」


 バルディの視線が、絶対零度となる。でも、それも無理のない話だ。


 マールは、理不尽に追放され、リンチもされ、投石などもされ、散々に傷付いた。通常なら、そんな者を、社会が放置する、ましてや余計に追い詰めるなどあり得ない。

 しかし、キーアはそれを平然と、金で買収してまで行わせた。ただ、能無しの汚点である、マールを視界から確実に消すためだけに。


 言い訳のしようがない余罪を突き付けられたキーアの顔から、完全に笑みが消えた。むしろ、どんどん顔色が悪くなっていく。


 マールは、ずっと一人で耐え続けていた。最も近くにい続けた自分にすら悲鳴を悟らせずに、たった一人で。

 その事実が、ハイーラの顔を歪ませる。


「この二件について、どう説明されますか?」


 バルディはあくまでも、冷徹さを崩さなかった。


 だが、その質問から、誰一人逃れることはできない。それだけは、その場にいた全員が直感的に分かった。

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