醜き闇と罪
イアノは鼻歌を歌いながら、まるで散歩でもしてるかのような雰囲気で、のんびりと歩いている。
これから向かう場所を分かっているのか。ハイーラは訝しげに、イアノの方を見る。
「ハイーラさん」
そう思っていると、声をかけられる。声のした方を向くと、バルディが封筒の中身の一部を取り出していた。
ーーー重厚な、書類の束だ。一体、どれだけの情報が詰まっているのだろうか。
バルディはその中の一部を、ハイーラに差し出した。
「…これは?」
「おそらく、あなたも知らなかったであろう、マールさんご一家の罪状です」
紙を受け取り、中身を確認してみる。
目を通していくに連れ、ハイーラの顔は、青色に染まっていった。
「…ウソ、でしょ…!?」
言葉が、うまく出てこない。
書類には、ハイーラも知らなかった、マールの親族のとんでもない罪の、言い逃れできない完全な証拠が記されていた。
「…あの連中、ここまでして…!!」
「私も正直、ここまで腐っているものなのかと…」
バルディですらも、かなり引いている。
だが、それも無理はない。書かれていたのは、マールにとっての地獄を、さらに強固なものにしてしまう情報だったからだ。
さらに書類をめくると、別の情報も記されている。
それを見て、再びハイーラは絶句してしまう。
表沙汰になれば、マール一家を根底から破壊してしまうような、そんな情報だ。
「…あなたには事前に、彼らの悪行を共有しておかねばと思いまして」
バルディは言葉を紡げずにいるハイーラに、淡々と声をかける。しかし、あまりの衝撃で、ハイーラは完全に固まってしまってた。
「…むごい…」
「えぇ…。その怒り、私と共に…彼らへ向けましょう」
バルディはそう言うと、ハイーラから書類を回収し、封筒にしまう。
マールの一家が腐ってることは知っていた。まともな倫理観を持ってないことも。
だが、ここまでのことをやってるのなら、もう、同情など不要だ。ハイーラは決意を新たに、歩き出した。
「バルディ」
「はい」
前方を歩いていたイアノが、振り向くことなくバルディを呼ぶ。
バルディは何かを察したかのように、懐から何かを取り出し、イアノに投げ渡した。
イアノはそれを、一瞥すらすることなく受け取った。
後ろから投げられたものを、全く見ずに受け取るとは…。一体、イアノには何が見えてるのか。
イアノの手元に届いたのは、漆黒の仮面だ。舞踏会などでつけるような、目元を隠すタイプのもの。
美しくたなびく黒髪に、黒い仮面。今は背中しか見えないが、それはイアノに相当似合っていそうだと分かる。
だが、なぜそんなものを…。
「バルディ。今回の話は、あなたがメインで進めてくださいませ。私はあくまで、あなたの身辺護衛役です。いいですわね」
「構いませんよ。元々そのつもりでしたから。ただ…」
相変わらずこちらを見向きもしないイアノに対し、バルディは平然とやり取りをしている。これが、普通なのだろうか。
バルディは一瞬、間を置いた。そして、再びゆっくりと口を開く。
「…頃合いを見て、その仮面を外してくださいね」
「えぇ。最高に面白いタイミングで、外させていただきますわ」
イアノはそう言いながら、仮面をつけた顔をこちらへ向ける。やはり、悔しいほどに似合っている。
「…ペルセちゃんのように、制度の穴に落ちた者のために苦しむデメナ様のお顔は、もう見たくありませんわね」
「え?」
イアノは顔を伏せて、何かを呟いた。しかし、その言葉はハイーラに届かなかった。
「さ、そろそろ到着しますよ。準備はよろしいですか?」
そう言っていると、バルディが前に出る。道の突き当たりに、趣味の悪いピンク一色の、大きな屋敷が見えてきた。
ーーー相変わらず、忌々しい場所だ。
ハイーラは自分の頬を叩き、気合を入れた。
「バルディさん」
そのまま呼び鈴を鳴らそうとするバルディを、呼び止めた。




