友のための、決断の一歩
「ハイーラさーん、お客さんだよー」
音を聞いて、台所にいるハイーラを呼ぶ。
ハイーラはエプロンを外しながら、台所から疲れ切った様子で姿を現した。
「こんな時に、誰かしら?」
「バルディさんっぽいよ」
なぜ、そう言えたのか分からない。しかしなぜだか、この気配はバルディであると、謎の確信があった。
「何で、分かるのよ…」
ハイーラは呆れながらも、玄関を開ける。
その先には、予想通りバルディがいた。しかし、その隣に、もう一人女性がいる。
「あ…イアノさん…」
ペルセがサトゥニアに鍛錬のため行く際に、いつもペルセを連れて行ってくれる、優しい女性。
キレイな顔立ちに、清楚な黒髪が肩まで伸びているのが印象的な女性だ。だが、今日は何だか、いつもと印象が違う。
普段は、多少の露出を伴う、少し色気のある服を着ているというのに、今回はかつてマール達が着ていた『すーつ』を着用している。
その表情は、いつもと変わらない。しかし、その優しさの影に、氷のような冷たさを感じた。
「…お疲れのところ申し訳ありません。マールさんの件でお伺いしました」
バルディからそれを言われ、ハイーラは一気に目の色を変えた。
バルディは手元に大きな茶封筒を持っている。
「…随分分厚いですね」
「マールさんの件の調査資料です。あなたがたの言ったことが確認できました」
バルディはハイーラの問いに対し、手にしてる封筒を見た。明らかに、ずっしりしていそうな封筒だ。
「もっとも…あなた達の話していた以上のことも、確認できましたけどね」
「…そう、ですか」
ハイーラは、それ以上何も言えなくなったようだ。
聞いた話だけでもかなり惨いものだったというのに、それ以上があったのか。
「バルディ、時間が迫ってますわ。そろそろ、本題に入らなくていいんですの?」
隣にいるイアノが、口を開いた。いつも通りの、穏やかで綺麗な声だ。しかし、そこには若干の苛立ちが混ざっているようだった。
バルディはその声を聞き、イアノを一瞬見た後、軽く息を吐いた。
「これから、マールさんの実家へと向かいます。共に、来られますか?」
バルディは淡々と、ハイーラに話しかける。
ーーー自分も、行けるのだろうか。そう思い、身を乗り出した。しかし、ペルセの体は自然と止まった。
来てはいけない。
視線も向けられていないのに、イアノからそう言われた気がした。
「…行きます。すぐに」
先程までの、どこか荒れていた雰囲気とは違い、明らかに強い決意の滲んだ声色だった。
「かしこまりました。ついてきてください」
ハイーラの返答を聞いたバルディ達は、そのまま背中を向け、歩き出した。
ハイーラはペルセの方へ顔を向けてきた。
「…ペルセちゃん。少し出かけてくるから、マールを…頼んだわよ」
その顔は、やはり寂しそうだ。マールほど強い叫びではなかったが、ハイーラの方からも、何かを感じる。
歯を食いしばり、必死に耐えている。それだけは、分かった。
「分かった!行ってらっしゃい!!」
あのマールを、今度は自分が世話をする番なのか。そう思うと、何でか分からないが気合が入る。
何より、今のマールを、放ってはおけない。ペルセは、ハイーラの頼みに、強く頷いてみせた。
ハイーラはそのペルセの様子を見て、頬を緩めた。そして、そのまま家を出ていった。




